王命には従っていただきます~愛するつもりは無い?結構でしてよ
妊娠についてデリケートな方はお読みにならないことをお勧めします。
誤字報告ありがとうございます。
結婚を祝う宴はまだまだ続いては居たが、主役の新郎新婦は皆の温かい笑顔に送られて会場を後にした。
新郎であるエルネストは美しく着飾った新婦のマルガリータにちらりと視線を向けたがすぐに視界から外し黙々と夫婦の寝室へと向かう。
エルネストはこの国に四つある公爵家の一つオルテガの第一子であり、次期オルテガ公爵となる予定の人物だ。祖母が前王の妹にあたる。現王にも目をかけて貰い王太子とは年が同じと言うこともあって将来は彼の補佐をし外交に努める予定でもある。
一方マルガリータも公爵家の娘で、幼い頃より秀でた美貌と頭脳で大人たちから期待を持たれていた。彼女の父親は現王の弟にあたり、公爵家の総領娘と婚姻し婿入りした人物だ。
二人の血が近すぎるのではないかとの心配もあったが、物見の塔で暮らす大魔女の宣言で二人の婚姻が定められた。
寝室へ入り、侍女が軽いアルコールを給仕して壁際へ下がる。
グラスを手にマルガリータはゆったりとソファを通り過ぎてベッドへと腰かけた。
「君には申し訳ないが、私は君を愛することは無い」
ごくりと生唾を飲み込んでエルネストはマルガリータへ言葉を投げかけた。
マルガリータはちらりと上目遣いにエルネストに視線を向けたが、何も言わず視線をグラスに戻し唇をアルコールで湿らせた。
「聞いているのか、私には愛する女性が居る、彼女以外を愛するつもりはない、この婚姻は白い結婚とし、三年後には離縁するつもりだ」
「大魔女様の宣言で決められた事ですのよ? 私たちの子供が王太子の子供の伴侶となると、その未来が国にとって望ましいと告げられたことはご存知? 」
「君はそれで良いのか? 君だって私の事を異性として好きな訳ではないだろう? 」
「酷い方」
マルガリータは小首を傾げてエルネストへ視線を向けた。
「白い結婚と申されましても、どうせ努力はしたけれど私が子を孕まなかったと、私の有責にして離縁するおつもりなのでしょう? そうなりますと私の将来はどうなりますの? 離縁だけでもかなりの瑕疵がついてしまいますのに、石女の烙印まで押されてはその後の輿入れも望めませんわね。大魔女様の宣言を受け王家の命の元結ばれた婚姻ですのに、貴方は私を妻として扱うつもりが全く無いと言う」
「それは」
エルネストは言葉につまってマルガリータを凝視した。
エルネスト自身も身勝手な事を言っている自覚はあったのだ。
愛する女性は身分が低い。公爵家に輿入れするにはせめて伯爵家であって欲しかったが子爵家令嬢だった。親友のアベランドに頼んで彼の父親に養女に貰ってもらい段階を踏んで婚約をと考えていたところに大魔女の宣言があったのだ。
親友の頼みだから協力しようと言ってくれていたアベランドはその宣言を聞いた途端、王命に背くことは出来ないと彼の父親への口利きを拒絶してきた。
「貴族として生まれたのであれば望まぬ婚姻も致し方ないのではなくて? 第一は国の安定ですわ。ご自身の義務を果たすべきではないかしら? 」
「うるさい! 」
テーブルに置かれていたグラスを手に取ってエルネストは一気にアルコールを飲み干した。荒々しくテーブルに戻してエルネストはマルガリータを睨みつける。
「随分と甘やかされてお育ちになったのね。次期公爵の地位も欲しい、王太子の側近としての役目も欲しい、王家の覚えもめでたき華々しい生活。王命で決められた妻はないがしろにして妻に瑕疵をつけて離縁する予定。せめて婚姻前に公爵なりにご相談すれば良かったのに、それすらもされず。あらあら、そんな怖い顔を新妻に向けるものではありませんわよ」
くすくすと笑いながらマルガリータは立ち上がると、立ったまま己を睨みつけている新郎の元へ一歩近づいた。
「そんな貴方に朗報です」
マルガリータの唇が弧を描く。愛らしい顔が一瞬恐ろしく感じてエルネストは眩暈を感じた。
「あら、大丈夫? お酒に酔ってしまったのかしら? さぁベッドにどうぞ」
「うるさい、触るな」
「分かりましたわ、触れません。あぁ貴女、旦那様をベッドに横にして差し上げて」
壁際に控えていた侍女に声をかけ、マルガリータはソファへと座る。
「若様」
侍女がエルネストを支えベッドへと誘う。
「ここで話を整理いたしますわね。大魔女様は貴方と私の間の子が王太子の子と婚姻を結ぶ事が国にとって慶事であるとお告げになった。王太子はこの春に隣国の王女を迎え入れたばかり、まだ懐妊もされておりませんもの、王子、王女どちらがお生まれになるか分かりませんわね」
