少女の思い
太っちょ先生は、空手部員から絶大な人気をいつの間にか得ていた。
そもそも授業を受けもっていないのと、部活の時しかいないので話しかけやすいこともあるし、太っちょ先生の何事も真剣に聞いてくれる態度や、的確な意見や感想を言ってくれるからだと思う。
噂を聞きつけた、空手部と関係のない人まで現れたりもした。
体育館に行くと、部活の開始前に先生を中心に何やら1、2年生が話をしている。
見ると美術の授業で書いた絵を見ていたらしい。
「へぇ!上手だね!色使いが凄いね。あと的確に対象を捉えてるね」
「本当ですかぁ!?えへへ」
1年の女子が笑顔で照れていた。
「こっちも見てくださいよ」
「お、これはまた大胆な構図だね。物事の捉え方はなかなか難しいんだよね。テクニック面はよくわからないけど、僕はこの絵好きだよ」
「やったあ!だったら自信持って提出しよ!」
などという会話が聞こえ、1年の男子が子供のような笑顔で言った。
「私、英語の成績が悪くて、授業にもついていけなくて‥‥」
と、2年生の女子が泣きつけば
「僕も英語苦手だったなぁ。でもね、実際に外国に行ったら意外とジェスチャーで通じたりするんだよね。だけど、だから文法とかの前に、単語並べるだけでも通じるんだよ。単語がわかったらより正確に伝えるために文法を勉強する。そしたらいつの間にか英語が話せるようになっちゃった。変に苦手意識なんて付けない方が良いんだよ。」
と太っちょ先生の実体験を話すから妙に説得力があった。
なんでも知っていて、的確に答えてくれて、確かに信頼できる人だ。
空手の腕前も相当なんだと思う。
優しいし、面白いし、空手も強い!すごい人だ!
「けどまぁ、太っているからなぁ」と、どこかで油断していたのかもしれない。
サラがなんとか太っちょ先生に絡もうとするものの、きっかけが無くてやきもきしていた。
最近は部活の終わりにこんな事があった。
「あの、二宮先生!」
「ん?ああ、君は確か体育館の階段のところで会ったよね」
「あの時は、ありがとうございました。お礼を言いたくて」
「お礼??ああ、そんなの気にすること無いよ!怪我なくてよかったね」
「あの‥‥少しお話しいいですか?」
「うん!いいよいいよ。何の話?」
サラと太っちょ先生は、体育館の端っこで親しげに話し始めた。
こんな会話をボクと松崎は、歯ぎしりしながら盗み聞いていた。
「実はすごい好きな人が出来たんです。」
「へー、それはよかったね!すごく好きな人って言えるほど好きなんだね」
「でも、その人は年上で、きっと私のことなんて‥‥」
「そうかなぁ。好きとか嫌いとか年齢あんまり気にする人居ないんじゃない?」
「高校生くらい?それとも大学生くらい?」
「うーん、ちょっと違うなぁ」
「ふーん、それじゃあ、社会人かぁ。結構年上だね」
「最近知り合ったんです!しかも学校で!!」
「へぇ!学校でねぇ。どんな人?」
「うーんと、ちょっと小柄かなぁ。でもね、ちょっぴり太め」
サラはそう言うといたずらっぽい目で笑った。
「うーん、ちょっと小柄ねぇ。それでちょっぴり太めかぁ‥‥」
太っちょ先生は、空を見上げながらしばらく考え込んだ。
「ふーむ、数学の若い先生!!そうじゃない?」
「違います!!」
サラはシブイ顔をして即答した。
「その人は、私を助けてくれたの!王子様って感じ!きゃあ!」
サラはワザとはしゃいだ感じで太っちょ先生に言った。
「王子様かぁ。なら2年の国語の先生?王子様っぽいよね!」
「じゃあね!ヒントねヒント!!その人はなんと空手をやっているの!!」
「まじ!?それは凄い!空手やってる人で王子様っぽいなんて、カッコイイね!僕の経験上あんまり王子ぽい人居なかったからなぁ。今度紹介してよ!空手仲間同士有力な情報を聞き出してあげるよ!」
太っちょ先生はニッコリとサラに笑いかけると、じゃあまたと言って去っていった。
ボクと松崎はほっとした反面、あそこまでのヒントを出していたのに、カスリもしない太っちょ先生の回答に、何かおかしな雰囲気を感じた。
サラを子供扱いしていると言うよりも、本気でそんな人がいると思っている雰囲気だった。
一方サラは、全く相手にされなかったことにショックを受けているようだった。
「サラ!先生に何話してんだよ?」
僕はいたずらっぽくサラに聞いた。
「うるさいなぁ!ほっといてよね!」
そう言ってふくれっ面をした。
「あ!そうだ!!ねぇねぇ!ケンジ君達!二ノ宮先生って何が好きなのかな?」
「え?食べ物?さぁ?」
「なんか趣味とかは?」
「ええ?さぁ?」
「なんでずっと一緒にいて知らないのよ?ね!協力してよ!」
サラは両手を僕たちに合わせてお願いしてきた。
僕たちは複雑だ。サラの事が好きで二人で争っていたつもりが斜め上に向かってしまったわけだから。
僕たちは回答に困っていると、チア部の人たちがサラを呼んだ!
「はーい!じゃあ、頼んだからね!」
そう言ってサラは、チアリーディング部の仲間のもとへ帰っていった。




