1話 プロローグ
今回久しぶりの連載で一話目は半分設定で半分プロローグになっています。
ドベルニカ王国。
第7代国王であるリチャードを君主に置く立憲君主制を導入している島国で、
妻であり王女のエスター、長男アーサー、次男オスカー、長女エイミー、三男ドニー、そして国王の父で現在は政界から引退をしたジェイクの計6人家族であり女であるエイミーを除く三人の息子たちが次期国王候補。
首相はスペンス・ハントは第10代ドベルニカ首相であり与党保守系政党である紅導党の党首でもある。
最大野党のリベラル派政党の労働者社会党の党首はマイク・ロペス。
この国では警察とは呼ばず創設104年目の騎士隊本部が治安維持にあたっており、各所を管轄する騎士隊署が設置されて更にその子組織として詰所が107か所ある。
騎士職には4つに大別され、実地での治安維持にあたる一般騎士、取り調べや諜報活動、書類整理などの裏方作業を行う諜報騎士、事件捜査の捜査を握る捜査騎士、王族の警護を専門にあたる王族親衛隊。
この騎士職の中では王族親衛隊がエリート職とされ特に門戸が狭い。
騎士になるには王国内にある王立騎士学校に進学することが必須であり最長で12年間通い続けることになる。
また銃による犯罪の増加もあり17年前に銃専門の犯罪捜査をする銃士隊の創設もされており騎士隊とは組織の毛色が全く異なり一般騎士と王族親衛隊に相当する部門が存在しないのも特徴となっている。騎士のように専門の学校の卒業が不要で歴史も浅く地味な裏方が多いため人手が少ない現状である。
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ぽちゃん、公園の池に釣り糸を垂らしウキが凪の水面に波紋を広げていく。
ここ三日間、日が暮れると釣り禁止の池に釣り糸を垂らすのは何も食べ物に困っているからではない。
餌に食いついて釣り上げた魚たちはちゃんとリリースをしているしあくまで目的のやつをこの手にするのが目的……、のはずだったのが俺の身柄は今近くの騎士隊詰所にて怖い顔をした騎士のおじさまに事情聴取を受けていた。
釣り道具一式は没収されてもう一人の常駐騎士に中身を改められている。
聴取をとるおじさまは俺の身分証明書と顔を交互に見て質問をしてきた。ここに連れてこられてまだ5分と経っていないというのに手の中は嫌な脂汗でびっしょりだしもう帰りたい。
「で、君はあそこで何をしていたんだ?」
「あー、釣りっす」
「この三日間公園の管理者が池で釣りをしている妙な男がいると通報があってだな、君も文字が読めるなら知っていると思うがあそこが」
「釣り禁止。知ってますよ」
「じゃあなんでやった!」
おじさま騎士が声を荒らげて俺に詰め寄る、近い近いぞ、口から煙草の臭いがして臭い…。
というか、人目をはばかってわざわざ夜中に釣りに来ていたのにまさか初日か見つかっていたとは。
「いやあのね、俺の職業はさっき騎士さんに話したっしょ?それと関係があってね」
「ああ、何でも屋のエド・ニーツで現在27歳。親兄弟・親戚・恋人家族もなし」
「そうそう……って言いすぎじゃないすか?いや事実だけどさ」
「事実じゃ都合悪いか?」
こいつ絶対性格悪い。さっきまで敬意を表いておじさまと言っていたがおっさんにグレードダウンだ。
そう、こいつに言われた通り俺の今の職業は何でも屋のエドで通っていてそれなりの依頼も受けている。
今回の釣り問題もその何でも屋の仕事の一環でやっていて正直に話せばもっと簡単に済むかもしれないが、そう簡単にもいかないのが俺の職業というわけだ。
「じゃあなに?その依頼人の手前、話の中身までは言えないってかっこつけたやつ?」
「カッコつけてねぇっすよ。けど商売柄、依頼人のヒミツまでは口に出せないわけでさ」
「なるほど、まぁ今回は釣った魚を無断で喰ったわけでも売ったわけでもないようだし…どうだ?」
おっさんは体を捩じって後ろのほうに視線を向け、俺も自然にそちらに目が向いた。
扉を開けてそこから出てきたのは俺よりもだいぶ若い茶髪の男の騎士で俺の釣り道具を持ってやってきた。調べたところで何も出なかったろう。ちょっと嫌な顔つきで俺を見つめて乱暴に俺とおっさんの間の机にドンと置いた。
「臭い泥とコケくらいで魚は一匹も入っていませんでした」
ああ、なるほど。俺に臭い作業させやがって!って言いたいわけだな。わかるわかる。
この国では騎士というのは花形職の一つだし、一人の訳のわからない男の私物の中から泥やコケを攫うなんてキラキラとしたイメージとは程遠いし。
そんなことより、魚を盗んだ容疑も晴れ、それ以外も証拠らしいものは見つからなかったとこの若い騎士が言ったのだから俺がやることはたった一つだろう。
「帰っていいすか?冤罪も晴れたわけだし」
俺はそれだけ言うとおもむろに立ち上がって机の上に乱暴に置かれた釣り道具の片づけを始めた。おっさんも用が済んだとばかりに調書をまとめ始めるが不意に若い騎士が横槍を入れる。
「ああそうだ。泥の中から指輪のようなものが出てきましてね」
「指輪?落とし物か?」
その言葉を聞いて片づけていた手がパタリと止まった。今こいつなんて言った?
横目でその声が聞こえたほうを見やると綺麗に洗われたであろう女ものの小さい指輪がおっさんの手に握られていた…。ああくそ…。
「ああの」
俺の弱気な猫なで声におっさんがすぐさま反応し不思議そうに見る、当たり前ださっきまで尊大に振舞っていたやつがこんな声を出してんだから。わかってる。
「その指輪…」
「これ君の?」
「ええ!ええそうですとも!いやぁ池の中にうっかり落としちゃって!」
「女もののようだが?」
「俺の彼女のもので…」
「交際していないんじゃなかったの?」
まずい、さっきの調書がまさかこんな形で活きてくるだなんて!どうする?
若いほうは俺に煮え湯を飲まされた腹いせにか、頬をリスのように膨らませて面白そうに俺を見ている。こいつ絶対後出しするつもりでやっただろ…後で覚えてろよ。
「あっそれはですね…」
「私のです」
ここで第三者の声が俺の背中越しに聞こえ振り向くと小柄な一人の少女が詰所の前に一人で立っていた。身長は150センチもないくらいに小柄な子だがそれ以上の彼女の特徴に思わず目を見張る。
白いのだ、とにかく白い。肌も顔も髪の毛の全身いたるところが白くまるで人形のようだった―。