たいせつ3
暫くの沈黙の後、キルト伯爵は椅子から立って後ろの本棚から一冊の本を取り出した。
「キルト伯爵?」
「情けない話だが、ハルフが死ぬ前夜に電話で話していてな。その時に言われたんだ。『会わせたい人がいる。』って…。彼のことだったんだな。」
「そうでしたか。もしかして、ハルフ=キルトは…。」
「あぁ、結婚するつもりだったろうな。なのに私は…あっさりと否定してしまった。」
「ディスノイルはその電話相手を浮気相手だと思っていたそうです。ハルフ=キルトが、あまりにも必死だったから。」
このことは、ディスノイルを触った時に私の脳内に流れ込んできた『ディスノイルの記憶』から掘り出した。
私には、時折触った人の記憶が私の脳内に流れ込んでくる。
どういう理由かもいつ発動されるかもわかんないから、私も抑え様がない。
「全ては行き違いから始まったって訳だ。」
伯爵は本の間から一枚の写真を取り出した。
その写真を眺めて、切なそうな顔をする。
「伯爵?」
「すまなかったね、余計なことを話してしまった。」
「いえ、構いません。」
「ありがとう、ティアス。金は執事が管理してるから帰りがけに貰いなさい。幾らでもいいから。さぁ、今夜はもう遅いから宿をこちらで手配しよう。」
「ありがとうございます、キルト伯爵。」
そう言って、私は部屋から出た。
執事の人にお金を貰って宿に向かっている時に執事さんに聞いてみた。
「キルト伯爵が大切そうにしてた写真…御家族の写真ですか?」
「えぇ。奥様が亡くなる前夜に撮ったんです。旦那様は奥様が亡くなられてからずっと、大切になさっています。」
指輪から見えた記憶。
キルト婦人が亡くなった後のことだ。
キルト伯爵は指輪をハルフに渡すと、絶対に指輪を無くしてはならないと言った。
『これはお父様が持っていなくていいの?』
『優しいね、ハルフは。でもお父さんにはこの写真があるからいいんだ。』
優しいキルト伯爵の微笑み。
その微笑みに安心したのか、ハルフはニッコリと笑った。
家族…私が無くしたもの。
私には、手に入れられないもの。
分からないものが、またひとつ。




