第83話 冒険者カード
実技試験でラビットAがやらかしたが、試験官のリザードマンには勝ったので、試験に合格することは出来た。
だが、モンスターが意思を持ち、何度も召喚可能という、今までのサマナーの常識とは全く違った存在のラビットA。
合格しても、ギルマスと試験官から追求は免れそうもなかった。
俺は当初の予定通り、知らぬ存ぜぬを貫き通す予定だったが、同じサマナーとして、試験官が答えるまで許さないような雰囲気で息巻いていた。
「本人が拒んでいることを詮索することは、ギルドとしてご法度のはずですが?」
それを助けてくれたのはもちろんアザレアさん。
完全に自分のことを棚に上げているが、なんと心強いことか。
「しっ、しかし、同じモンスターを何度も召喚できるというのは、我々サマナーの長年の問題であり、それが解決となればサマナーの地位向上にも……」
アザレアさんの説明にもあったが、金食い虫のサマナーはやはり立場が低いみたいだ。
「詳しいことは申し上げられませんが、消費せずにモンスターが召喚できるのは、召喚スキルとは違うスキルの組み合わせで成り立っておりますので、シュート様しか扱えない様になっております」
「そのスキルの組み合わせとは……」
「それを申し上げることは出来ません」
だって机上の空論だしね。
「何故だ! もしかすると彼以外にも同じ組み合わせのスキルを持っているサマナーがいるかもしれない。これはもはやサマナーだけの問題ではないんだぞ! もしパーティーに魔石を消耗しないサマナーがいたら、確実に冒険者の生存率は確実に向上するぞ」
そういうものかな?
と思ったけど、もし消費しないモンスターがパーティーにいたら、戦闘だけじゃなく、先頭を歩かせるだけで、奇襲や罠の回避もできる。
あながち間違いでもないな。
「では、まずギルドの規約を、冒険者は能力やスキルは全て開示することと変更すべきです。そして、ベテラン冒険者から先にスキルや強さの秘密を聞くべきです。そちらの方が冒険者の生存率は上がります」
「そんなこと出来るわけがないだろ!!」
「では諦めてください。ベテランから秘密を暴かずに、駆け出しの冒険者だけ聞き出すのはギルドの立場を利用した圧力でしかありません」
「ぐっ、しかし……」
「もうよさんか。本人が能力の開示を拒んでいる以上、我々ギルドは深く追求はせん。アザレアの方が正しい」
尚も何か言おうとする試験官をギルマスが止める。
「それでアザレアよ。お前はコイツのスキルを知っているのか?」
「わたくしもスキルに関して少し相談に乗っただけで、詳しくは知りません」
「その観察眼を使ってもか?」
「シュート様が見られるのを拒んでおりますから、許可なく見ることは致しません」
真っ先に見たくせに……本当、よく平気な顔で言えるよな。
「それにギルド長も鑑定スキルを使って分かっているでしょう? シュート様はガードが固くて……気づかれずに見ることは敵いません」
「お前でも気づかれるのか。……ふははっ本当に面白い小僧だな。よし分かった。アザレア、お前にコイツの冒険者登録を任せる」
「わたくしは本日までお休みを頂いておりますが?」
「ふん。どうせこのために休んだんだろうが。いいからつべこべ言わずにやれ」
「畏まりました。ではシュート様。冒険者登録いたしますので、こちらへどうぞ」
アザレアさんに案内されて試験場をでる。
まさか一言も発さずに切り抜けれるとは思わなかった。
まぁ今後も色々と追求されそうな気がするが……
「ねぇシュート。アザレアが協力者で良かったね」
少なくとも彼女がいる限り、俺は平穏に過ごせそうな気がする。
****
「こちらがシュート様の冒険者カードとなります」
アザレアさんがカードを見せる。
そのカードには俺の名前と職業が記載されていた。
「ではこのカードにシュート様の血液を1滴垂らしてください。そうすれば、そのカードにシュート様の詳細情報が記載されます」
俺は言われたとおり血液を垂らす。
すると、冒険者カードにスキルとレベル、経験値が表示される。
「無事に表示されたようですね。ではこのまま登録させていただきます」
「……あれだけ隠していたけど、結局ここでバレちゃうんだな」
元々冒険者になることを決意したのは、冒険者カードに自分の所持スキルのレベルを知るためだった。
だから、どれだけ隠していても、結局ギルドには俺のスキルはバレてしまう。
「冒険者になるのでしたら登録は必須ですが、もしスキルが見られたくないなど要望がありましたら、出来る限り配慮させていただきます。ギルド長がわたくしを指定したのは、他の職員にシュート様のスキルを見られないようにするためでしょう」
「アザレアさんが今日まで休みを入れたのも?」
