第84話 忘れていた手紙
バランの村を出発するまでは、カード化スキルは間違いなく3だった。
そしてレベル4を目指すべく、馬車の中でずっとレベル上げをしていた。
だから多分レベル4にはなっているとは思っていたが……まさか6になっているとは。
いかん。ものすごく気になる。
今すぐにでも確かめたいが……流石にここでは無理だ。
「何か問題がありましたか?」
俺の挙動が不審だったのか、アザレアさんが不思議そうに尋ねる。
「えっいや、なんでもありません。ちょっと感無量というか、嬉しくって」
「ふふっ大げさですね。それよりもこれからどうされます? サフランさんが合格されたら3人でお祝いしませんかと申されておりましたが」
お祝いか……そう言ってくれるのは、素直に嬉しいけど、本音は早くスキルを確かめたい。
「それとも何かご都合が悪いのでしょうか? でしたら日を改めますが」
「いや、大丈夫です」
まぁスキルは逃げないしね。
それよりも、せっかくだから二人と親睦を深めよう。
「では、わたくしも準備をして来ますので、少々待っていただけますか」
そっか、そういえばこの人今日は休みだから、俺のカードを発行したらそれで仕事は終わりだ。
そういうことだから、アザレアさんが戻ってくるまで、ギルドの中で待つことにした。
――改めてギルドを見渡す。
やっぱり賑わってるけど、事務的だよな。
俺も明日からはここで依頼を受けることになるのだろうか。
いや、明日はスキル確認だな。
でもせめて依頼の受け方くらいは確認しないと。
依頼は……あそこかな。
壁に大きく収集依頼、討伐依頼、護衛依頼、その他と書いてあり、それぞれの下に紙が貼られている。
ジャンル別に依頼が分けられているのは分かりやすいな。
俺は……護衛は出来ないだろうから、収集か討伐かな。
あっでも討伐依頼って、魔石の提出が必要だったらどうしよう。
魔石は手放したくないから、それだと討伐依頼は受けにくいなぁ。
後、その他って何だろう?
配達依頼とかかな。
「……あっ!」
「どしたのシュート。いきなり声をあげちゃってさ」
「いや……バランの村の村長から渡されていた手紙のことを思い出してさ」
街に着いたらギルドに渡すようにって頼まれてて……門までは覚えていたんだけど、それからすっかり忘れてた。
「……そういえば手紙を預かってたね」
どうやらナビ子も忘れていたようだ。
今回の手紙は、ゴブリンがいなくなった報告だから急ぎの用件ではない。
けど、もしこの手紙が村にピンチ……って内容だったらヤバかったな。
うん、俺に配達依頼は向いてないのかもしれない。
「忘れないうちに、アザレアさんが来たら渡してしまおう」
「何を渡していただけるのですか?」
っと、ちょうどよくアザレアさんが戻ってきてくれたようだ。
「実はバランの村の村長から手紙を預かっていたのですが、渡すのをすっかり忘れてまして」
俺は苦笑いを浮かべながら、アザレアさんに手紙を渡す。
「ふふっこれがもし正式な依頼でしたら大変でしたよ。……これはわたくしが拝見してもよろしいのでしょうか?」
「どうせただの報告だし、俺も受付に出すだけのつもりだったから、構わないと思いますよ」
「では忘れないように確認して、処理いたしましょう」
忘れるってとこを強調してアザレアさんが封を開ける。
確かに忘れていた俺が悪いけどさ、別にここで皮肉る必要なくね。
まぁそれだけ打ち解けてきたのかもしれないと解釈しよう。
「――シュート様はこの手紙を読まれましたか?」
アザレアさんが手紙に目を通しながら尋ねる。
さっきまでの穏やかな感じとは違い、真剣な表情を浮かべている。
「いいえ。読んではいません。ですが、おおよその内容は分かります。ゴブリンが移住してきたけど、もう退治されたって話ですよね?」
もし違ったらどうしよう。
まさかじいさんのことだったりして!?
……まぁもちろんそんなことはなく、ゴブリンの話で間違いないようだ。
「シュート様。そのゴブリンの移住がどのくらい前だか分かりますか?」
どれくらい前……か。
確か村長から話を聞いたときは、2ヶ月くらい前って言ってて、それから半月くらいしてここに到着だから……
「多分3ヶ月は経ってないはずですよ」
「3ヶ月……シュート様、申し訳ございません。わたくし急用が出来てしまいましたので、合格祝いは後日でよろしいでしょうか?」
「えっええ。それはいいのですが……その手紙、何か大事なものでした?」
「……そうですね。シュート様にも後ほど詳しく話を伺うと思います。もしかしたら明日になるかもしれませんが、必ずお迎えに上がりますので、宿で待っていていただけませんか?」
どうせ行く場所なんてないし、スキルの確認をしたいから、宿屋で待つのは問題ない。
「分かりました」
では……と、アザレアさんは俺の返事を聞いて、すぐに2階へと戻っていった。
「ねぇシュート。あの手紙、もしかしてかなり重要だったんじゃ……」
不安になるようなことをナビ子が言う。
……本当にヤバい内容だったらどうしよう?
****
「あっシュートさん。お帰りなさい。試験はどうでした?」
宿に戻るとサフランが俺の側にやって来る。
今は比較的暇なようだ。
「ああ、試験は無事に合格したよ」
ほら、と冒険者カードをみせる。
「へぇ……サマナーですか。珍しいですね」
「やっぱり珍しいんだ」
「もちろんですよ。私がここで働いてサマナーさんを見たのは数人だけですよ」
「それでもいることはいるんだ」
「でも他の職業と比べると、極端に少ないと思いますよ」
やっぱりそうなのか。
「ねぇシュートさん。サマナーってモンスターを召喚するんですよね? シュートさんはどんなモンスターを召喚するんですか?」
「……ウサギ、かな」
「へっ? ウサギですか?」
サフランが一瞬呆けた顔をする。
まぁいきなりウサギって言われれば、そんな顔になるよなぁ。
「うん。めちゃくちゃ可愛いから、今度見せてあげるよ」
「本当ですか! 楽しみです。あっそれでですね。シュートさんが無事に合格したらお祝いしましょうって、アザレアさんと話していたんですよ。シュートさんの言った通り、アザレアさんに話しかけてみたらちゃんと答えてくれて……普通にいい人でした」
どうやらあれ以来、本当に仲良くなったみたいだ。
「仲良くなれたのは良かったけど……アザレアさんの方が急用が出来たみたいでさ。お祝いは今度にしようって」
「そうですか……」
サフランがはっきり分かるくらい落ち込む。
本当に楽しみにしていたようだ。
うん、いい子だ。
「別にやらないって言ってるわけじゃないよ。……どうせなら、ちゃんと準備してさ。近いうちに派手にやろうよ」
「でも……シュートさん、冒険者になったからこの宿を出て行かれるんじゃ……」
なるほど。
俺が正式に冒険者になったから、この宿から出ていくと思ってたのか。
お祝い兼お別れも考えていたのかもしれない。
「ははっ出て行っても行く当てなんかないんだし、まだ当分はここに厄介になるよ」
幸いアザレアさんからポーション代として金貨10枚貰ってるから、現時点でも20日は住むことができる。
「本当ですか!」
……この嬉しそうなサフランの表情を見たら、少なくとも他の宿に移ろうなんて考えられないよ。




