悪役令嬢、ダイフク王子に婚約破棄されて、残虐な復讐に走る!
ここはワガシ王国の王子様の誕生日をお祝いするために開かれた舞踏会です。
とつぜん、ダイフク王子の声がひびきました。
「ここに公爵令嬢アンコとの結婚の約束をとりけし、令嬢イチゴと婚約をむすぶ!」
公爵令嬢のアンコは、とつぜん、婚約者のダイフク王子がそんなことを言ったので、びっくりして叫びました。
「王子様。どうして、とつぜん、そんなことをおっしゃるの?」
「アンコは、イチゴに、ひどいいじめを行った。そんな者は、ワガシ王国の王妃にふさわしくない」
それから、色白でぽっちゃりしたダイフク王子は、アンコが行ったいじめの説明を行いました。
「アンコは、キナコやゴマといっしょに、イチゴの悪口を言い、仲間はずれにした」
たしかに、アンコには、心当たりがありました。
たしかに、数週間前、アンコはイチゴに言いました。
「あなた、最近、ダイフク王子になれなれしくてよ? イチゴなんて、ダイフク様には、ふさわしくないわ。身のほどを知りなさい。あなたは、ケーキとでも仲よくしていればいいのよ」
アンコの取り巻きのキナコやゴマも、たしかに言いました。
「イチゴがワガシ王国にいるなんて、おっかしーい。ヨウガシ国にいきなさいよ」
「そうよ、そうよ。つぶつぶのそばかすだらけのイチゴなんて、ワガシ王国には似合わないんだから」
あの時、イチゴは、泣いて教室を出ていきました。
そして、翌週、学級新聞には、「イチゴ、追放される」という見出しの記事がのっていました。
学級新聞には、「アンコ達に教室から追放されたイチゴは、ダイフク様にだきしめられて、なぐさめられていた。ダイフク様の包容力はすごい!」と書いてあったので、アンコは、悔しく思いました。
さて、アンコは、ダイフク王子に考え直してほしくて、言いました。
「だって、だって。どう考えても、イチゴは、ダイフク様には、ふさわしくありませんもの。イチゴが、ワガシ王国にいること自体、おかしいですもの。それに、わたしは、世界で一番、ダイフク様にふさわしいですわ。だれもが、そう認めていますわ」
「そんなことはない。ぼくはイチゴと結婚する。ぼくたちは、ふたりで、すばらしいワガシ王国をつくるんだ」
そう言って、ダイフク王子は、イチゴの手をとり、ふたりは見つめ合いました。会場にいた人たちは、拍手を送りました。
こうして、ダイフク王子は、アンコとの婚約を解消し、イチゴと婚約してしまいました。
パーティー会場の隅でアンコが泣いていると、だれかが声をかけてきました。
「泣くなよ。アンコ」
「ほっといて。王子様に捨てられて、パーティーで恥ずかしい思いをさせられた、わたしのきもちなんて、だれにもわからないのよ」
「そんなことないさ。おれだって、ふられたばっかりだぜ」
アンコが顔をあげると、日焼けしたパリッと元気そうな男の子がそばにいました。
「あなたは、トースト? ブレックファスト王国からの留学生で、イチゴの幼なじみの?」
「ああ。イチゴは、小さい頃、ぜったいに将来はジャムになって、おれと一緒になるって言ってたのにさ。うそつきめ。ま、べつに、おれは、あんなやつ、好きじゃなかったから、いいんだけど。おまえも元気をだせよ」
トーストは、まったく気にしてなさそうに言いました。
「いっしょにしないで。わたしとダイフク様はいっしょになる運命だったんだから。わたしは、ダイフク様なしでは、生きていけないわ」
「そんなこというなよ。おれ、前から、おまえのことが好きだったんだ。おまえの、きれいだけどイジワルそうなところとか。服のセンスがいいけど、悪だくみが好きそうなところとか。笑顔がかわいいけど、残酷そうなところとか。おれが、おまえをしあわせにしてやるよ。だから、おれといっしょに、ブレックファスト王国に来いよ」
「バカを言わないで。わたしとあなたなんて、つりあわないでしょ。わたしは、ワガシ王国の王家の血を引くアンコ。外国のひととなんて、結婚できないわ」
「だいじょうぶだ。おれは、ブレックファスト王国の王子なんだ。ちゃんと王妃様になれるぞ」
「そういうことじゃないの。わたしが、ブレックファスト王国にいくなんて、ありえないわ。きっと、みんな、わたしのことを嫌って、いじめるわよ。ブレックファストにアンコはあわないって。だれがどうかんがえても、トーストとアンコなんて、ありえないじゃない。アンコとコーヒーやティーなんて」
「そんなことないって。ほら、みろよ。イチゴとダイフクだって、おにあいだぜ?」
アンコは、会場の真ん中で、しあわせそうに踊るダイフク王子とイチゴを見ました。
ダイフク王子にイチゴは絶対に似合わないと思ったのに、こうしてみると、なぜかとても良い組み合わせのように思えてくるのでした。
「たしかに、イチゴのあまずっぱさとダイフク様のやわらかさは、意外と……。わたしが、まちがっていたのかも。イチゴとダイフクがあわないなんて、わたしが、勝手におもいこんでいただけなのかも」
「ああ。偏見はいけないぜ。あのふたり、きっとうまくいく。だから、おまえはブレックファストに来いよ。おれたちは、きっと、もっとお似合いになれるから」
こうして、アンコはブレックファスト王国に留学に行きました。そして、コメータ博士という人に色々なことを学びました。
コメータ博士は、「あなたの才能はすばらしい」とアンコをしきりに、ほめてくれました。
そして、何年か後、アンコはトースト王子と結婚しました。
ふたりの結婚はブレックファスト王国の人々からとても祝福されました。
モーニング宮殿前で行われた結婚パレードでは、人々は、「オグラトースト、スバラシイ!」「ナゴヤメシ最高!」と叫んでお祝いをしていました。
さらに数年後。ナゴヤメシ帝国と名前を変えたブレックファスト王国の宮殿で、アンコは、今は皇帝となって世界征服を目指しているトーストに、ほほえみかけました。
「最初は、わたしとあなたの組み合わせは絶対にありえないと思ったけど。でも、ふたりの相性は最高よね」
「ああ。言っただろ。おれたちなら、トーカイ大陸だけじゃなくて世界を制覇できるぜ」
「そうね。わたし、今はイチゴとダイフクに感謝しているの。おかげで、あなたと出会って、より広い世界を見ることができたわ」
「そんなこと言って、おまえ。ワガシ王国を征服した時に、ふたりをギロチンでまっぷたつにしていたじゃないか」
「だって、イチゴダイフクは、切断面が、美しいんだもの。ふふっ。あの姿。映えたわね」
ふたりは、世界征服のために各地を侵略しながら、ずっと仲良くしあわせに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。