プロローグ
まだまだ初心者ですので、多めに見ていただければ幸いです_:( _ ́ω`):_
暑い夏の季節が過ぎて、まだ涼しい分類なれど肌寒いと思える風が吹き始めた十月の中旬頃。
まだまだ紅葉の季節には至らない、緑が色濃く残る、とある山の山道にて、片手に地図を開き、もう片手にはカラカラと車輪の鳴るスーツケースを引き下げて、少女が一人歩いてた。
少女の身長は百六十前半程度で、少々大人びた雰囲気を漂わせながらも、顔立ちはまだまだあどけなさの残る中高生辺りに見える。
そんな少女の銀と青の入り混じった長髪は、木々の隙間を抜ける春風に煽られ、はらはらと面を揺らしていた。
歩く姿だけでも切り取って、額縁に納めれば良い絵になりそうな少女の、その華奢な身体には白黒青と彩られた可愛らしいメイド服を着飾っており、細い首元には口元を隠す様にマフラーが巻かれていた。
そうしたトラベラーとしては似つかわしく無く、明らかに山の風景からも浮いている服装の少女は、時折キョロキョロと左右を見渡しては手元の地図と睨めっこする。
傍から見て、どことなく忙しない様子だった。
「地図の通りなら、あと少しの筈ですが…」
そう言って少女が画面から顔を上げると、その先にあるのは未だ終着の見えない、果てしない坂道。その坂道も、昨晩の大雨のせいで満遍なく濡れていて、誤って滑ってしまわないか心配になる。
少女が山道に入って、かれこれ四時間が経った。しかし、未だ人影どころか、目ぼしい建物すら見当たらないのが現状である。
「これほど何も無いと、嘘の情報でも掴まされたのかと疑いたくなります」
雨上がりの湿気に煽られ、自然の匂いがより濃く臭う、そんな深い深い山の中。
少女を取り囲むのは、草花や、虫や鳥と言った自然界の産物。
聞こえるのは浅く乾燥した葉の擦れる音と、遠くに響く野鳥の囀りだけ。
まるで異世界へ至った様にさえ感じさせるほど幻想的に寂れた空間には、人気など感じられ無い。
せいぜい、目に見える人工物は、管理が行き届いていないのだろう旧世代の苔むしたコンクリート道路に、塗装が剥がれてボロボロになった白のガードレール。
それと、今丁度少女の左手に見える熊注意の看板くらいだろう。
「……まぁ、森のくまさんにだけ遭遇しないよう、気を付けましょう」
近くで聞こえた茂みを掻き分ける音に、アイリースはそう心がけて、歩みを再開しようと足を一歩二歩進めた。
丁度、その直後だった。
山の上方から下方にかけての、身体が持ち上げられるような、かなり強めの突風が一気に吹き抜ける。
「……つめたい、です」
昨夜は大のつくほどの大雨だったので、葉に残ってた水滴がそこらに一斉に散らばり、そのせいで盛大に水を被った。
加えて、そのついでと言わんばかりに、突風は少女の脇を吹き抜けては髪を乱して、悪戯してトンズラこく子供みたいにさっさと去ってった。
「……はぁ、全く、傍迷惑な風でしたね」
まさに踏んだり蹴ったりである。少女は濡れた犬みたいに顔を振って水を払うと、その傍迷惑な突風を見送るように、目元を隠す様に垂れてしまった髪を耳にかきあげて、チラリと後ろを振り返って見てみる。
すると、少女も思わぬ内にそこそこ高所まで到ってたのだろう。広域に連なる緑の山岳の向こうには、この日四時間前に居た都市が見えた。
その都市は『スピカ』と呼ばれる『機械都市』だ。
そこに円形に連なる摩天楼は、まるで一つの山にも見えて、建物の隙間から四方八方に伸びる無数の道路は各国を繋ぐ。
建物や、建物間の道路は、全ての人が満足出来る最適解な配置に。
至る所の環境も、問題無い程度に人工的に操作され、完璧に。
機械が発展したあの都市で、単純作業を人がする事はもう無いだろう。
それは計算され尽くされ、利便性の極地に達し、極限まで最適化された世界であり、そして、この少女もまた、この科学の産物である。
そんな一種の芸術の様であるSFファンタジーな機械都市。それを、少女はただ漫然と眺めて。そして、今日一日を振り返って一言。
「これほど技術が発達した世界なのに、何故、私はこれほど不便を被っているのでしょうか…」
徐々に陽が傾き、世界を照らす篝火のような、橙色に染まりつつある機械都市。
それを、少女は首元のマフラーを指で下げて、そして現れた口からチロリと、血色の無い蒼色の口内を覗かせて。
そして、メイド服のスカートの陰から、先端にカードの付いた尻尾状のケーブルを見せて。
少女は……いや、機械少女アイリースは一人、憂鬱を帯びた声で、溜息混じりに呟いた。
今年は忙しいので投稿頻度遅め(´・ω・`)