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天使の火  作者: 鈴雪
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新年あけましておめでとう!

「ほら、それ早く!」

「それこっちこっち!」

「君のは真ん中に置いて!!」

「ねえこれどこ〜?」

 暗い闇の中で幾人もの人間がどたばとと動き回っている。

 そして、しばらくすると音が途切れ……唐突に明るくなった。

 そこには袴や振袖を着込んだ空狐、舞、イヴはいつも通り空狐の頭の上、そして、ノエルとアルト、それから刹那に朱音、さらにハルに竜馬とはやなに香苗、アグニに月狐と銀狐が正座している。

 で、全員が一度大きく息を吸っい、

『新年あけましておめでとうございます!』

 と全員がぴったりのタイミングで丁寧に頭を下げた。

 場所は刹那邸の広めの部屋を襖を外して会場用に広げた部屋。そこに角松や獅子舞が飾られている。そして『2010年おめでとう』の垂れ幕。

 その下にワンポイントとして、さり気なく空狐の『天月』やノエルの『蒼窮』がクロスして飾られている。

 そう、今ここでは新年を祝うための催しがなされるのだ!

「ついに新年だね空狐くん!」

「ですね舞さん」

 うきうき語るのは長く綺麗な黒髪の少女、舞。その横に座っていた少年、空狐も笑う。また新しい一年が始まるのだからうきうきしないわけがない。

「ママ、あけましておめでと〜!」

「うん、あけましておめでとう。アルト」

 綺麗な金色の髪と紅い目の女の子、アルトの新年の挨拶に彼女の母親代わりであるノエルがにっこり笑いながら頭をなでる。若干ノエルの知るアルトよりも背が高いけどそこは華麗にスルーされることとなった。

 それを火きりに各々が「おめでとー」「よろしくー」と新年の挨拶を交し始めた。

 それが一段落したところで即席の壇上に上がった刹那と朱音がマイクを取り出すとみんなが注目する。

 二人はぺこっと頭を下げた。

「え〜、でわ、これより新年合同イベント『あけましておめでとう2010年! 今年もよろしくの会』を開催します!」

 パチパチと全員の拍手が鳴り響く。

「というわけで、まずは空狐アンドノエルによる新年の挨拶です!」

 と突然の朱音の発言に、いきなり振られた二人が狼狽する。

「え……ちょ、ちょっと僕は聞いてないよそんなこと!?」

 いきなり話を振られた灰色の髪と紅い目の少年、空狐が刹那に、

「そ、そうだよ! 挨拶は朱音さんがするはずだったよね。どうなってるの!?」

 アルトと同じ綺麗な長い金色の髪と透き通った瑠璃色の目の女性、ノエルは朱音に詰め寄る。

「まあ、がんばれ。代表」

「がんばってね。代表なんだから」

 二人の返答に涙を流すノエルと空狐。たぶん、なに言ってもスルーされるのは目に見えている。

 諦めてマイクを受け取って台に上がる二人。なんとなく、そのすすけた雰囲気がそっくりだったりするのはご愛嬌。

「え〜、なんかわからないけどいきなり代表を押し付けられた、ノエル・テスタロッサです。新年あけましておめでとうございます」

「木霊空狐です。新年あけましておめでとうございます」

 壇上に上がると気を取り直してペコッと頭を下げる二人。

「昨年は、みなさんいいこと悪いこと色々な出来事がありましたと思います」

 ノエルが朗々と語り、

「ですが、それでも楽しい一年でした。みなさんもそうだと考えています」

 空狐が続く。

「まあ、堅苦しい挨拶は抜きにして……」

 こほんとノエルが咳払いする。

『今日は大いに騒ぎましょう!』

 突然押し付けられた割には息がぴったりな二人だった。

『おーー!!』

 空狐とノエルの言葉に全員が歓声を上げた。さっそく、食事にありついたり、初めてあった相手に自己紹介をしたりなどをしている。それを終えると用意されたご馳走にみんなの箸が伸びる。

 そこに、刹那が冴えない男性を壇上に上げて、

「雪さん今年の目標はなんですか?」

「え~、することはきっちりとできるようにしたいと……」

 と、一年の抱負を言わせていたのだが、みんなぜんぜん注目してなかったりする。

 空狐も好物のいなり寿司を頬張っていたら。

「改めて初めまして木霊空狐くん。アルトの母のノエル・テスタロッサです。いつも娘がお世話になっています」

 と、ノエルが微笑みかけながら空狐に話しかけてきた。彼女の着ているのは薄い水色で要所要所に花の模様があしらわれた振袖で、彼女の柔らかな雰囲気を際立たせている。

 すっと彼女は空狐に手を差し出した。

「あっ、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそお世話になっています」

 差し出された手を握って、ぺこっと頭を下げる空狐。それからお互いにお互いの顔をまじまじと見て、

(なんか他人の気がしない)

