第8話 チェンジ
「じゃあとりあえずスキルを使ってみようよ! そうだね……その拳銃なんてどうかな?」
ナビ子の説明も終わり、実際にカード化のスキルを使ってみる。
拳銃は弾の補充の為にも絶対にカードにしなくてはならない。
それに俺の今後のメイン武器になるはず……初めての【カード化】にはピッタリかもしれない。
俺は拳銃を手に持った。
「スキルを使うのは簡単。その拳銃に向かって変化って唱えるの」
「それだけでいいのか? 変化を使うことでMPとかSPの消費とかないのか?」
「ここは『グローリークエスト』の中じゃないからMPとかSPとは言わなくて、魔力や精神力って呼ぶの。もちろんステータス画面もないから具体的な数字もないよ。変化や解放みたいなレベル1の効果は特に何も消費しないから自由に使っていいよ」
そういうことなら……俺は手に持った拳銃に集中し、スキルを使った。
「変化」
俺がその言葉を発すると、拳銃がポンッと一瞬でカードに変換した。
「へっ? これだけ?」
なんか肩すかしというか……実にあっけない。
「あのねぇ、ただカードになるだけなのに何を期待してたのよ」
別に期待とかじゃないけど……でも煙が出たりとか変化の様がもう少しあってもいいんじゃないか?
と一瞬思ったが、これから何回も使用することなんだ。
これくらいあっさりした方がいいのかもしれない。
俺は出来上がったカードを確認する。
カードには拳銃のイラストと、上部に『ベレッタ84』と名前が書かれていた。
そして右側にメーターのようなものがある。
これはなんだろう?
「右のメーターはカードの状態を表すの。今はメモリが満タンでしょ。満タン状態は完全で、破損したり弾が消費してたらメーターが減るの」
なるほど。
今は弾は全弾あるし、壊れてもいないってことか。
銃の名前はベレッタか……俺でも聞いたことのある有名な銃だ。
まぁ知ってるのは名前だけで、そのベレッタがどんな銃かは知らない。
ベレッタの数字はシリーズ名かな。
84ってことは83とかもあるのかな?
もしかしたら製造年とかかもしれないな。
ちなみに他に知っている名前はコルトとトカレフとワルサーくらいしか知らない。
もしあるのなら拳銃コレクションとして全シリーズ集めたいところだけど……流石に無理か。
「じゃあ早速そのカードを図鑑に登録しようよ。そのカードをアクセサリー図鑑のどこでもいいから当ててみて」
ベレッタは武器だからアクセサリー図鑑か。
俺はナビ子の指示通りベレッタのカードを図鑑に当てる。
するとカードがスッと図鑑に吸い込まれる。
自分で挟むわけじゃないんだな。
図鑑を開いてみる。
図鑑はどのページも左側には何もなく、右側には大学ノートのように線が引かれていた。
そして1ページの1行目に『ベレッタ84』と書かれていた。
「名前にタッチすると左側に詳細が表示されるよ」
これもタッチ式なのか。
このシステム……本当にどうなってるんだろうな。
俺は名前を触ってみる。
すると左側にカードのイラストと下に説明文が表示された。
――――
ベレッタ84【武器】レア度:なし
異界の武器。
異界の衛兵が愛用している。
当たり所が良ければゴブリン程度なら倒すことが出来るだろう。
――――
こっちの世界からみたら、日本が異界ってことか。
「なぁナビ子。このレア度は何なんだ?」
「レア度はそのアイテムの価値かな。最大で星5つなの」
「ああごめん。レア度の意味は分かるんだ。でもこのベレッタはレア度なしになってるだろ? どうしてなんだ?」
異界の武器ならこっちの世界で手に入らないんだし、レア度は滅茶苦茶高いんじゃないのか?
「それはこっちの世界のアイテムじゃないからだよ。そのレア度はこっちの世界だけで手に入るアイテムの難易度だからね。だから日本製のアイテムはレア度はないんだよ」
要するに、レア度無しってのは図鑑埋めには関係ない分類になるのかな。
モンスターを集めるゲームに例えると、映画館などゲーム外で手に入れる幻のモンスターは、図鑑に登録されるけど図鑑コンプには含まれない的な感じだろう。
まぁ俺はレア度関係なく、登録されるものは全てを埋める派だけどな。
「レア度は分かったけど……この説明文。ゴブリン程度ならって……ベレッタが随分とショボい武器に思えるな」
ゴブリンって……色んなゲームで最弱モンスターとして扱われる最弱モンスターだろ?
最近ではオークと一緒に薄い本とかによく出ている気がする。
「実際にショボいから仕方ないね」
「はぁ!? ……日本で拳銃といえば最強武器にあげられるぞ」
その拳銃がショボいとか、この世界ヤバくね?
「でもでも~。じゃあシュートは日本で野生のクマに遭遇したらその拳銃で勝てると思う?」
このベレッタ一丁でクマに……?
直接クマと対面したことはないから想像でしかないが、おそらく一発や二発程度じゃまず死ぬことはないだろう。
むしろ手負いになって、さらに凶暴になるだけだ。
「怪我くらいは負わせられるけど、殺すことは出来ないと思う」
全弾命中すれば勝てるだろうが、その前にこっちが殺されてしまう。
自殺行為もいいところだ。
「ねっ。その拳銃じゃ動物のクマさえ倒せない。それなのに動物よりも強力なモンスターに勝てると思う? 小動物のモンスターくらいなら倒せると思うよ。それに説明文通り、急所に当たればゴブリンくらいなら倒せるけど、それ以上のモンスターになるとかなり厳しいんじゃないかな」
そう言われればそうか。
考えてみれば、人間相手でも急所じゃなかったら、重症は負うだろうが、死なない可能性もある。
うーん、これさえあればこの世界も楽勝かと思ってたけど、そうはいかないか。
「そもそも【射撃】や【命中補正】のスキルを持ってないし、拳銃も撃ったことないんなら、練習しないと当たらないよ」
そりゃそうだ。
当たらないのは倒す以前の問題だ。
そして水鉄砲くらいしか使ったことがない俺が本物の銃で当てられるはずがなかった。
ちなみにナビ子が言った命中補正等のスキルを持っていれば、初心者でもある程度は練習しなくても使いこなせるらしい。
何があるか分からないし、パッシブ系のスキルは手に入れたら積極的に使っていいかもな。
「にしても……どうせ贈り物をくれるなら、もう少し強い武器をくれてもいいのにな」
こういう場合は普通チート武器をくれるはずだろ?
まぁチートスキルは貰っているが……それでも、せめてゴブリンくらい楽勝で勝てるような武器があれば……運営も気が利かないよな。
「甘えないの! その拳銃だって、最初は近接戦が出来ないだろうとの思いやりなんだから。多少威力のある剣よりも、遠くから攻撃できる銃の方がいいでしょ?」
ナビ子に窘められる。
そう言われれば何も言えない。
確かに初戦でモンスターとガチで近接戦をする勇気はないし、スキルがないのに弓のように技術が必要そうなのは銃よりも難しい。
その点、銃なら引き金を引くだけだから少し練習すれば戦えるようになる。
なるほど、結構考えられているんだな。
「それに運営からの贈り物はこれだけじゃないんだよ。この家の中には他にも色々とアイテムやカードを隠しているから探してみるといいよ」
「カードも!?」
「そう。レア度は低いアイテムばかりだけど、これからの冒険の役に立つ物ばかりのはずだよ。【カード化】の練習がてら探索してみればいいよ」
練習がてら探索か。
まるでゲームのチュートリアルだな。
ならさっさとチュートリアルをクリアして、スタートボーナスでも貰いましょうかね。