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部内恋愛はカス!!!  作者: 牧屋へいり


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1/2

1.恋の病と言うくらいだからそれは病気なんです

 思春期における部内恋愛はカスである。

 この鯉山(こいやま)色埜(いの)が中学の3年間で学んだことだ。

 そもそも十代の自由恋愛が上手くいくわけがない。


 ――ええ? でも中学生からずっと付き合って結婚したカップルもいるよ。


 それは外れ値である。外れ値って知ってる? 計算に入れちゃいけない値のことだよ。


 ――試合前に彼女から応援メッセージが来たら気合入るだろ。


 うるせえ、それは運動部の陽キャだけの話だろうが。そもそも、運動部はほとんど男女別だからいいだろう。いいか、俺が話しているのは『文化部』の話だ。文化部。分かる?


 なんだその目は。文化部が部内恋愛を気にするのがおかしいってか? 文化部の男子も女子も恋愛対象にならないだろってか。帰宅部の方がまだましだろって? お前らふざけんな。こちとら真剣に部活やってんだよ。真剣に演劇部やってんだよ。


 真剣だからこそ、部内恋愛はカスとしか思えない。


 まず、気まずい。

 あいつら所構わずいちゃいちゃしている。

 イラッとする。嫉妬ではない。


 あと、別れると部活も辞める。

 辞めない場合はさらに気まずい。

 だいたいどっちかは別の部員と付き合い始めたりする。

 まじでふざけるな。


 1年時に居た同期は男子3名、女子7名の10人。

 それが2年になったときは男子1人、女子5人。

 3年になると男子1人、女子4人になった。

 この男子1人が俺だ。


 まず1年の冬にカップルが出来る。それで男子が1人辞めた。

 親友に片想いの女を取られたからだ。

 正確には親友が片想いの女に落とされた形式だが、どうでもいい。


 で、付き合ってからイチャつきがヤバかった。居心地が悪すぎる。

 カップル派と反カップル派と分断が起きた。ちなみに先輩たちは反カップル派閥。

 当然居心地が悪くなり、部活へ対するモチベーションもなくなりゴッソリ辞める。

 その流れで別れる。別れんなよ。せめて責任もって付き合えよ。なんで女、てめえが部活に残るんだよ。お前以外のお前の仲間全員辞めてんだろ。どんなメンタルしてんだよ、ヤバすぎるだろ。


 ちなみにそいつは最後まで残って卒業した。しかも最後の大会は主演をやってる。なんなん?


