壊れた遠隔操作
全部、自動で済んでしまう毎日。
だけど、手を動かすことでしか伝わらないぬくもりがあると思うんです。
これは、そんな“ちょっとだけ不自由な日常”から始まる物語です。
「……ごめん」
彼は、テーブルの上のリモコンを見つめながら言った。
彼女は少し間をおいて、くすっと笑った。
「一緒に……洗っちゃった?」
リモコンは、彼女を操作するためのもの。
朝のカーテンも、音楽の再生も、朝食の準備も。
全部、ワンタッチでできていた。
それが、壊れた。
朝のカーテンは手で開ける。
音楽の再生も、朝食の用意も。
彼は少し不器用に、それをひとつずつやっていく。
「手動モード、なんて久しぶりね」
彼女は優しく笑って言った。
その日から、彼は彼女の代わりに少しだけ頑張ることになった。
おかげで朝は少し早起きになり、夜は少しだけ丁寧になった。
何日かして、彼女は彼にそっと言った。
「……ごめんね。実はね、予備のリモコン、あったんだ」
彼は驚いた顔をした。
彼女は、いたずらっぽく微笑んだ。
「壊れたままでも……良かった……かもね、ふふふ」
彼はその言葉に小さく微笑み、
そっと、カーテンを手で開けた。
「なんでも自動」な毎日の中で、
ふと、手を使うことが愛おしく感じる瞬間があります。
壊れたことで気づくことも、案外多いのかもしれません。
実際に洗濯して壊れてしまったリモコンを見ながら書き上げた一編でした。
読んでくれて、ありがとうございました。
—給料日まで、エアコンはつけっぱなしです—