「ええ。本日仕事をしておりましたら、別の者がシュート様の登録をなさったでしょうから」
そこまで考えて今日まで休んでいたのか。
「じゃあ結局ここでカード化スキルはバレてしまったってことか」
さっき事前に言ったらカードを見ないように配慮するって言ったけど、この人は絶対に見るに決まっている。
「ふふっそうでしょうね。ですが、登録した冒険者情報は、基本的に誰も見ることはありません。それこそギルド長ですら、勝手に見ることは禁じられています」
登録は必須だが、その情報をギルド側が勝手に見ることはない。
確認することがあるのは、その冒険者が犯罪者になった場合。
その場合はその冒険者の情報を開示して捕まえることになる。
そしてもう一つが更新しなかった場合。
冒険者カードは更新する必要がある。
俺のように駆け出しの冒険者は年に1回。
中堅冒険者以上になると、3年に1回更新が必要になる。
その為、更新されなかったカード情報がリストに表示されるそうだ。
ちなみに、その仕組みに関してはギルドの秘密だといって教えてくれなかった。
協力者として教えてほしいと言えば答えてくれただろうが、知ってどうなるものでもないので、深くは追求しなかった。
俺の場合は犯罪者にならずに、中堅になるまで毎年忘れずに更新すれば、カード情報を他人に見られることはないってことだ。
「来年までに中堅冒険者になっておりますと、楽かもしれませんね」
アザレアさんがこともなげに言うけど、そう簡単に中堅冒険者になれたら苦労はしない。
冒険者の基準はレベルで表される。
モンスターを倒すと経験値が貰えて、一定数を越えるとレベルが上がる。
経験値はとどめを刺した冒険者にしかもらえず、レベルが上がる毎に次のレベルまでの経験値が必要になる。
また、モンスターやレベル、職業によって取得経験値は異なる。
例えばレベル1のファイターがホーンラビットを倒すと、経験値が3貰える。
レベル2になると貰える経験値が1となり、レベル3になると2匹で経験値が1となる。
これがヒーラーだと、レベル1で経験値が5、レベル2で経験値が3、レベル3でも経験値が1貰える。
これはヒーラーなど攻撃職以外の職はとどめを刺すのが困難だかららしい。
ただ、レベルといっても強さとはなんの関係もない。
職業と同じく、レベルが上がってもステータスが上昇するわけでもない。
単純な指標の役割しかない。
ギルドではレベル1~5が駆け出し。
レベル6~10が初心者。
レベル11~30が中堅。
レベル30以上がベテラン冒険者扱いとなる。
レベル3くらいまでは比較的簡単に上げることが出来るらしいが、そこから先は弱いモンスターを倒すだけでは全然上がらなくなるらしい。
冒険者の更新にはレベルが1でも上がっていれば活動していると見なされ、無条件で更新が可能だ。
レベル10以上の中堅冒険者が3年更新なのは、1年でレベルが上がらないかもしれないからだ。
それほどレベル上げは難しいらしい。
もし更新時にレベルが上がっていない場合は、仲間パーティーの活動や、素材の売却、依頼をこなした数で判断される。
ちゃんと依頼をこなしていれば、レベルが上がらなくても更新は可能ってことらしい。
「俺の場合、ラビットA達が戦うことになると思うんだけど、それでもレベルは上がるの?」
「サマナーやエレメンタラーが召喚獣で倒しても、経験値が貰えることは実証ずみです」
召喚だけでなく、テイマーも同じだが、自分のスキルで倒した扱いとなるようだ。
「それでもシュート様のスキルは分かりませんが」
カード化は特殊だからなぁ。
対象外になってもおかしくないか。
もし経験値が貰えなかったら、何か対策を考えないとなぁ。
「お待たせ致しました。こちらがシュート様の冒険者カードとなります」
どうやら登録が完了したようなので、アザレアさんからカードを受け取る。
これでようやく俺も正式な冒険者か。
早速カードを確かめてみる。
名前:シュート
職業:サマナー
レベル:1
経験値:0
次のレベルまで必要な経験値:100
ここまでが公開情報となるらしく、何もしなくても見れる情報だ。
それ以外は何も書かれていない。
「微量でよろしいので、魔力を流してください」
どうやら覗き見防止の為、これ以上の情報は自分の魔力を流さないと見れないらしい。
俺は言われたように魔力を流してみる。
するとスキル情報が浮かんできた。
え~っと、
カード化:レベル6
言語翻訳:レベル4
魔力妨害:レベル2
スキル妨害:レベル3
命中補正:レベル6
隠蔽:レベル3
偽装:レベル3
看破:レベル2
統率:レベル4
…………カード化のレベルが6?
4じゃないの?




