第96話 消耗戦
大きな爆発音とともに、集落の一角にあった建物が吹き飛ぶ。
「始まったみたいだね」
「ああ」
今のはフレアボムの魔法だろう。
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フレアボム【火属性】レア度:☆☆☆
中級の火属性魔法。
高熱を帯びた岩石を放ち、辺り一面を全て吹き飛ばす。
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一言でいえば爆弾だ。
今の爆発で多くのゴブリンが巻き込まれたと思う。
100体以上死んだんじゃないか?
ただ、素材も魔石も全部吹き飛んでしまったので……奇襲としては成功なのかもしれないが、出来れば多用してほしくはない。
今の爆発で生き残ったゴブリン達は大混乱だ。
そこに四方から各部隊が集落を襲撃する。
統率の取れてないゴブリンを一気に倒していく。
「奇襲は大成功だけど、相手はまだまだたくさんいるからね。さっ、シュートは所定の位置について! 今から忙しくなるよ!」
「分かった!」
俺はナビ子から少し離れて、個室の窓を外から開ける。
そしてデザートトードとハニービーの集団を召喚する。
「よし、じゃあ手はず通りに頼む!」
デザートトードは窓の縁、ハニービー達は部屋の中で待機する。
次に俺の護衛兼癒やし枠として、ゴブリンウィッチを召喚。
星3以下のゴブリンがこの場所にやって来たら、ゴブリンウィッチだけで倒せる。
数が多ければ、まだカードに残しているレッドボアやグランドワームにも手伝ってもらおう。
そしてもし星4のゴブリンがやって来たら、遊撃隊を誰か呼び戻せばいい。
まぁ星4の場所は全てナビ子が把握しているので、こっちにやって来ないようクイーンビーを通して遊撃隊に指示する。
ナビ子は早速クイーンビーが感覚共有しているキラービー相手に、指示出ししている。
俺もナビ子から指示があるまで分解をしながら待機することにした。
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「次! ウサ16!」
ナビ子が叫ぶと、窓の縁にいるデザートトードが舌を伸ばして、床にあるカードを取る。
俺はそれを受け取ると、すぐに返還を唱える。
そして、すぐに解放。
カードから召喚されたウサ16――ツインホーンラビットに、ゴブリンウィッチがポーションをぶっかける。
回復したツインホーンラビットは、元気になり戦場へ戻っていく。
手元に残ったカードは、ハニービーが元の位置に戻す。
――さっきからずっとこれの繰り返しだ。
最初の奇襲で100体、巡回や偵察ゴブリンがいないと考えても、まだ残りは700体はいる。
それに対してこちらは星1のキラービーやホーンラビットを総動員させて100体くらいだ。
こちらの数が圧倒的に足りない。
そこで苦肉の策として考えたのが今回の作戦だ。
ナビ子が気配察知で、ヤバそうな仲間を見つける。
そこで俺が死ぬ前に返還を使えば、どこにいようが戻ってくることが出来る。
死んだら半日休ませないといけないが、死ななければ回復魔法やポーションで回復させることが出来るし、重傷ならそのままカードの中で休ませる。
元気になったら戦場に復帰って訳だ。
こっちはどれだけ戦っても数は減らず、ゴブリンは着々と数を減らしていく。
この作戦の問題は、俺が100枚のカードを上手く探して返還出来るかということ。
モタモタしていると、仲間が死んでしまう。
そこで、カルタのようにカードを敷き詰めて、番号を振った。
そうすれば、デザートトードやハニービー達が手伝ってくれる。
部隊別、数字も順番にしていれば、探すこともない。
ただナビ子は俺が数字を書いている時にいなかったので、どのモンスターがどの数字を振られているか分からない。
そこで、召喚した順番に数字を振る。
召喚したカードモンスターは最初にナビ子のところに向かわせたからな。
その時の順番でナビ子は把握している。
ナビ子はカードモンスターの区別はハッキリとつくようだから、後は気配察知でヤバそうな順で番号をいっていくだけ。
「次! 蟻56と蜂32!」
と、今度は蟻と蜂か。
本当に忙しいな。
それだけ激戦を繰り広げているってことだ。
しかし……これじゃあ分解を使い込む暇がない。
って、ナビ子ほど忙しいわけでもないし、なにより前線で頑張っている仲間達のためにも泣き言は言っていられない。
「あっ! 次フェアリーとピクシー! 向こうが終わったみたい」
しかも集落だけじゃなく、全体を見ているんだもんなぁ。
本当に感服するよ。
「冒険者たちはどうなった?」
「やっぱりあの人たちだけじゃ、ゴブリンガーディアンは倒せなかったみたい。次! 蟻49とウサ11。ウサは休憩!」
答えている間も集落のことは忘れない。
俺はデザートトードから受け取った4枚を返還して、休憩のウサ11以外を解放する。
蟻49にはウィッチがポーションを掛けて戦場へ向かわせる。
「ゴブリンガーディアンを倒したのはフェアリーのサフォケイト。どれだけ頑丈なゴブリンでも、息ができなきゃ駄目みたい」
「ぴぃ!」
「ぴぴぴぃ!」
ドヤ顔になるフェアリーと自分も頑張ったとアピールするピクシー。
相手を窒息死させる風魔法のサフォケイト。
やはりめっちゃヤバい魔法だったか。
「助かった冒険者は手紙を読んでちゃんと帰ったよ。少し悩んでたみたいだけど、戦場の音が聞こえてたみたいだから、慌てて帰ったみたい」
「「ぴぴっ!」」
ナビ子の言うとおりのようで、2人が頷く。
流石に冒険者は帰ったか。
これで心配事はなくなった。
「2人ともご苦労様。このまま戦場に行けるか?」
「「ぴぃ」」
「あっちょっと待って!」
戦場へ向かおうとする2人をナビ子が止める。
「ゴブリン隊半壊! 62から70まで! まだ生きてるから急いで回収!!」
「何だって!?」
デザートトードは言われたカードをまとめて回収する。
それを受け取ると急いで返還する。
……うん。全員生きてる。
「ゴブリンジェネラルの威圧にやられて動けなくなってたの。あのままだったら、各個撃破されていたところだったよ」
そういうことか。
いくらナビ子が上位種の場所を把握して、戦場をうまくコントロールしても限界がある。
本来上位種を相手するはずのフェアリー達がいないのも響いたのかもしれない。
「そのゴブリンジェネラルがそのまま集落を出て、こっちに向かってきてるの。ここの場所がバレちゃったみたい」
返還した仲間が戦場に戻る場合は同じ方向からやってくるんだから、遅かれ早かれバレただろう。
「こっちに来ているゴブリンジェネラルは、さっきキングと話していた個体だし、気配をみても一番強そうだから、多分キングの次に偉い、この集落のナンバー2ね」
……だけど、そんな大物が来るとは予想外だ。
「お供のゴブリンとホブはウィッチに任せて、ジェネラルはフェアリーとピクシーに任せましょう」
「俺は?」
「シュートは今までと一緒! ナンバー2がこっちに来ても、集落の方は変わらないんだから、シュートが補充をしないと向こうが追いつめられちゃうよ! ほら、話している間にもウサ5と蜂40の回収急いで!」
くそっ! こんなことしか出来ない自分がすごく歯がゆい。
フェアリー、ピクシー、ウィッチ、頼んだぞ。




