第93話 作戦準備
ライラネートを出発して3日。
俺たちは目的地であるゴブリンキングがいる集落まで来ていた。
ホブA達と戦ったときのように、まずは全貌を把握する必要があるため、今は少し上から見下ろす場所にやってきた。
ここなら集落からはバレる心配はなく、ナビ子の気配察知の範囲内だ。
「とりあえず、ゴブリン達はまだ出撃する感じはなさそうだよ」
集落は武装しているゴブリンがウロウロしているが、比較的穏やかに見える。
ナビ子のいうとおり、まだ出撃する気がないんだろう。
にしても……本当に集落だよ。
洞穴じゃなく、ちゃんと建物がある。
まぁ建物自体は質素な感じだが。
あれだ! 昔の……竪穴式住居に似ている気がする。
それからギルマスが言ったように、ちゃんと畑もある。
そりゃあ、これだけの数がいるから、狩りだけじゃ賄いきれないんだろうな。
しかし、これだけちゃんとした生活基盤を整えていることは驚きだ。
ゴブリンだと侮りがちだけど……絶対に油断はできないな。
ナビ子によると、既にホブA以上の上位ゴブリンが25……いや、30体いるらしい。
既にギルマスの話よりも多い時点で、十分にそのヤバさが伝わってくる。
多分向こうがその気なら、今にも出撃できるだろう。
「今は偵察隊を待っているんだと思う」
最終段階の偵察隊。
キングはそのゴブリン達の帰還を待って攻め込むつもりのようだ。
まぁそのゴブリン達が戻ってくることはないが。
俺たちは、ここに来る前にいくつかゴブリンの群れと遭遇した。
遭遇といっても、相手は隠れて行動していたから、普通に移動していたら見つけられなかっただろう。
こっちにはナビ子がいるから、どんなに隠れていても、簡単に見つけることができた。
俺たちが見つけたゴブリン以外にも偵察隊はいるかもしれないが、
見つけたゴブリンに関しては、すでに対応している。
対応といっても、殺したわけではなく足止めだけど。
ナビ子の予想だと、同族支配のスキルの効果で、支配下にあるゴブリンを殺すとキングにバレてしまう可能性があるらしい。
それが本当か分からないが、カード化スキルだって、カードモンスターが死んだら分かるし、可能性は十分にある。
もし本当に分かるのなら、殺してしまったら帰還を待つ必要がなくなるから、早々に出撃してしまうかもしれない。
そこで、偵察ゴブリンはポイズンスパイダーで対応することにした。
偵察のゴブリンには上位種がいなかったので、星2のポイズンスパイダーで十分対応できる。
ゴブリンを糸で捕縛して近くの森に隠しておいた。
連れ回すのはユニコーンに負担がかかるので無理。
カードにすれば簡単なのだが、生きたままカードにすることは拒否されたので出来ない。
そのため戦力としては勿体ないが、ポイズンスパイダーに見張らせている。
それに、これなら仮にギルドの本隊に見つかっても、ゴブリンがポイズンスパイダーに負けて、餌になっているようにしか見えない。
俺の仕業とは誰も気づかないだろう。
ポイズンスパイダーには、冒険者に見つかったら、戦わずに逃げろといってある。
ゴブリンはギルドのものになってしまうが、ポイズンスパイダーでは冒険者に勝てる見込みはないから、仕方がないだろう。
できればギルドにはゴブリンを殺さないでほしいけど……ゴブリンが殺された時が、タイムリミットかな。
まぁ予定ではギルドの本隊がその場所を通るまで、まだ数日あるはずだ。
「ユニコのお陰で、時間の余裕ができたね」
確かにナビ子の言う通り、本当にユニコーンは頑張ってくれた。
クールタイム短縮のおかげで、今までの半分で回復できるようになったから、1日のうち、3分の1は走っていた気がする。
そのため、ゴブリンを捕まえたりしていても、予定よりも1日も早くたどり着けた。
「まぁそのお陰でこっちのまだ準備は完了してないけどな」
「結局レベル7になれなかったね」
道中、ナビ子の教えてくれた合成と分解の方法で回数を稼いでいたが、レベル7には到達できなかった。