 色々とシンパシーを感じていた。会ったばかりではあるが、二人ともベクトルはちょっと違うが、わりと似たような属性をもってるからなのかもしれない。

「どーしたの空狐くん?」

 訝しげに空狐の顔を覗き込む舞。

「いえ、何でもないです」

 被りを振る空狐。変に共感したこと話すのもちょっとあれだなと思ってそう答えたのだが、そこで朱音が、

「もしかして、ノエルに惚れた?」

 ニヤリと笑いながらそんなことをのたまった。

 まあ、空狐には舞がいるわけだからそんなことはないのは朱音もわかっていたが、そこはお約束である。

「えっ! そうなの空狐くん?!」

「ち、違うよ! そんなことないってば!」

 空狐は慌てて朱音の言葉を否定する。確かに綺麗な人だなとか、振袖の下から押し上げている豊かな胸に若干、目が行ってたのは否定できないのだが……

 だが、そこにノエルの親友であるはやなが現れた。

「え〜? 君、ノエルに惚れちゃったの〜?」

 ……その顔はほんのり赤く、息はアルコール臭かった。その手には空になったグラス。そして、その後ろでにやりと笑う月狐。

「ちょ、はやなさんどうしたんだよ?!」

「ん〜、なにがあ?」

 とろんとした表情ではやなは返してからはやなが空狐に向き直る。絶対酔ってるよこの人と、空狐は引いていた。

「空狐君だっけ~? ノエルは止めといた方がいいよ〜。今のところね~、告白した人をみ〜んな振っちゃってるからね〜」

 と面白そうにけらけら笑う。だけど、それからふと思案顔になって、

「あっ、でも~、もしかしたら~ノエルの好みが、実はかわいい系だったからとか? なら君は合格なのかもね〜」

 なんとなく空狐と舞の間にあるものは察してはいるが、からかいたい衝動を抑えもせずに爆弾を投下した。

 少しだけ舞の目の中に、ノエルへの警戒の色が浮かぶ。

「ノエルちゃんってそうだったんだあ」

 香苗が驚いたように目を見開く。なお、彼女は地であるが、煽るような行為になってしまったのはいたしかたない。

「ち、違う! 僕はそもそも……」

 そして、彼女も慌てて否定するが、

「ほ〜ら、ノエル、いっちゃえ〜」

 いつの間にか後ろに回りこんでいたはやなに、後ろからどんと押された。

 バランスを崩し、ノエルは空狐の方に倒れ込む。慌てて支えようとする空狐だったのだが、

『うわっ!?』

 空狐もバランスを崩してしまう。床に倒れる二人。そして、その唇が……


「わーーーー!?」

 僕は慌てて跳ね起きた。そして、そばに置いてあった待機状態の蒼窮をブレード形態に戻し、周りを確認する。

 ゆ、夢? そうか、夢か……

 まあそうだよな。まだ夏の直前。新年はまだ半年先だしな。あー、安心した。だって、男とキスするなんて耐えられん。たとえ女の子みたいな相手だとしても!

「ん〜、ママ……どうしたの~?」

『いかがしましたマスター?』

 一緒に寝ていたアルトが眠そうに目を擦りながら起きてしまった。しまった。起こしちゃった。蒼穹も突然の呼び出しに困惑気味だった。

「ああ、ごめんねアルト、蒼窮。ちょっと変な夢見ちゃっただけだから。もう少し寝てていいよ」

「うんー」

『了解しました』

 僕は蒼窮をペンダントに戻す。それから眠そうなアルトにタオルケットをかけ直して、そっと撫でてあげた。

 にしても……リアルな夢だったなあ。微かだけど最後の感触が唇に残ってるよ。はあ……僕、一応男だったのになあ……もしかして、自分でも気づかなかったけど、そっちの気があったのか?

 そう考えた瞬間、ぶるっと背筋に寒気が走った。うう、いやなこと考えてしまった……


「わきゃあ?!」

 僕は跳ね起きた。耳も尻尾もぴーんと立ってしまっている。慌てて周りを警戒。ここは……僕の部屋? よ、よかったあ。ただの夢かぁ。まあ、よく考えると新年の挨拶なんてまだずっと先だよなあ。

 僕は頭頂部の耳をポリポリかく。

「どうしたのよ空狐、いきなり大声出して」

 パタパタとイヴがベッドの脇の台の上に置いてあるイヴ用のベッド(最近買ったミニチュアのベッド)の上で体を起こして聞いてきた。

「ううん、なんでもない。変な夢を見ただけだから」

 そう応えると途端に興味を無くしたのか、イヴはそうとだけ言ってまたパタンとベッドに潜り込んですやすや寝息を立てながら眠り直す。

 ふう、とため息をついて僕もベッドに潜り込む。

 にしても、おかしな夢だったなあ。明晰夢ってやつか?

 なんか、ノエルさんだったかな? 彼女が倒れこんできた時の柔らかい感触とかしっかり残ってるし、最後のも微かだけど触れるか触れないかほどの……

 考えたら恥ずかしくなってきた。もう寝よ。


 起きるとなんか舞さんの機嫌が悪かった。

 いつも通りに見えるんだけど、長い付き合いから機嫌がわるいのがよくわかる。

 行動の端々でなにかに当たるような行動、特に僕の洗濯物を干すときなんか一瞬破けるんじゃないかとはらはらするぐらいに。

「ま、舞さん? どうしたの?」

 で、ついに朝ごはんを食べてるときに聞いてみた。

 なお、朝ごはんも、舞さんなら目玉焼きも綺麗な満月なはずなのに、無残に崩れ、ご飯もちょっと茶碗からはみ出したりしている。

「ん~? なんのことかなあ?」

 にっこり笑ってるけど、その目は確実に、なんかわからないけど怒ってる? いったいどうしたんだよ舞さん!?

 その日、僕は必要以上に気を使いながら生活することとなってしまったのだった。

2010年あけましておめでとうございます。

今年もどうかよろしくお願いいたします。

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