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道端に捨てられた野良聖女に声かけたら一生付き纏ってくる。~仕方なくバディを組んでみたが全く役に立たないので追放したい~

作者: カニクウ

 なんかいる。

 魔物を討伐しに行く道中、俺は珍しいものを見つけてしまった。

 ボロボロの修道服に痩せ細っている体。その聖女は死んだように眠っている。


 明らかに異常な光景。

 冒険者生活五年目だが、こんな場面に遭遇したのは初めてだ。おそらくこれからの人生でも二度と訪れないだろう。


 声をかけるかどうか一瞬迷ったが結論はすぐに出た。

 無視だ。

 こんな道端で寝ている奴にロクな奴はおらん。起こさぬよう音を立てず、そーっと通り過ぎようとする。


 その時、バカでかい空腹音が聞こえた。

 それはまるで大災害レベルの地鳴り音で、人間の発した音とは思えなかった。どんなに眠りが深い奴でも一発で目が覚めてることだろう。


 恐る恐る寝ていた聖女の方を見ると、パチクリと目を開けてこちらを見ている。

 ……最悪だ。

 こうなった以上、声をかけなければ人としての倫理を捨てることになる。


「なにしてんだお前。そこで寝てると魔物に喰われて死ぬぞ」


 と言っても、まだここは街に近い。

 放置していたとしてもコイツが喰われることはないはずだ。声もかけたし、さっさと立ち去ろう。


「あの、……あの」

「んぁ?」


 足を止めて振り返ると、聖女は懇願するような目で訴えてくる。


「お腹が空きました」



 ◇



「私の名前はオリヴィエ。この街で一番、いいえこの世界で一番の聖女なのです。この度は助けてくれてありがとう。えー……」

「アルドだ」

「ありがとうアルドさん。本当に助かりました。もし貴方が通りかからなかったら私は餓死していました」


 そう言いながら、次々と運ばれてきた料理を休むことなく平らげていく。

 目の前で死にかけている奴を見捨てるほど落ちぶれちゃいない。……だが、それとこれは話が別だ。


「わかっているだろうが、ここのお金は後で建て替えてもらうぞ」

「無理です。だってお金があるならあんな道端で行き倒れてませんから」


 確かに。

 だがこっちも慈善事業じゃない。命がけでお金を稼いで、それで生活をしているんだ。ただで帰すわけにはいかない。


「聖女って言ったよな?」

「はい、多分この街で一番強いです」


 聖女に強さは求めてないが、まあいい。

 丁度よかった。俺は現状ソロで活動をしているが、それだとクリアできるクエストにも限界がある。


「これから俺といくつかクエストをクリアして、その報酬金で今日の代金を返す、これでどうだ」


 我ながらグッドアイデアだ。お金も返って来るし優秀な仲間も手に入る。


「わかりました。そうしましょう」


 満面の笑みを浮かべるオリヴィエを見て、俺は一抹の不安を抱いていた。

 そもそも優秀な聖女であるなら、道端で行き倒れることはない。さらに聖女という役職は人数も多くなく、供給より需要が上回ってる。


 それに言っちゃなんだが、オリヴィエの顔は上の上だ。顔採用しているパーティーにでも入れば衣食住には困らない。

 取り敢えず、一回クエストやってみるか。




 ご飯を食べた後、さっきオリヴィエを見つけた場所まで戻ってきた。


「今はどこに向かってるんです?」

「クエストだよ。お前の実力を試させてもらう」

「あのー私、ちょっと食べ過ぎて動けないんですけど」


 たっぷたぷの突き出たお腹を見せつけ、オリヴィエは首を横に振った。

 ……なんだコイツ、腹立つな。


「大丈夫だ、討伐対象は動きの遅いベアーナックル一体だけだし俺一人で仕留める。お前はテキトーにバフかけてくれればいい」


 いきなり熟練パーティーのような連系ができるわけじゃないし、そんなこと期待もしてない。

 バフや回復の能力を実感して使いモノになるかどうか確認するだけだ。


「なーんだ、それなら簡単ですね」


 元々、このクエストは一人でやる予定だったし万が一が起こっても平気だろう。

 そろそろ指定のポイントに到着する。


「ここですか?」

「ああ。群れからはぐれてここらで暴れているらしい。奴は動きが遅いと言っても体長は三メートル以上あるし、力も強い。掴まれないように気を付けろ」

「あいあいさー」


 手を額に当てて返事をするオリヴィエ。

 余裕かまし過ぎて、もの凄い強者に見えてきた。……どちらにせよ、俺よりも後ろに立たせておけば、オリヴィエが死ぬことはないはずだ。

 その時、ガサガサっと奥の方の茂みで大きなシルエットが見えた。


「来たぞ、バフの用意をしろ」


 振り返ってオリヴィエに指示を送る。


「わかってます。いきま――ぐへぇ」


 とそこまで言ってオリヴィエは転んで頭から地面に落ちた。

 この衝撃音はベアーナックルに聞こえたようで、のしのしとこちらに向かって歩いてくる。


「おい、大丈夫か?」

「えへへ、平気です。それよりバフかかりました?」

「いや掛かってねえよ。今の失敗したんじゃねえのか」

「そんなことないです。私の辞書に失敗という二文字はありませんから」