 3年になる時に辞めてたやつは別の女子。俺に告白して俺がフッて辞めた。

 いつも放課後「部内恋愛はカス!」って一緒に叫んでいた仲間だと思っていたのに、こいつは俺のことを理解してくれなかったみたいだ。

 いや、本当に理解していなかったのは俺だったのかもしれない。だが、これから3年生になるって時だ。最後の大会に向けて集中したいんだ。恋愛なんてしてられるかよ。


 俺たちが3年になったとき『部内恋愛禁止』の規則が出来た。

 ひとつ、部活内で恋愛することを禁止する。

 ひとつ、部活内で恋バナすることを禁止する。

 ひとつ、部活内で好きなタイプを言うことを禁止する。ポケモンは例外とする。

 ひとつ、部活内で男女が2人きりになることを禁止する。

 ひとつ、部活外で部員と会う場合は4人以上で集うこと。

 この規則は徹底され、俺たちが卒業するまで、部内で恋愛騒動が起きることはなかった。




 そして春。

 つまり、今日この日より、俺は高校生となった。

 県立星旬(せいしゅん)高等学校。

 部活動で高校を選んだと言っても過言ではない。地区大会常勝。県大会もここ数年で何回か出ている。過去には関東大会にも出ているらしい。


 なにより、憧れの野崎先輩が進学した高校だ。

 俺が1年生の時の演劇部部長、野崎未知(みち)先輩だ。俺の進むべき道を示してくれる最高の先輩。


 その先輩がいる学校、いる部活だ。身が引き締まる。


「しっかりせんか!」


 部活動オリエンテーション。新入生が一堂に会し、各部活の紹介を受ける時間。

 どうやら野崎先輩が喋っているらしい。「どうやら」というのは、声と体格でしか判断できないからだ。

 着崩した制服に馬鹿みたいに短いスカート。ピンクの髪色に、手作り感満載の安っぽい鬼のお面。顔を隠しているが、あれは野崎先輩だろう。

 野崎先輩は鬼の面をつけたまま、前に座っている1年生に怒号を飛ばす。怖い。


 1年全員ドン引きである。

 死んでる空気の中に、快活な女子生徒が飛び込んで来た。


「はーい、演劇部ですっ! 演劇部は現在、3年生が2人、2年生が3人で活動しています。木曜と日曜が定休日で、土曜日は午前だけの練習です。来週の月曜日と水曜日に社会科教室で新入生歓迎公演を行います。ぜひ見に来てください。あ、お菓子も用意してまーす」


 野崎先輩は鬼のお面を外さず、肩で息をしている。怖いよ。


 っていうか、待て。週に5日()()練習しないだと?

 常勝校だろ、強豪校だろ、なぜ週7日練習をしないんだ。休みをなぜとる。休んでいる暇があったら演劇をしようや。

 そもそも人数が少なすぎる。部員5人でなにが出来るんだ。

 中学では3学年合わせて20人はいた。だから1年生がスタッフをやり、2年生がチーフをやり、3年生が役者をしていた。1、2年も実力があれば舞台に立てる。

 だが、5人だとスタッフが出来ないではないか。下手くそでも役者が出来てしまうではないか。どういうことだ。


 期待していただけに、気持ちが落ち込んだ。


 どうして、事前に調べなかったのだろうか。

 いや、調べはした。過去の実績だけを調べて満足していた。野崎先輩がいるからと安心してしまった。

 完全に俺が悪い。


「演劇部ってやべーな」


 隣の席に座っている男子が話しかけて来た。こいつ、初対面なのにめちゃくちゃフランクに話しかけて来やがる。このノリ、絶対サッカー部だ。こいつはサッカー部に入部する。


「え、お前マジで演劇部入るの?」

「入るが?」


 入学式の日、クラスで自己紹介するときに俺は演劇部に入ると宣言していた。それをからかっているのだ。


「お前もお面付けてやるの? おお、ロミオーって」


 殺すぞ。


 なぜ俺がジュリエットをやるんだ。しかもその言い方だとジュリエットがロミオを目の前にして言っている感じじゃないか。ジュリエットは窓辺でひとりロミオを想って呟くんだよ。殺すぞ。


「殺すぞ」

「うわっ、こわぁ~」


 しまった、口に出てた。まあいい。この手の男が演劇部に興味を持ったら大変だ。部活内で女子に点数を付けて誰が好みだの、あいつは誰誰に気があるのだの下世話な話をする。絶対する。だから、こいつが演劇に興味を持たないのはありがたいことだ。


 俺はさっさと鞄を持ってクラスを後にする。


 下駄箱で上履きを履き替えている途中、慌ただしく廊下を駆ける女子生徒が視界に入る。

 手に持っているのは電球。白熱灯だ。

 眼鏡にカチューシャ。いかにも陰キャオタクの女子。演劇部だ。


 そうか。来週の月曜に本番だから、稽古も大詰めか。電球は教室で使う照明だろう。


 考えてみれば、新入生歓迎公演まで部活を見に行ってはいけないなんてルールはない。あったとしても聞いてない。罪に問われるわけではないのだ、ならば行こう。


 脱ぎかけた上履きを再び履き直し、階段を上がる。


 社会科教室。窓ガラスは黒い布で塞がれている。これでは中の様子が分からないではないか。


「ねー、今日の発声練習ってー、外でやるー?」

「え。寒い。無理」

「寒くないよっ! もーっポッカポカ! 月曜のこと考えたら熱くなっちゃうよっ!」

「てか。なんで。外」

「そりゃー、1年生に発声を聞かせたいからじゃなーい?」

「だったら早く行かなきゃっ! 1年生帰り始めてるよっ!」

「先輩は? 先輩は外行かないの?」

「未知先輩もー、海兎先輩もー、委員会で遅れるってー」

「じゃ、先輩、待とう」

「先輩来たら通し稽古だよっ! 来るまで基礎練っ! 基礎練っ!」


 扉の向こうから聞こえるドタバタした音。

 これは扉が突然開くぞ。


 ――バンッ! ダダダダダッ!


