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不穏な空気

 その日は体育館ではなく、教室での練習だった。

僕たちはある教室に集まりおじいちゃん先生に「型」の話を聞いていた。


 型とは、仮想の相手を想定し、決まった動作で攻撃と防御を行う行動の決まったシャドーボクシングのようなものだ。

この型は空手の動作の基本に当たるものであり、非常に重要な要素なのだ。

僕らがおじいちゃん先生の型の講義を聞いていると、どこかで「大変だ!」という声が聞こえた。


 最初僕らは気にしていなかったが、何やらバタバタと走り回る生徒がいたり、慌てた雰囲気だった。

どこかで誰かが「アイツ等が来ている!」と叫んだ。


僕たちはピンときた。


 アイツ等とは、僕らの中学には全く望まざる訪問者だ。

ここ最近、勝手に体育館に入り込んでバスケをしたりする卒業生が来るようになったのだ。

彼らはこの中学校の卒業生であり、勝手に「遊びに来た」と言っては、学校内で好き勝手をしていた。


 その卒業生たちは高校にもまともにいかず、街でブラブラしていたり、頻繁に問題を起こしていたらしい。

彼らの中では、単なる時間潰しなのかもしれないが、こちらとしては迷惑以外の何物でもない。


 何よりその卒業生たちは、当時からとんでもない不良で、彼らを抑える先生は誰もいなかった。

その当時の生活指導の体育教師でさえ、彼らとの関わりを持とうとしなかった。

彼らが在学していた当時は中学校の教員としては最大級の恥とも言うべき、警察への通報も何度となく行われたそうだ。

警察への通報はつまり指導力がないと見なされるため、嫌がる先生たちも多いそうだ。


 卒業生の少年たちは、中学校に来はじめた最初こそ少し大人しく部活動にヤジを飛ばしたりする程度で、しばらくすると直ぐにいなくなった。

しかし回数が増える毎に学校に滞在する時間が増えて、やることも酷くなってきた。


 ある時は、体育館で勝手にドッチボールを始めたり。

貼ってあったポスターを破いたり。

サッカー部の練習中に勝手に混ざったり。

野球部の道具を勝手に借りてキャッチボールをしていたり。

しまいには校内に入り込んでタバコを吸いながら、歩いたりとやりたい放題だった。


 またどこまで噂かは分からないが、

近くを歩く生徒に目つきが悪いと言って、腕や腹を殴ったとか、

可愛い女子生徒を見かけたら、しつこく追いかけたりとか、

その問題行動は時と共にエスカレートしていった。

最初に彼らの侵入を明確に拒まなかった事から事態は徐々に悪化していたのだった。



 どうやら校内のどこかに、彼らが来ているという事のようだ。

キャプテンの顔は少し青ざめていた。

何故ならその中のメンバーの一人が空手道部のOB。

つまりキャプテンがまだ1年だった頃の3年で、殴る蹴るの暴行を毎日受け続けたメンバーだったからだ。

キャプテンからしたら、悪夢の時代の加害者が近くにいる訳で、恐ろしいに決まっている。


 そうこうしているうちに、少し離れた体育館の方から、

「きゃー」

「先生呼んで!!」

という悲鳴が聞こえてきたのだ。


 おじいちゃん先生も流石に、おかしいと思ったらしく、皆に教室でこのまま待つように言って、体育館の方へ小走りに走っていった。


だが、心配に思ったのかキャプテンが先生の後に付いていった。

僕と松崎も先生とキャプテンの後を追った。

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