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救世主伝説

 僕はなんだか違和感があった。以前見たことがあるような光景だったから。


 さとみ先生が出て行ったのだろう、体育館のドアが閉まる音が聞こえた。


「オイオイ、この程度でくたばるのは早くね?こっちはまだまだやりたりねんだけど」


 金髪の男は、太っちょ先生の髪の毛を掴んで無理やり立たせた。そして思い切り助走をつけて太っちょ先生目掛けでてパンチを出した。


 バーン!という音がした!


 だが、その光景に驚いた。


 なんと吹っ飛んだのは、金髪の男だったのだ。数メートル程後ろに尻餅をついて倒れ込んだ。口からはおびただしい血が出ていた。


「さとみ先生も中々強情だね」そう言うと、太っちょ先生は笑顔を見せた。


 あれだけ殴られて、蹴られたのに、太っちょ先生の顔はいつもの通りで、傷一つ付いていなかった。そうだ、以前見た海老名先輩と町田先輩の攻撃が先生に当たった時もこんな感じだった。つまり先生は全ての攻撃をワザと受けていたのだ。しかもノーダメージで。


「せ、先生‥‥」キャプテンが言った。


「君たち!君たちは素晴らしい!最後まで手を出さなかった!」


 いや、最後は出そうとしたけど、当たらなかったとは言える雰囲気ではなさそうだ。


「僕は感動したよ。だって皆のためこんなチンピラみたいなの相手に、手を出そうとしなかった。君たちは立派な武道家に育ってたんだね。僕は安心した。君たちはこの先もきっと立派にやっていける!だから敢えてここからの言葉は、しっかりと聞いておいてくれ!」


 太っちょ先生は、卒業生たち不良を無視して僕ら空手部員に話していた。


「君たちが打ちのめされているのは分かっている。辛いだろう、叫びだしたいであろう。泣くな!絶望するな!そんなのは今することじゃない」


 太っちょ先生は、にこやかな顔をしながら一方で不良たちを押さえつけるような鋭い眼光で言った。


「笑止千万!弱者には何の権利も選択肢もない。ことごとく力で強者にねじ伏せられるのみ!」


 僕は何か違和感を感じた。太っちょ先生はさらに続けた。


「生殺与奪の権を、他人に握らせるな!惨めったらしくうずくまるのは止めろ!」


 僕は驚いた。まさかここで、この状況で漫画の名言をカマしてくるとは!?

 というか、その場にいた全員が呆然としている。太っちょ先生は、セリフを言い終えて満足したのか、天井を見上げて遠い目をしていた。


「て、てめぇ!何してんだ!こらああ!!」

「てめぇ、ふざけんな!こらぁ!」


 サングラスの男とスキンヘッドの男が、大声で太っちょ先生に怒鳴った。正直僕はこの言葉だけは同意したい気持ちだった。


「ち、こんなデブ大したことねえって!」スキンヘッドの男は苛立っている。


 ふたりの男は、太っちょ先生に殴りかかるものの、全く相手にならない。先生は余裕の動きで彼らを翻弄し、足を引っ掛けて転ばせたり遊んでいるようだった。


「てめぇ‥‥殺してやる」その時、怒りに震える金髪の男が立ち上がった。


「おい、大丈夫か?」スキンヘッドの男が、金髪の男に聞く。


「ああ、こんな奴どうって事ねーよ!ぶっ殺してやる」


 金髪の男は、スキンヘッドの男に言った。

だが、その会話を聞いた太っちょ先生の動きが止まった。


「てめぇ、今なんつった?」


 聞いたことのないような、低い声で先生は言った。


 そのやりとりの直後僕たちは見て驚いた。いつもにこやかな先生の顔は鬼のような恐ろしい顔になっていたからだ。


「てめぇ、なんつったのか聞いてんだよ?あ?」

「は?しらねーよバカ!」

「てめぇ、今俺のことを童貞って言いやがったな!?」

「はぁ?なんだそりゃ!?知るかよバカやろう!気持ちわりーんだよ!デブ!」


 金髪の男は、そのままふとちょ先生に殴りかかった。


 太っちょ先生は、そのまま軽い感じで構えるとあっという間に、金髪男の懐に入り込んだ。そしてそのまま軽い感じで、男の顔の左右に拳をパン!パン!と2回当てた。そのまま、金髪の男は倒れ込んだ。


「お前、喋りすぎだよ。うるせーから罰を与えてやるよ。知ってるか?世紀末救世主の話?お前はもう死んでいる!つってあべしーっていって爆発んすんだよ。俺もよく読んだわ」


 先生はなんだか口調がちょっと乱暴になっていた。


「んで、俺研究したのよ。そしたらいい方法が思いついたんで、お前に今やってみた。いいか?最初の一撃で、お前の前歯を折ってる。そんで、今の2発な。あれでお前の奥歯を折った。どういう事かわかる?奥歯折ったらさ、そこってプラントもブリッジも何もでき無いわけよ。つまりお前の歯もう歯茎からガタガタになって、抜けていく運命なんだよ。だから、お前の歯はもう死んでいる!20代で総入れ歯とか最高かよ!!おめでとう!ははははは!!あはははは!」


 太っちょ先生は、大笑いしている。なんだか顔が本当に愉快そうだった。


「おじさん、三十過ぎていい大人なんだけど未だに短気でさ。ムカつくと、とことんやらないと気が済まないのよ。あはは!それとお前!歯は大切にな!」


と先生は言って、男の顔面を踏みつけた。先生は容赦なくぐりぐりと靴で男の口を踏みつけていた。


「てめぇ!教師がそんな真似していいと思ってんのか!?」


たまりかねたのか、スキンヘッドの男が怒鳴り散らした。


「あん?お前何言ってんの?」


 太っちょ先生は、スキンヘッドの前にさっと寄って行った。


「く、来るな!お前みたいな教師が居ることが、教育委員会にわかったら、お前ここに居られなくなるぞ!ざまーねーな!おっさん!その年で無職だな!」


 太っちょ先生は、全く気にせずこう言った。


「お前、ルパン三世だと誰が好き?」

「しらねーよ!バカやろう!」

「じゃあ、お前は銭形警部の刑な!歯を食いしばれ!」


 そう言うと、太っちょ先生はいきなりスキンヘッドの男の顎にカカトで蹴り上げた。冗談抜きでスキンヘッドの男は真上に1メートルほど跳ね上がったように見えた。

 

 スキンヘッドの男の前歯は数本この時点で飛んでいった。そして口からおびただしい量の血が流れ出た。


「お前、誰が好きって聞いたのに、答えなかったら銭形警部の刑にした。銭形警部ってほら、ケツあごだからさ、顎の骨折ってやったよ。ふふふ。ふあはははっはは!銭形警部ってお前、あははは。笑えるよ。マジで‥‥あははは」


 スキンヘッドの男は、完全に気を失っていた。


「あのさ、てかさ、俺そもそも教師でも何でもないから。ていうか警察でもないし、裁判官でもない。なんでお前ら大人は善人て思ってんの?マジでウケるんだけど、空手なんてのは合法的に人をぶっ飛ばせるからやってるだけだっつーの!お前らの方から来てくれるんならこりゃ思いっきりできるから最高だよ。あははは」


 僕はこれが本当にあの太っちょ先生なのか、よくわからなくなってきた。

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