 ほら。この通り。

 上履きの色は赤。2年生の3人のようだ。俺のことを気にすることなく、階段を下りていく。

 視野が狭い。なぜ気づかない。


 鍵も閉めずに出てって良いのか?

 半開きになった扉から、教室を覗く。



 劇場があった。



 どういうことだ。ここは教室ではないのか。

 客席は木材で階段状に作られており、後ろからでも舞台が見えるようになっている。

 舞台は30センチほど高くなっており、クリーム色の壁が作られている。

 パネルで作られた扉。教室扉だ。教室の中にもう一つ教室がある。


 何よりも照明。

 吊り物バトン代わりに、木材が格子状に天井から下がっており、そこに白熱電球がついている。

 蛍光灯ではこの雰囲気は生み出せない。薄暗い客席と照明が灯された舞台。それは紛れもなく小さな劇場。


 いや。

 いやいやいや。

 この状態で出ていくな。

 せめて電気を消すべきだろ。

 しかしどうやって消せばいいかは分からない。勝手に触って壊しても良くない。


 ――ガチャ。


 扉の開く音、思わず物陰に隠れる。

 なぜ隠れた。堂々としてればいくらでも言い訳が出来ただろう。


 大方、電気を消し忘れたとか、鍵を閉め忘れたとかで戻ってきているはず。すぐに出ていくさ。

 ……鍵閉められたら困るな。


 しかし、一向に動く気配がない。どういうことだ。目的なしに部屋に来る奴がいるか。いるとしたらそれは不審者ではないか。


 音を立てないよう、そっと扉側を見る。廊下の光が逆光となり、顔が分からない。


 彼女は――そう、彼女。髪が長いシルエット、スカートを揺らしながら、吸い込まれるように舞台に立つ。


 は?


 緑の上履き。1年生。

 舞台奥に向かって立っている。顔が分からん。



【 おお ロミオ 】



 息が止まった。

 たった一言、それだけで空気を支配した。

 舞台美術は教室を示しているというのに、彼女の吐息ひとつで、そこがキャピュレット家の屋敷に変わった。



【 あなたは どうしてロミオなの 】

【 どうか その名を 捨ててください  】

【 わたしと 恋を誓ってください 】

【 さうすれば わたしはキャピュレットでなくなります 】



 思わず身体が動いた。

 だが、身を隠していたのが災いして、椅子に膝をぶつける。


 突然の物音に驚いた彼女はこちらを見る。

 やましい気持ちがあるわけでもないのに、俺は咄嗟に隠れた。


 駆け出す音。扉の向こうに彼女は去っていった。


 その後ろ姿を見送りながら、俺は教室を出る。



「ジュリエット……」

「オー、どうしたんだ少年」

「えっ、あっ、お久しぶりです」



 廊下の角から野崎先輩が顔を出す。

 不意を突かれてしどろもどろに返答してしまった。格好悪い。



「夏の大会以来かな。シキが同じ高校で嬉しいよ」

「ありがとうございます……」



 シキとは中学時代のニックネームだ。色埜の「色」を取って「シキ」と呼ばれていた。



「それで、どうしたんだい?」

「あ、えっと、部活、見たくて……あ、でも、誰も居ないですね、ハハ」

「そうかい。誰も居なくて困っただろう。すまないね。ちょうどみんな外で発声練習しているんだ」

「あ、はい」

「見て行くかい?」

「あ……いや。やめときます」



 野崎先輩が驚いたような表情をしてこっちを見ている。

 どうした。そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。



「変わったな。シキ」

「はあ……」

「情熱的な目をしちゃって。どこを見ているんだい」

「えっ?」



 いやどこって。ああ、いや、たしかに、先輩から目を逸らしてたけども。

 どこを見ていたわけでもなく、階段を見ていただけで。

 なんかドキドキするし、熱っぽいし。今日は見学しないで帰った方が良いと思ったんですよ。



「ハハハッ。少年、もしかして無自覚なのかい?」

「なにがですか」

「シキ。君がボクに見せるその瞳は、どう見ても、恋する少年の目だよ」



 は?????????



【県立星旬高等学校】

学年色は1年緑、2年赤、3年青。

1クラス38~40人、1学年8クラス。

学校全体で1,000人弱の生徒が所属している。

部活加入率は80%を越える。

部活に入っている生徒の約80%は運動部に所属。

文化部の内3/4近くが軽音楽部に所属している。

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