コント:実況が解説に密かに片思いしてる
ボケ「みなさん、改めましてこんばんは。
プロ野球世田谷ジャイアンツVS八王子ライオンズ。
現在8回の裏、緊迫の場面です!
実況は私、佐々木達彦。解説は『三遊間に住む男』、三島遊人さんでお送りしています。三島さん、よろしくお願いします」
ツッコミ「よろしくお願いします」
ボケ「さて改まして…三島さんは現役時代、ジャイアンツの正遊撃手として実に20年近くご活躍されておりました」
ツッコミ「はは…何だか照れますね」
ボケ「三島さんは小学校時代、お兄さんがキャッチボールをしているのを見て野球を始められたんですよね?」
ツッコミ「ええ」
ボケ「そして中学からはリトルリーグに所属し、最初はピッチャーで四番打者を担当。毎週末の試合にはお母さんが必ず観戦に来ていたものの、秋頃人生初めての彼女ができてからは、お母さんに『もう試合見に来なくていいよ!』と啖呵を切ってしまい大げんかに…」
ツッコミ「ちょ…ちょっと待ってください」
ボケ「どうされましたか?」
ツッコミ「やけに詳しすぎませんか?」
ボケ「何がですか?」
ツッコミ「私の情報が、リアルすぎてちょっと…あ! もう試合再開してますよ」
ボケ「あ、本当だ。ちぇっ…」
ツッコミ「今、『ちぇっ』って言いました?」
ボケ「いえ。あ…ピッチャーが、何か投げたみたいですね。すごい。それで三島さんは…」
ツッコミ「『何か』ってなんですか!? 私の話は後でいいので、ちゃんと球種を伝えてください!」
ボケ「あぁ…はい、また投げた。今度は曲がりましたねえ。三島さん、あれは何でしょう?」
ツッコミ「もうちょっとやる気を出してくださいよ。あれは、カーブですよ。先発の石神選手は、決め球のカーブが序盤決まりだすと…」
ボケ「なるほど、カーブ! それを即座に見抜く、三島さん!」
ツッコミ「…恥ずかしいので、あまり大声で褒めないでくれませんか? 大体、目の前のモニターに大きく表示されてるじゃないですか」
ボケ「ものすごく曲がるカーブ! まるで、三島さんの眉毛のような曲線!」
ツッコミ「…その例え、気持ち悪いんでやめてもらえません?」
ボケ「さぁ俄然盛り上がって参りました!」
ツッコミ「今の会話のどこに、この人のやる気スイッチがあったんだ…」
ボケ「ピッチャー第三球、投げた! 三島さん! あの投げ方は、三島さんがプロ四年目の五月、二軍で監督と必死に投球フォーム作りを模索していた時のに、似ていますね!?」
ツッコミ「だから詳しすぎるんですよ! 誰が分かるんですか、そんな細かすぎる情報!?」
ボケ「あの時はまだ三島さんも寮生活で、監督とほぼマンツーマンで、手取り足取りみっちり指導してもらっていたとのことですが…」
ツッコミ「…だから何ですか?」
ボケ「その後元監督とは、何も?」
ツッコミ「何もって? もちろんたまに連絡くらいは、取り合っていますけど…」
ボケ「ふぅん…」
ツッコミ「…何なんですか。さっきからその目は」
ボケ「いえ…電話したりするんだなァ、って」
ツッコミ「そりゃするでしょうよ」
ボケ「…私も、電話していいですか?」
ツッコミ「は!?」
ボケ「だから私もその…たまに三島さんに電話していいかなァって」
ツッコミ「私にですか? 何のために?」
ボケ「そりゃ、色々ですよ…。『三島さん。さっきの球種、何ですか?』とか」
ツッコミ「電話で聞いてちゃ遅いでしょう!? 大体私も、その時その試合を見てるとは限りませんから!」
ボケ「…迷惑ですか?」
ツッコミ「ヘェッ!?」
ボケ「もう私…三島さんに球種を尋ねちゃ迷惑なんですか…っ!?」
ツッコミ「いや迷惑っていうか…。だって、モニターに書いてあるし…」
ボケ「…っぐ」
ツッコミ「……」
ボケ「…えぐ、ひっぐ! うあぁ、ああぁん!!」
ツッコミ「……」
ボケ「はぁあんッ!! ふぁあ、あぁあん!!」
ツッコミ「…分かりました、聞いてください」
ボケ「…ぁあ、あぁあん!! あぁん…え?」
ツッコミ「…聞いていいですよ」
ボケ「…え? いいんですか?」
ツッコミ「もちろんです。私にいつでも、球種を尋ねてください」
ボケ「本当に? 真夜中でも面倒臭がらずに、既読つけてくれますか?」
ツッコミ「大丈夫です。野球で分からないことがあったら、いつでも電話なりメールなり、してください」
ボケ「…よかった!」
ツッコミ「…ほら、もう鼻水拭いて。そんなことしてる間に、試合終わっちゃいましたよ」
ボケ「…本当だ。三島さん…」
ツッコミ「はい?」
ボケ「終電、無くなっちゃいましたね…」
ツッコミ「いや、さすがにあると思いますけど…」
ボケ「三島さん…!」
ツッコミ「…何ですか?」
ボケ「最後に…『ストライクゾーン』って教えてもらってもいいですか?」
ツッコミ「いやそこからかい!!」