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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第88話 ゴブリンキング

「ゴブリンキングを知っているか?」


 ギルマスは始めにそう尋ねた。


 そりゃあゲームでは定番中の定番だから、もちろん知らないはずがない。

 まぁそれは日本の知識であって、この世界の知識ではない。


「知ってるか知らないかと言われたら、知らないですが、名前からしてゴブリンの王様ってことですよね」


 ゴブリンキングか……そのうち作ってみたいなぁ。

 まぁ間違いなく星4か5だろうから、先の話だけど。


「……貴様が全く知らないことだけは理解した」


 どうやらギルマスが思ったような答えと違ったらしい。


「ゴブリンキングの話はこの国の者なら子供でも知ってると思ったがな」


 めちゃくちゃ常識だったようだ。

 若干呆れられたが、それでもちゃんと説明はしてくれるようだ。


 ゴブリンキングは全てのゴブリンを統べるものとして、数十年に一度誕生する。

 詳しくは不明だが、先代のキングの暴れ具合によって、誕生の周期が異なるらしい。


「暴れ具合って……やっぱりキングって言うくらいだから、強いんですか?」


「いや、キングは弱い。並みのゴブリンと同じくらいだ」


 並みのゴブリンと同じって……ホブゴブリン以下かよ。


「だが奴は厄介なスキルを持っている」


 そのスキルは【同族支配】と言うらしい。

 効果は全てのゴブリンを支配する。

 つまり、自分よりも強いホブゴブリンや、それ以上のゴブリンも含めて、ゴブリン族全てを支配下において、命令することができる。


 キングがその気になったら、号令ひとつで、全てのゴブリンが一斉に人間の国を襲うこともありえる。


「幸い前回は未然に防ぐことができたが、その前は支援ギルドに成り立てで、発見が遅れてな。2つの街と5つの村が滅ぼされ、3万以上の犠牲者が出たと記録に残っている」


 それってかなり大規模な被害だな。


「後手に回っても、相手はゴブリンでしょ? そんなに被害が出るんですか?」


 ゴブリンが何体いても魔法とかで簡単に退治できないのかな?


「そのゴブリンが万を超えていてもか?」


「万って……えっ?」


 それって数のことだよな?

 1万以上のゴブリンが攻めてきたってこと?


「先程貴様も言ったではないか。奴らは生殖行為が盛んでな。始めは1000程度のゴブリンだったが、村や街を滅ぼす度に膨れ上がってな。最終的には2万を超えていたそうだ」


 2万のゴブリン……それは確かに脅威だな。


「それにゴブリンだけではなく、ホブゴブリンやゴブリンメイジ、ゴブリンジェネラルなど上位種も存在していた」


 そっか。上位種も含めた全てのゴブリンって言ってた。

 ウチのホブAみたいなのが何百、何千といたら、本気でヤバい。


「それだけでなく、キングがヤバいと言われるもう一つのスキルがある」


 他にもスキルがあるのか。


「そのスキルは【同族進化】。同族を強制的に進化させるスキルだ」


「えっそれって……」


 めちゃくちゃヤバいスキルなんじゃないか!?

 だって……それを使えば、ゴブリンがホブゴブリンに、ホブゴブリンがそれ以上のゴブリンになるってことだろ?


「貴様にも事の重大さが伝わったようだな」


 確かに……ゴブリンキングが誕生しているのなら、本当にヤバいかもしれない。


「でも、何でキングが誕生したって分かるんですか? もしかして、もうどこか襲われた?」


「もし襲われているなら、すでに緊急依頼が出ている!」


 そりゃあそうだよな。

 ってことは、あの手紙でキングが分かったってことになる。

 さっきの地図もキングが居るであろう場所を探していたんだろう。


「でも……なんであの手紙でキングの誕生が分かるんです? ただ単に移住してきただけかもしれないじゃないですか」


 少なくともホブA達は全員ただのゴブリンだった。

 もしキングが同族進化のスキルを持っていたら、ホブAは最初から進化していてもおかしくないんじゃ?


