腰抜け先生
僕の記憶は曖昧だ。
だからここから先の話は、記憶が定かではない。なので記憶が違う事もあるかも知れない。でも僕が見たことは真実だと思う。
バーン!と大きな音がした。
音の方をみんなが見た。どうやら誰かが体育館のドアを勢いよく明けたらしい。僕の学校の体育館は珍しくエアコンが完備していた。だから夏でも扉は閉めっぱなしで、出入りできる入口は1箇所しか無かった。
そこに立っていたのは、空手衣を着た太っちょ先生だった。
太っちょ先生は、体育館の真ん中の方につかつかと歩いてきた。いつものにこやかな笑顔のままだった。
「さとみ先生、チア部の子と一緒に体育館の外に出てもらえますか?」
にこやかな笑顔のまま、いつもの調子で太っちょ先生は言った。
「はぁ?おい!デブ!てめぇ何言ってんだ?」
金髪の男は、太っちょ先生に大声で怒鳴った。
「さとみ先生、チア部の子と一緒に体育館の外に出てもらえますか?」
太っちょ先生は、全く同じセリフをもう一度言った。
「なぁ、君たち、そうは言っても僕も男だ。だから言う事を聞いてくれ、聞いてくれたらこれはマジで10万円払うよ」
僕は愕然とした。僕らがこんなにボロボロにされたのに、お金で解決を図ろうとしてる。何でそんな事をするんだよ!それともそこまでしないと行けないほどの相手なんだろうか。
「はは。十万くれるって?けどな、デブのおっさん、こいつら外に出したら、警察呼ばれちゃたまんねーからよ!できねーわな!」金髪の男はそう言った。
「なら、一人ついて行ってもらって、電話とかさせないように、してもらっていいよ。僕はこの場を収めてもらうために、なんでもするよ。その姿を見られたくないんだ。頼むよ。お金も20万円にしよう」
「へぇー!お前、何でもするって言ったな。じゃあ、ボコられても文句ねーな?」
「文句は言わないよ。警察には電話しないで良いよ。そして見張っててくれれば良いよ。僕は収めたいだけだから。そしてその姿を見られたくないんだ。」
「おい!こいつら外で見張っとけよ」
刺青の男が入り口付近にいたチェーンの男に指示をした。
「さとみ先生、大丈夫ですから、今は一旦外に出てください。僕は生徒たちの為になんでもやりますから、せめて見られたくないので‥‥察してください」
「‥‥分かりました‥‥でも、出て行くのは子供たちだけです。私にはこの場の監督する立場があります」さとみ先生は頑なに出て行くのは断った。
「さとみ先生、本当にお願いします。僕はなんでも耐えられるのですが、あなたに見られたくないんです。絶対に大丈夫ですからお願いします!」
太っちょ先生は、いつもの口調よりやや早口でさとみ先生にお願いした。
「でも‥‥」さとみ先生は、それでも去ろうとはしなかった。
チア部の生徒たちでその場にいた十数名は、徐々に外に出て行っていた。
「なんでも良いけどさ、さっさとやりたいんだけど、別に誰が出てこと関係ないわな!」
金髪の男が、太っちょ先生を殴りつけた!先生の顔は大きく回転して倒れた。
「きゃ!」さとみ先生は悲鳴を上げた。
金髪の男は、太っちょ先生のお腹を蹴り上げた!先生は後ろに数メートル吹っ飛ばされた。
「いやあああああ!」「きゃああ!」さとみ先生とまだ残っていた女子生徒達は悲鳴を上げた。
「マジ笑える!デブのくせに吹っ飛ぶぜ!このおっさん!俺の蹴りの威力上がっちゃった?」
金髪の男は、太っちょ先生がぶっ飛ぶのを見て、大喜びしている。金髪の男はそのまま左右のパンチを太っちょ先生に浴びせた。先生の顔は右と左に大きく振られた。
さとみ先生は、もう下を向いてしまった。
20秒近く殴打された太っちょ先生は、下を向いてうなだれた。
「さとみ‥先生‥お願いです。外に‥出てください‥。僕は絶対にだ‥いじょ‥‥ぶ‥ですか‥ら」
息も絶えだえに太っちょ先生は、さとみ先生に懇願した。
「おい!このおっさんよっぽど、見られたくないんだってよ。だったら思いっきりやっちゃおうかなぁ!」そう言って金髪の男はまた先生に蹴りを入れて、パンチを浴びせた。
太っちょ先生は、都度吹っ飛ばされては、うめき声を上げならヨロヨロと立ち上がった。
「お‥ねが‥い‥だ‥から‥‥そ‥と‥に‥‥」
その言葉を聞いたさとみ先生は、キツく目を閉じて「直ぐに助けを呼んできます!」と言って、体育館の外に走り出た。
と同時に、太っちょ先生はそのまま倒れ込んでしまった。




