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ドラえもんの手

 太っちょ先生は、にこやかな顔をしているが、空手道部のメンバーは一様に驚きと混乱の表情だ。


「あ、あの、、どなたですか?」


キャプテンが立ち上がりながら、太っちょ先生に聞いた。


「ああ、僕は宇佐美先生に頼まれてね。君たちの指導をして欲しいって」


 宇佐美先生とはおじいちゃん先生の事だ。

おじいちゃん先生が僕たちの指導をこの人に頼んだのだろうか。

それにしても突然だし、だったら前もって伝えてくれれば良いのに。


「そ、そうなんですか‥‥」


キャプテンも、どうしたら良いのか決めかねている様子だ。


「すみません、それよりも助けていただいて‥‥そして部員が殴ってしまいまして‥‥」


キャプテンは太っちょ先生に頭を下げた。


「ああ、いいのいいの!そんなことは!それよりどうしたんだい?あれは空手じゃないよね」


キャプテンは、どう説明して良いか迷っているようだった。


「大方、指導者が居なくなって、練習がうまくいっていないのじゃない?」

「え、どうしてそれを‥‥」

「まぁ、よくある事だよね。大人から指示されればまだ従うけど、同級生から指示されたら反発したくもなるよ。」


 キャプテンは、全てを見透かされているような気がしたことだろう。

海老名先輩と町田先輩はなんだか所在なさげだ。


「きっと最後の大会に向けて練習したいキャプテンと、そのやり方が気に入らない3年生の揉め事かな?」


ふとっちょ先生はニヤリと町田先輩と海老名先輩を見た。


「まぁ、そんなところです」


キャプテンは憮然としてそう言った。


「コイツが試合に勝つためだとかで、2年を団体戦に出そうとしてるんですよ。3年の俺たちには最後の試合だから3年でチームを組む方が良いって言ってるんです」


海老名先輩はたまりかねた様に早口で喋った。


「うーん、そうなんだぁ。」


 太っちょ先生はそう言うと考えるふりをした。

僕はなんだか考えは既に決まっていてポーズだけしているように見えた。

ふとっちょ先生は芝居っぽく両手を叩いてこういった。


「じゃあ!こうしたらどうだい?とっておきの方法があるよ!」


 そう言うといつの間にか体育館脇に置いてあった、太っちょ先生の私物と思われる巨大なの袋から大きなグローブを2つ持ってきて、僕たちの前に見せた。


「これはねボクシングの練習用のグローブで16オンスグローブって言うんだ」


太っちょ先生はボクシング用のグローブを自分の手にはめてみせた。


「!!?」


 その姿に失礼だけど、僕は吹き出しそうになった。

完全にドラえもんじゃないか。

まるまるとした体に、大きな丸い手。

隣を見ると松崎も吹き出しそうになっていた。


「で、それをどうするんですか?」


キャプテンはドラえもんの手を全く意に介さず聞いた。


「ガチンコのスパーリングするんだよ。これを使って」


 その場にいる空手道部全員が驚いた。

何故なら空手の稽古でスパーリングという言葉自体が存在しないからだ。


「みんなマウスピースを持っているよね。ちゃんと付けて。これで本気で殴り合うんだよ!」


太っちょ先生は当然のようにそういった。


「いやいや!ちょっと待ってください!本気で殴るとかそんな事やった事ないですよ!」


 キャプテンは慌てて太っちょ先生に反対の意思を表した。

そもそも伝統派の空手道では、寸止めが前提のため、殴るとか打ち抜くという練習はしない。

だから結果的に殴ってしまうことはあっても、殴り倒そうとして組手をやるということがないのだ。

 だからそこにいる空手道部のメンバーは、あまりに突拍子のない話に非常に驚いた。


「まぁ、やればわかるよ!じゃあ、団体戦のメンバー候補は全員前へ!」


 そう言って太っちょ先生は、スタスタと体育館の中央に行ってしまった。

キャプテンも、先輩たちもみんな顔を見合わせていた。

どうしたら良いのかがわからないのだ。

そもそも本当におじいちゃん先生の依頼があったのかもわからない。

果たして信頼して良いのだろうかという思いがあった。

 

 キャプテン含め、二の足を踏む状況だった。

だが言われたままに太っちょ先生の元に行ったのは、町田先輩と海老名先輩の2名だった。

 僕はちょっと意外に思った。

何故ならこの二人は真っ先に反抗すると思っていたからだ。


 彼らは先程太っちょ先生を蹴り、殴るという失態を犯した。

だから得点を取り戻そうとしているのかもしれないとこの時は思っていた。

つられるように中央に集まったのは、3年生5名、2年生2名の合計7名だ。


「悪いけど、自己紹介してくれ!」


 太っちょ先生は元気にそういった。

各メンバーは自分の名前を先生に告げた。

 3年生はキャプテン、町田先輩、海老名先輩、更にちょっと無口な大崎先輩と普段はちょっとちゃらい感じの渋谷先輩だ。2年は松崎と僕(宇都宮)の合計7名だ。


「先生のお名前は?」


キャプテンがそう聞いた。

先生は自分が聞かれると全く想定していなかったようで、一瞬混乱したようだ。


「ああ、ええっと、、、僕の名前は、二宮だ!よろしくな!」


 先生はそう言って全員に大きな声で言った。

先生は7人総当りのスパーリングをやると言った。

スパーリングは1分間、本気の突きとケリをする事というのが条件だ。


 先輩たちもきっとそうだと思うが、僕らは既に心臓がバクバクだった。

そもそも本気で殴るなんてできるのだろうか?本気で蹴るってどうなるのだろうか?

他の2年生1年生、副キャプテンをはじめとする女子メンバーも不安そうな目で僕ら7人を見ていた。


 太っちょ先生は一体何のつもりでこんな事をさせるのだろう?

僕たちは納得しないままに、本気の殴り合いをする事になったのだ。


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