ベッドに腰かけていたエルネストだったが眩暈が酷くなり座っていられなくなりシーツへと頭を落とす。侍女がそっと靴を脱がせて枕の位置を直しエルネストの体勢を整える。
「王も王太子も大魔女様のお告げに従うご意思ですわ。そこで私万全を期して男女一人ずつは子を産みたいと考えておりますの」
「君を抱くつもりは無いと言っているだろう」
「抱いていただく必要はございません」
「は? 」
しゅると布擦れの音がしてエルネストが視線を向けると侍女が彼のボトムスを寛げていた。
「何をするんだ、ビアンカ! 」
「エルネスト様、マルガリータ様はお子をお産みになった後であれば私が第二夫人としてエルネスト様にお仕えすることを許してくださるとそうおっしゃいました」
「は?」
「行儀見習いとして二年前から公爵家に入った子爵家令嬢のビアンカ様、エルネスト様の愛する女性でございますわよね」
「し、知って」
「えぇ私色々情報を集めるのが得意なんですの」
侍女、ビアンカの細く白い指が蠢きエルネストは下腹部に熱が集まるのを感じた。愛する女性であるビアンカが為すことだ、気持ちが良いに決まっている。しかしベッドから数歩離れただけのソファにはゆったりと座るマルガリータが居る。
エルネストは混乱した。
自分はいったい今どのような状況でこうなっているのか、と。
ビアンカ以外を愛する気持ちは無い、三年待たせてしまうがいずれ彼女を妻にと思っている、他の女性に指一本触れるつもりはないと彼女の目の前で宣言しようと思って、初夜の寝室の世話係にビアンカをつけたのはエルネストだったが、こんな展開になるなんて思っても居なかった。
「私色々と人体にも詳しくてよ。安心なさって。貴方の吐き出す子種を氷魔法で凍結保存いたしますの。それをいくつかに分割いたしまして、私の身体が子を孕みやすい時期に体内に取りこみますわ。ほら、貴方は私を抱かなくて宜しいのよ。私は王命に従う事が出来ますし万事解決。素晴らしいでしょう? 」
マルガリータは微笑みながら、つま先や唇をぴくぴくと動かし頬を上気させたエルネストを眺める。
「酷い事を言う貴方に対して私って何て慈悲深いのでしょうね。ビアンカに子種を絞らせる係をお任せしましたけど、それ位の役目でしたら侍従の誰かに頼んでも宜しかったのよ? でもビアンカに為して貰う方が手早くすみましょうし、貴方の心理負担も軽いかしらと思いましたの。」
マルガリータの言葉にエルネストが怒りからか昂ぶりからか赤くなった顔を向ける。
睨みつけるきつい眼差しを受けてマルガリータは更に笑みを深める。
「お友達に言われませんでしたの? 大魔女の宣言から王命となった婚姻に横やりを入れるような真似は出来ないと。彼は賢いわ。貴族である自分は王命に背くことは出来ないとおっしゃっていたでしょう? 貴族は王命に背いてはいけないのですわ。」
ソファから立ち上がりマルガリータがベッドに近寄る。
「王命に背くのならば良くて身分剝奪。平民となったあなたに子爵家は娘を嫁がせるとお思い? 本当に甘やかされた世間知らずの方ね、貴方。私が一言王に、伯父様に申し上げたら邪魔な子爵令嬢など儚くなっても可笑しくは無いのよ? 」
容赦の無いマルガリータの言葉にエルネストはぎりぎりと唇を噛みしめる。
怒りと下腹部への熱の高まりに頭が煮えそうで、目を閉じる。
自分の好みの動きを教え込んだビアンカの指が攻め立てるのを更に唇を噛みしめて耐えようとしたエルネストだったが、ビアンカの整えられた爪によって快楽を高められた瞬間果てた。
マルガリータが指先を動かすと飛び散る筈だった子種がキラキラとした薄氷に包まれる。
「私はこれで、自分の部屋に戻りますわ。無事懐妊することを祈っていてくださいませね。私の前で乱されるなんてお嫌でしょう? ビアンカご苦労様でした。続きをしたければしても宜しくてよ。ただし私より先に子を孕むことは許しません。」
「肝に銘じております、マルガリータ様」
ビアンカの返事に鷹揚に頷いてマルガリータは自室へと繋がるドアを開けて夫婦の寝室から出て行った。
エルネストはただ茫然と閉じられた扉と愛するビアンカとに交互に視線を向けるだけだった。
このまま下半身熱が引いて風邪ひけば面白いなと思ったのですがそうなるとせっかくシリアス風に書いてたのが台無しになるなと思って自重しました。
自分自身を誉めたいと思います。
'23,3,22 少々手直し。加筆しました。
ビアンカがマルガリータに従っている背景を少しだけ追加。
……彼女の心情とかを入れ込むとバランスが崩れるので中途半端かもしれませんが