魔力不足の問題は、魔法を使うことで、無事にクリアできた。
――――
ロブマインド【闇属性】レア度:☆☆☆
中級闇魔法。
対象から魔力を奪い取る。
対象の魔力抵抗によって成功率や奪う量が変動する。
――――
このカードを合成と分解に使用した。
魔力がなくなったら回復を待つんじゃなくて、奪えばいいってことだ。
敵からなら奪えない可能性があるが、味方からなら抵抗されないので、簡単に魔力を奪うことができる。
だから魔力がなくなったら、カードモンスターから魔力を分けてもらった。
俺がロブマインドの魔法を使うとカードは無くなってしまうが、この魔法なら魔法変化を使えば、合成せずとも補充が可能だ。
魔力を失ったモンスターは、カードに戻れば、そう時間をかけずに魔力はすぐに回復する。
多分これもクールタイム短縮のお陰だろうな。
カード化スキルがレベル6になったことで、本当に色々と機能し始めた気がする。
まぁそれでもレベル7には到達しなかったんだが。
理由は俺の体力不足。
いや、この場合は精神力といった方がいいかもしれない。
馬車の移動と分解で、想像以上に神経をすり減らしていたようだ。
魔力はあっても、休憩せざるを得なかった。
ただ、まだ時間はある。
ギルドの本隊との時間は稼げた。
ゴブリン側はまだ攻める予定はなさそう。
なら、この時間を利用するまでだ。
今から稼ぎを再開して、開戦前にレベル7にしておく。
「レベル7になったら攻め込むってことでいいよな?」
「もちろんそのつもりだけど、念のため、いつでも行ける準備だけはしないと!」
道中でレベル6のままでも勝てるような作戦をしっかりと考えてきた。
今すぐにゴブリンが行動を起こしてもいいように、ナビ子の言う通り、その準備だけは先にしないといけない。
「ふふん、ついにこのアタイが大活躍するときがきたわけね!」
ナビ子がめちゃくちゃ張り切っている。
まぁ今回の戦いはナビ子に全てが掛かっていると言っても過言ではない。
「とりあえず各リーダーを出すから、打ち合わせは任せた」
俺は古参とリーダーを召喚する。
ラビット部隊のリーダーのジャッカロープ。
ハチ部隊のクイーンホーネット。
アント部隊のクイーンアント。
ゴブリン部隊のゴブリンガード。
リーダーがそれぞれ種族のモンスターを率いて、ホブゴブリン以下のゴブリンと戦う。
この4部隊が四方に待機。
合図があったら集落へ攻撃を仕掛けてもらう。
そして、もうひとつの部隊が回収部隊。
リーダーはゴブリンシャーマン。
――――
ゴブリンシャーマン
レア度:☆☆☆
固有スキル:威圧、祈祷、闇の素質
個別スキル:人形遣い
祈りを捧げることにより、一時的に死者と会話ができるゴブリン。
ゴブリン種の中でも特に稀少種であるため、出会うことはないだろう。
――――
ホブゴブリンと闇魔法の合成で出来たけど、なんかスッゴいレアなゴブリンらしい。
このゴブリンシャーマンはネクロマンサーのように、死体を操ることが出来る。
ただ、その死体を戦力にするほどの力はないらしい。
今回はゴブリンの死体が山のように出来るだろう。
その死体をゴブリンシャーマンに集めてもらう。
残りのメンバーは3リス。
それぞれ進化して収納スキルも大きくなったので、魔石や素材集めを頑張って貰う予定だ。
そして、遊撃隊として上位種と戦うラビットA率いる古参軍団。
元々上位種と戦うつもりだったメンバーから、ラビット軍団のリーダーにするためにジャッカロープを外して、代わりにホブAが加わった。
ホブAが上位種と戦うのは正直無理があるだろうが、本人が強く希望したから仕方がない。
死ぬ前に返還すれば問題ないだろう。
一応遊撃隊のリーダーはラビットAとなっているが、個々で活動してもらうつもりだ。
「ナビ子。じゃあコイツらは任せた。俺の方もこっちで準備を始める」
「ほいほーい」
さて、リーダー会議はナビ子に任せて、俺の方は俺の方で準備に取り掛かることにしよう。