 ……そう言われれば、なんか力が漲ってくるような気がしないでもない。

 ベアーナックルが俺の目の前に立って睨みつけてくる。俺もガンを飛ばし、ベアーナックルの動きに集中する。


 普段なら動きが止まった瞬間に一撃、二撃とダメージを与えれば勝ったも同然。

 さらに今のバフのかかった状態なら一撃必殺も狙えそうだ。

 集中力を高めて隙を窺う。

 ベアーナックルが大きく拳を振り上げて攻撃モーションに入る。振り上げた腕の脇腹を狙って剣を振るう。


「決まっ……てない」


 俺の剣はベアーナックルの爪先に防がれて逆の手で追撃を食らわそうとしている。

 普段より明らかに動きが早い。

 ギリギリの所で追撃を受け止めてバックステップで距離を取る。

 振り返ってオリヴィエの様子を確認すると、リスさんにエサをあげていた。


「気を付けろ、こいつ相当強いぞ」


 オリヴィエは気怠そうにこちらを見て、ぷぷっと吹き出す。


「あれれ~、アルドさん。せっかく私がバフをかけてあげたのにまだ倒してなかったんですか?」

「うっせえ、想像していたより強かったから面食らっただけだ」

「それなら早く……あれ」


 呑気な様子のオリヴィエだが、何かに気付いたのか動きが止まる。

 そこで俺は一つの可能性が頭を過った。


「もしかして俺じゃなくてベアーナックルにバフかけたのか?」

「……そ、そうみたいですね」

「そうみたいですね、じゃねえよ! どうすんだよ、コイツ滅茶苦茶強くなってるぞ」


 オリヴィエのバフの力が何倍もパワーアップさせるのはわかったけど、この状況をどうするべきか。

 普通に戦えば消耗戦になる。

 ただここは他の魔物も生息しているポイント、長引けば邪魔が入って苦しい戦いになるのは目に見えてる。


「あの! アルドさんは逃げてください」

「は?」

「これは私のミスです。私が解決してみせます」


 そう言えば、オリヴィエはこの街で一番強い聖女と自称していた。実は隠れた実力者ということもあるのか。


「勝算はあるのか?」

「魔物は聖なる力に弱いはずです、なので回復魔法をあててみようと思います」

「やめろアホ!」


 そんな方法で魔物を倒す聖女の話など聞いたことがない。失敗する可能性を考えたらそれは最終手段だ。


「じゃあ私が囮になるのでアルドさんは――」


 とオリヴィエが話している途中、ベアーナックルが勢いをつけて走り出す。目標は俺ではなくオリヴィエだ。


 くっ、動きが早い。


 ベアーナックルが殴りかかり、オリヴィエは何もできずに立ち止まっている。

 大きく振りかぶったタイミングでオリヴィエの前に体を入れてなんとか間に合う。しかし振り下ろされた打撃を防ぐことができず、モロに受ける。


「アルドさん!?」


 追撃が来たらマズい、と思っていると突然ベアーナックルの動きが鈍くなる。

 その瞬間に、最後の力を振り絞って右手に持っている剣で素早く倒す。


「やりました、流石アルドさんです!」


 きゃぴきゃぴとはしゃいでいるオリヴィエの横で俺はへなへなと力尽きるように倒れた。

 傷口からどばどばと血が流れて意識が朦朧としてくる。


「ヒールかけてくれ」

「はいはい、わかってますよ。こう見えても私、聖女ですから」


 詠唱をするオリヴィエを見て、一息吐いた。

 段々と俺の体が癒されるように……いやビリビリと何か電流のようなものが流れている。


「おい、お前。それ回復魔法じゃなくて雷系の魔法」

「え?」




 それからどうやって街に戻ったのか記憶がない。

 報酬を受け取り、ギルドの前で俺はため息を吐いた。

 どうやらケガは治ったみたいだが、なぜ隣にこの女がいるのかわからない。


「明日からも一緒にじゃんじゃんクエスト攻略しましょう!」

「クビだ」

「え?」

「昼飯の件はもういいから帰ってくれ、頼む」


 無事に帰還できたとは言え、オリヴィエが致命的過ぎるミスをしなければ楽にクリアできていた。

 この先もあんなことが続くと考えたら、関わらないが吉だ。


「そんなぁ、お願いします。私ちゃんと働きますから!」


 縋るように抱きつかれ、ぽろぽろと涙をこぼし始める。


「…………」

「捨てないでください! 私はもうアルドさんしか頼れないんですぅ」


 ざわざわとしだす周囲。

 なんだか俺が悪い、みたいな空気になっている。一応、この街は拠点としているわけで悪評が広まるのはマズい。


「……わかった。もう少しだけ面倒みてやる」

「本当です!?」


 バッと顔を上げて嬉しそうに笑うオリヴィエ。


「今日みたいに足を引っ張るようなら縁を切るからな」

「任せてください。私は優秀な聖女ですから」


 全く信用にならない言葉を聞き、俺は空を見上げる。

 仕方がないので、もう少しだけこの聖女と共にすることにした。

読んでいただきありがとうございます。


よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から作品への応援お願いいたします。


正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

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