第81話 ギルド長
本日1話目の投稿です。
2話目は夜に投稿します。
「この問題は俺が準備したお手製の問題で、俺以外知らないはずだったんだが……全問正解だ」
やっぱりアザレアさんとの癒着を疑っていたようで、計算問題は別の問題に差し替えていたようだ。
どうりでアザレアさんにもらった問題と違うと思った。
まぁ簡単な計算問題だから、答えを知らなくても楽勝だったけど。
でも……簡単な四則演算って聞いていたのに、方程式が出てきたぞ。
これじゃあ算数じゃなくて数学だ。
「これ、絶対に難しくしていましたよね? 簡単な四則演算だって聞いていましたよ、これじゃあ他の人は解けないんじゃないんですか?」
俺は他の受験生に聞こえないように試験官に尋ねる。
「ふん、心配するな。これは貴様用に特別に用意しただけで、他の奴等には普通の問題を使う」
俺だけ……か。
完全に疑われているな。
これが常識問題の方じゃなくて本当に良かった。
「試験官が特定の人物を落とそうとするなんてどうかと思いますけど?」
「ふん。落とそうとしたわけではなく、ヤツが入れ込んでいる男がどんな奴か試したんだ」
それ、意味は一緒のようだけど……
「とにかく合格でいいんですか?」
「ああ。午後から実技試験を始めるから、時間までに試験場へ来るように」
実技の試験場はギルドの横の倉庫のひとつで、試験や訓練に使っている場所だ。
「分かりました。……実技は俺一人じゃなくてもいいんですよね?」
「んっ? ……ああ、貴様はサマナーか。自分のスキルなら自由に使用が可能だ。だが、スキルとは別の力を借りることは出来んぞ」
ってことは、もしかしてナビ子は連れていけないんじゃないか?
「スキルじゃなくて、相棒の妖精がいるんですけど……」
「そういえば妖精を連れているって話だったな。今はどこにいる?」
「隣の部屋でアザレアさんが預かってます」
「アイツ……仕事休んでんのに、ここに来てんのかよ」
試験官が呆れるのも分かる気がする。
それにしても……この人はアザレアさんに対して、あまり忌避感を覚えていないように感じる。
「貴様がテイマーなら妖精の参加は認めたが、サマナーでは認めることはできん」
「冒険者になっても一緒に行動するのに?」
「これは冒険者になるだけでなく、職業が適性か確認する試験でもあるからな。たとえ貴様が腕利きの剣士であり、次の実技試験で実力を出したとしても、サマナーとしての実力が分からねば不合格となる。どうしてもその妖精を使って戦いたいなら止めはせんが、サマナーの能力も使わんと、合格にはならんぞ」
「じゃあ見学として連れていくのは構いませんか?」
元々ナビ子は戦う訳じゃないから、側にいるようにすれば問題ない。
「それは構わんが……そうなると、アイツも来ることになるであろうな」
「……おそらく」
見学OKとなれば絶対についてくるだろう。
「まぁいい。変わったアイツを存分にからかってやろう」
あっ別に嫌なわけじゃなかったのね。
聞くことは聞けたので、俺は試験官に礼を言った後で、退出し隣の部屋へ向かった。
****
「そうそう、そうなの。その時のシュートったらもうプルプル震えてさ」
「まぁ、あのシュート様が! そんな時代があったのですね」
……コイツらいったい何の話をしていたんだ?
非常に気になるんだが。
「あっシュートどうだった?」
「お疲れさまでしたシュート様。結果は分かりきっておりますが、いかがでしたか?」
2人が俺に気がつき話を止める。
「もちろん合格したが……2人して何の話をしていたんだ?」
「今ねアザレアにラビットAと出会ったときのことを話していたんだ」
「ナビ子さんにシュート様の子供の頃の話を聞かせていただいておりました」
子供の頃って……ほんの2ヶ月も経ってないんだが。
ナビ子お得意の誤魔化しで子供の頃って勘違いさせたんだろ。
というか、アザレアとナビ子さんって……随分と距離が縮まってないか?
「ふふっホーンラビットを倒すのに震えていたなんて。シュート様にも可愛らしい時期があったのですね」
くそぅ。
自分の過去話で笑われるくらい恥ずかしいこともないぞ。
というか、震えてたって……銃の照準が合わなかっただけじゃないか!
「そんな昔話より、大事なのは今ですよ。氷の女帝さん」
「んなっ!? 何故それを……」
瞬間、氷の女帝が真っ赤になる。
これのどこが氷なのか。って、だから溶けたのか。
「さっきの試験官がそう呼ばれてるって言ってましたよ」
「くっあのオッサン。余計なことを……」
おおぅ。アザレアさんらしかぬ言動に若干引く。
もしかして、意外と内に溜め込む人なのかな?
「いいですか。あれは周りが勝手に言っているだけで、シュート様とは一切関係がございませんからね!」
アザレアさんが顔を真っ赤にしたまま答える。
どうやら溶けた氷の話も知っているようだ。
もしかして、それでからかわれたり……いや、ぼっちなんだからそれはないか。
普通に会話で聞こえてきただけだろう。
「ねぇシュート。氷の女帝って何?」
ナビ子の質問にアザレアさんがギロッと俺を睨む。
……話したら絶対に殺される。
「あっその……何でもないよ」
「ナビ子さん。あまり気にしてはいけませんよ」
「おっおぅ。聞かなかったことにするよ」
アザレアさんの有無を言わさない迫力に、ナビ子も察したようで、これ以上詮索することはなかった。
「それでさ。午後からは実技試験なんだけど、2人とも見学に来るよね?」
来ないという選択肢はないと思うけど、一応尋ねてみる。
もちろん2人の返事は予想通りだった。
****
俺たちが試験場に入ると、すでに先ほどの試験官と、もう1人別の試験官が待っていた。
「……何故ギルド長までここにいるのですか?」
アザレアさんがさっきあのオッサンと言っていた、学科試験を担当した方の試験官に向かって言う。
「ギルド長?」
「ええ、この方がこのギルドの一応トップであるギルド長です。冒険者の間ではギルドマスターやギルマスなどと呼ばれております」
この厳ついオッサンがギルドマスター。
……俺、さっきギルマスに試されてたの?
「お前が入れ込んでいる男に興味があってな」
「入れ込んでいるとかいわないでくださいまし!」
アザレアさんが真っ赤になって否定する。
多分それは逆効果だと思うぞ。
「くくっお前がそんな顔をするとはな。本当に氷が溶けたのだな」
うわぁ、確かにからかうって言ってたけど……ギルマスめっちゃ楽しそう。
「くぅ……。大体試験はどうしたのですか。ギルド長は前衛職の担当のはずです」
「お前が過去に作った問題のせいで、ソイツ以外全員落ちちまったよ」
あっ全員落ちたのか。
50人くらいいたのに。
というか、あの問題はアザレアさんが作ったのか。
どうりでひねくれた問題ばかりだと思ったよ。
「……やはりあの問題を使いましたか。予想通りではありますが、やはりお蔵入りになった問題では合格者は出ませんでしたか」
お蔵入りって……
「それよりアザレア。ソイツ……面白いぞ」
「知っております」
「くくっ。知っている……か」
「~~~!?」
ギルマスがからかうように言うと、アザレアさんはまた恥ずかしそうに唸る。
「いいから早く実技試験を始めてくださいまし! ほら、シュート様もぼさっとしてないで、早く準備をされてください」
恥ずかしがっているアザレアさんを見るのは新鮮で、もう少し見ていたかったが、これ以上は可哀想だな。




