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贈る言葉

 体育館は静寂に包まれた。

ここにいるのはほぼ、空手部のメンバーと体育館の床に転がっている不良たちのみだった。


 太っちょ先生はムクリと起き上がった。

「キャプテン‥‥」

「は、はい」

「副キャプテン‥‥」

「はい」

「君たち付き合ってんの?」

「え‥ええぇ!?な、何いってんですか?」キャプテンが動揺しながらいった。

「付き合ってんのか?正直に答えなさい」

「はい。付き合ってます」副キャプテンはあっさりと言った。

「お、おいちょっと、何言って‥‥」キャプテンは慌てて言った。


そして三年の先輩たちを中心に驚きの声が上がった


「おいおい、マジかよ!?」

「お前らいつの間に‥‥」


 先輩たちもどうやら知らなかったようだ。

 太っちょ先生は静かに言った。


「そうか‥‥。で、チューはしたの?」

「な、何いってんですか?そんなのどうでもいいでしょう!」


 キャプテンは慌てて言う。


「イケマセン!!そんなのはまだ早い!いけませーん!!イケマセン!まだまだ学生の身分でそんな異性交遊など認められません!!」


 太っちょ先生は大声でセリフの様に言った。


「オイオイ、まさかそれより先なんて事は無いよなぁ」

「それはありません。それにそんなに興味なさそうですよ。彼は」


 副キャプテンは綺麗な顔の割に大胆だ。


「は!これだから女子ってのは、夢見っちゃってるねぇ。ふふふ」


 太っちょ先生は大きく手を振って言った。


「中学生男子なんてのは90%以上が女性の今年か考えてないんだよ。そういうもんなんだよ。この年齢は皆猿みたいなものなの!動物なんだよ!如何にして君とお泊りしようか?なんて考えてんの?」


「ちょ、先生!何いってんですか?そんなわけ無いでしょ!」

「うそつけえ!!!俺は認めないぞ!お前の頭の中なんて所詮は女体しかないだろうが!!」

「そんなわけ無いでしょ!僕はちゃんと彼女が事が好きだから‥‥」

「かーーー!!スキダカラってなんだそりゃ?スキダカラー!!10年前の韓流ドラマか!?いいか?副キャプテン!これは誰が悪いわけじゃないけど事実だ!男なんてのは皆女体しか考えてないんだよ!それがTHE中学生!!わかったか?本当に好きとかなんとかってのは大人になってからしかわからないものなの!!所詮体目的だったらどうするんだよ?ん?」


 太っちょ先生は一気にしゃべると副キャプテンの方を向いた。


「でも、彼がそんな奴だったら、先生がきっちり彼を指導してくれんでしょ。私も彼も先生の弟子だから」そう言って副キャプテンはにっこり笑った。


「う‥‥そりゃあ、まぁ、そうなんだが‥‥」


 太っちょ先生は副キャプテンに対して、もごもごと何かを言った。


「おい、30過ぎのオジさんが、中学生に言い負かされたぞ‥」ふと見ると松崎が不良に蹴られたお腹を押さえながらもそういった。


「おい、お前大丈夫か?」僕は松崎に聞いた。


「ああ、なんとかな。けど、先生どうしちゃったんだ?」

「さあ?」


 ボクと松崎は小声でこんな話をしたら、急に太っちょ先生は僕たちの方にやってきた。

 ボクと松崎は慌てて逃げようとしたが、あっさりと捕まった。


「おい!お前たち!ふたり揃えば地元で最強とか言ってるらしいな!」

「え!?いや、そんなこと言ってないですよ!」

「いいや!俺は聞いたぞ!なんだ二人揃えばって?コンビか?お前ら漫才でもすんのか?相方か!?」 

「ち、違いますってば!誤解ですよそんなこと言ってないですよ!」

 松崎もお腹をさすりながら言った。

「まぁいいだろう!だがこれだけは言っておくぞ!いいか?地元で最強とか何とかいうのだったら、まず俺に勝ってから言え!!」

「え!?そっち??」

「当たり前だ!俺に勝たずして、地元最強だとか抜かすんじゃないよ!?わかったか!!調子に乗るな!!」

 

 ボクと松崎は頷くしかなかった。


すると今度はくるりと3年生の先輩たちのほうを向いた。


「おい!海老名!」

「オス!」

「お前、25歳くらいのお姉ちゃん、もしくは知り合いいないの?」

「オス!いないっす!」

「おい!町田!お前はどうだ?」

「え?オス!いないっす!」

「渋谷!」

「オス!いないっす!」

「大崎!」

「オス!いないっす!」


「なんだお前らは!使えねえなぁ!オスいないっす!オスいないっすって!オスイナイ星の兵隊か!?バカやろう!」


 こうして太っちょ先生は、意味のわからないことを空手道部員一人一人に話すと、みんなを困らせていた。さとみ先生を逃した腹いせなのか?なんなのか?わからなかったけど、結構迷惑だった。


「いいか!?お前ら!」太っちょ先生は、最後に大きな声で僕たちに言った。

「俺の名前を言ってみろ!」

「は?え?なに??」そこにいる全員が意味がわからなかった。

「え?二宮先生でしょ」副キャプテンが言う。


「ブブー!!残念!二宮なんて奴は私は知りません!」太っちょ先生は言った。


「いいか?俺は単に暇つぶしで来ただけだ。お前らなんてなんとも思っていない!当然弟子だとも思っていない!いいか!二宮なんてやつはそもそも居なかったんだ!嘘だと思うなら調べてみればいい。二宮っていう空手やってる奴を探してみればいい!そんな奴はいないんだ!」


「え?ちょ‥先生何を言って‥‥」誰かが言ったが先生は無視した。


「単に暇つぶしに来ただけ!宇佐美先生って誰?って感じ!あのじいさんに何も言われてないっての!だからいいか!お前らと俺は元々関係がない!お前らに空手を教えた事もない!指導したこともない!お前らみたいな弱っちい奴らを教えるなんて、そんな奇特な奴はいない!俺もそんなに暇じゃない!わかったか?お前らなんて知らんし!お前らも俺のことは知らない!!いいか!!わかったか!?」


 そう言うと、転がっている不良のところに歩いていき、


「お前らは絶対に許さねぇからな!きっちり賠償してもらうからな!特にお前!」


そう言うとボクサーの「千葉」という男のところに歩いていった。ボクサーの髪の毛を掴むと無理やり自分の方を向かせた。


「おい!お前の都議会議員のオヤジに言っとけ!俺の計画を邪魔した罪は十分に償ってもらうからな!逃げようって言ってもぜってぇ逃がさねぇ!てめえらの人生も終わらせてやるからな!絶対に許さねぇからなぁ!!分かったか!こらぁ!」


 そう言ってバチン!と顔面をフルパワーのビンタをした。


 太っちょ先生は、そのまま体育館の入り口のところまで歩いて行った。そしてこっちを見た。


「バカやろう!!お前らなんて大嫌いだァ!!うわあああ!」


 そう叫んで太っちょ先生は走ってどこかに行ってしまった。僕たちはあまりの出来事に、何が何だか良くわからなかった。だけど、先生が居なくなってしまった事はわかった。


 あれが先生流のサヨナラだったのだろうか?

だけど、やはり印象に残っているのは、やっぱり太っちょ先生は「童貞」だったんだな。という妙な納得感だけだった。


 これが僕たちと太っちょ先生の最後の時だった。

これ以降誰も先生を見た人は居なかった。熱くて暑い夏だったと僕たちはどう考えたって一生忘れられない。そんな夏だった。 

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