「元々キングの誕生は確信していた。貴様の手紙は……最悪な情報をもたらしたことと、最悪な状況は防いだだけだ」


 最悪な情報と最悪な状況……。


「過去のキングもそうだが、キングが生まれてから村を襲い始めるまで、時間がかかる」


 キングは生まれてすぐに他種族を攻めるような真似はせずに、まずは戦力を整えることから始める。

 最初に行うのが集落をつくること。

 ゴブリンは基本的に大人数で生活することはない。

 精々数人のグループに分かれて、洞穴など雨風しのげる場所で生活している。


 そこでキングがゴブリンを集めて集落をつくる。

 家を作り、畑を耕し……まるで村人のような生活を始めるらしい。


 そして地盤が出来たら、次は同族進化のスキルを使い、戦力を強化する。

 幸いなことに、同族進化は頻繁に使えるスキルではないことが分かっている。

 調査結果によると、ゴブリンからホブゴブリンに進化するのは1日に3体が限界、それ以上のゴブリンにするには1日に1回が限界のようだ。


「キングは最初にゴブリンを100体程選ぶ。おそらく集落づくりなどから選定したのだろう」


 この辺は過去の記録と、ゴブリンを研究している専門家の意見らしい。


「キングは約1ヶ月かけて、その100体のゴブリンをホブゴブリンへ進化させる。ここが第二段階だ」


 第一段階は集落づくりらしい。


「この時点で選ばれなかったゴブリンは、ホブゴブリンの部下となる。だが、ゴブリンの中には、部下にもなれなかった、落ちこぼれゴブリンも存在する。そのゴブリンは役立たずということで、集落を追い出されてしまう」


「……もしかして、それが手紙にあったゴブリンだと?」


「追い出されたゴブリンは、決して人間や他の種族を襲おうとはせず、隠れて暮らすようになる。そっくりだと思わんか?」


 確かに……ホブA達と同じ状況だ。


「何故追い出されたゴブリンは人を襲わないんですか?」


「追い出されたと言っても、ゴブリンである以上、同族支配のスキルの支配下にある。キングが準備中の間に、他のゴブリンが暴れて飛び火するわけにはいかんのだ」


 追い出されたゴブリンが集落付近の村を襲ったら、そのままキングまで討伐される可能性がある。

 それを避けるために、なるべく離れた場所で大人しく生活するんだそうだ。


「そしてキングが行動を起こせば、追い出されたゴブリンも暴れ始める」


 ってことは、ホブA達はあそこでキングが行動を起こすのを待っていたと。

 ……後で本人に話を聞いてみよう。


「話を戻そう。1ヶ月掛けて100体のホブゴブリンを進化させたキングは、その中から更に半分の50体を、2ヶ月掛けてゴブリンソルジャーやメイジなどに進化させる。これが第三段階だ」


 ホブゴブリンから先の進化は1日1体が限界だから約2ヶ月。

 それで約50体が、今のホブA達と同じランクまで進化するのか。


「ホブゴブリンが昨日のリザードマンと同程度の実力と考えていいだろう」


 昨日の試験ではリザードマンは大したことないように思えるけど、あれはラビットAが異常なだけだ。

 試験官は中堅冒険者くらいの強さって言ってた。

 この時点で中堅冒険者以上の個体が50体いることになる。


「そして更に半分の25体が1ヶ月かけて次の進化を受ける。これが第四段階だ」


 ゴブリンソルジャーよりも上の個体。

 つまり俺ではまだ作ることが出来ない星4のゴブリン。

 さっきのギルマスが言ってたゴブリンジェネラルはそこなのかもしれない。

 ゴブリン族は固有スキルに威圧があるから、ウチのホブAじゃ絶対に勝てないゴブリン達が25体いることになる。


「そして第四段階まで終了すると、最終段階を経てキングが行動を起こすようになる。その数およそ千体」


 千体のゴブリンが一斉に攻めてくる。


「その最終段階ってのはいったい……」


「ゴブリンによる偵察だ」


「偵察って……人間を?」


「そうだ。ゴブリンにも探知系や隠密系のスキルを持った個体がいるのは知っているか?」


「ええ、それはまぁ」


 実際にウチにもいるしね。


「そういったスキルを持ったゴブリンを土地や人間の数などを把握するために偵察として送り出すのだ」


 ……まるで人間みたいだ。


「このゴブリンは最初に追い出されたゴブリンと同じように、決して人間を襲わず、コソコソと隠れながら調査をする。そして、その戦わないゴブリンの情報がここ最近急に増えてきた」


 えっ……それって最終段階ってこと?


「だが俺たちは、昨日貴様が持ってきた手紙を読むまでは、そのゴブリンが追い出されたゴブリン。つまり第二段階だと思い込んでいた」


「えええっ!? それってヤバいんじゃ……」


「だから緊急事態だと言っておるではないか!!」


「そもそも何で第二段階と最終段階を間違えてるんですか!」


「第二段階も最終段階もゴブリンの行動自体は殆ど変わらん! 第二段階のゴブリンが発見されてなかったら間違えても仕方がないだろうが!!」


 いや、だけどさぁ。


「本来なら近日中に探索が得意な冒険者グループを雇って、集落の場所を探させる予定だった。今叩けば前回同様、被害がなくキングを倒せるからな。それが実際は、その前の大惨事手前の状況だとは……」


 それで、俺が持ってきた情報は最終段階だと告げる最悪な情報だけど、ゴブリンが攻める前に気づいたことで緊急依頼を出せるから、最悪な状況は防げたってことか。

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