第79話 金策
「アザレアさん。とりあえず召喚問題はクリアってことで、試験はラビットAでいってもいいですかね?」
「きゅきゅ!」
「……まぁいろいろと大騒ぎになるでしょうが、これからのことを考えれば、実技試験はちょうどいい場所と言えましょう。ですが、魔法に関しては少々制限した方がよろしいかと」
「それは魔法を使うなってこと?」
「いいえ、そうではありません。中級以上の魔法を規制するのです」
中級ってことは、星3レベルの魔法ってことだよな。
どうやらレア度って、図鑑能力で、一般的ではないらしい。
だからモンスターや魔法、スキルもそうだが、レア度や星って言っても通用しない。
俺はまだ一般的な区分けは分からない。
多分教本に載ってるだろうから、試験前には調べておこう。
「心配しなくても、試験で威力の高い魔法は使用しませんよ。なっラビットA」
「きゅっ!」
使っても星2までだろう。
「それから、ギルド職員の中には、観察系スキルを持っている者もおります。わたくしの観察眼ほどではございませんが、注意はしておいた方がよろしいかもしれません」
ふむ。
確かに星3の魔法を使わなくても調べられたら意味がない。
そしてラビットAは妨害系を持っていない。
「それってさ、レベル1のスキル妨害で防ぐことできます?」
それならラビットAに覚えさせてもいいかもしれない。
貴重だけど、ユニコーン同様ラビットAも見られることは多そうだしな。
「ギルド職員が持っている鑑定系スキルは、殆どの者が目利きを所持しております。そしてギルド長が鑑定スキルを持っております。スキル妨害ですと、識別までは完全に防ぐことが可能ですが、鑑定に関してはレベル次第かと思われます」
鑑定系のスキルは
目利き<識別<鑑定<観察眼
の順に精度や範囲が広がる。
殆どの鑑定系スキルの所持者は人間は目利きか識別。
鑑定以上は所持者が一気に減るらしい。
ちなみに看破系スキルは
直感<洞察力<看破<観察眼
となるらしい。
こちらは鑑定系よりも持っている人は少なく、看破スキルもかなり珍しい部類に入るそうだ。
やっぱり観察眼はチートだと思う。
看破のスキルは星3だから、直感と洞察力がそれぞれ星1と2かな。
そして鑑定も同じ感じで星3。
スキル妨害も星3だから、やっぱりレア度はある程度の基準と考えて良さそうだ。
「鑑定持ちがいなかったらスキル妨害でよかったけど、鑑定持ちがいるのなら……偽装で誤魔化すかな」
まぁ鑑定スキル持ちはギルド長――ギルマスだけだから、滅多なことでは会うことはないだろうが。
でも念には念を入れる必要はある。
偽装なら観察眼と違って、鑑定だけなら見破れない。
「きゅきゅっきゅーむきゅっ!」
そこで突然ラビットAが叫ぶ。
……何て言ってるんだろう?
「あの……そのウサちゃんが何か文句を言っているようですが、なんと仰ってるのでしょうか?」
「さぁ俺にも分かりません」
「むきゅー!!」
いや、怒ったって分からないものは分からないし。
まぁ何となく言いたいことは分かるけど。
「言語翻訳のスキルで分かるのではなかったのですか?」
「残念ながらレベルが足らなくて……」
言語翻訳のスキルも早く育てたいなぁ。
「でも、多分誤魔化すんじゃなくて、自分にスキル妨害を使えってことでしょうね」
「きゅきゅ!」
ラビットAが頷く。どうやら正解だったっぽい。
使ってもいいとは思っているが……まぁ後で考えよう。
「それにしても、こんなに簡単にスキルを覚えることが出来るなんて……なんて羨ましい」
「ですけど、魔石ひとつにつき1個しか手に入らないし、モンスターが覚えているのからランダムで手に入るから、目当てのスキルは中々手に入らないんですよ。魔石が大量に手に入れば、片っ端からスキルを手に入れてもいいんですけどね」
「魔道具の発達で、魔石は最重要の管理体制となっておりますから、流石に横流しはできません」
いや、別に最初から横流ししろとお願いするつもりはない。
「スキルに余裕がありましたら、わたくしにも妨害系スキルを分けてくださいまし」
「余裕ができたらね」
秘密を共有したからか、だんだん厚かましくなってきたような気がする。
「ふふっ楽しみにしております」
「じゃあ、そのためにアザレアさんにひとつお願いがあるんだ」
「何でしょう?」
「実は早急にお金を稼ぎたくてね」
誰かさんのお陰で金欠だからな。
俺はポーションを取り出す。
もうカード化を隠さなくていいので気が楽だ。
「ローポーションにミドルポーション、ハイポーションも。これがカード合成の力ですか」
「ローポーション同士を合成したらミドルポーションに。ミドルポーション同士でハイポーションになるんです」
「そんな簡単にミドルやハイポーションが作れるなんて、薬師や調合スキル持ちが聞いたら卒倒しそうな話ですね」
もし見つかったら殺されてしまいそうだ。
「これをアザレアさんに売却してもらいたいんですが……お願いできます?」
「ギルドはいつもポーション不足ですからギルドで販売すれば問題ありませんが、通常よりもかなり安い売上になってしまいますね」
「金額は問わないですよ。その分、大量に売るだけですから。それに、ローポーションは水とヒールの魔法の合成で元手いらずなので、1本でも売れたら黒字です。あっ、でもポーションの瓶は必要かも」
今は一軒家に置いてあった分を使用しているが、今後大量に必要になるだろう。
「畏まりました。瓶もわたくしの方で準備させていただきます」
やっぱり協力者が優秀だと助かるな。
「大量のポーションを販売するとなりますと、このエリアの薬師や商業ギルドにも話を通さねばならないでしょうね。無用な軋轢を生じかねませんし、市場が大混乱を起こしてしまいます」
いや、マジで本当に助かったかも。
「ちなみにこんな物もあるんですが……」
俺はついでに下級、中級、上級の解毒ポーションと魔力回復ポーション。魔力、筋力、体力の増幅薬と霊薬も取り出した。
「解毒ポーションはポーションと同じくいくらでも。魔力回復ポーションと増幅薬、霊薬は1日1個なら卸せますよ」
本当は1日3個作れるけど、自分用も必要だからね。
「本当にこの人は次から次に……貴方は今自分が取り出した物の価値が分かっているのですか?」
「魔力回復ポーションは、めっちゃ高いって村長たちが話していたから何となく分かるけど、増幅薬と霊薬はヤバい気がしたので、今回始めて人に見せました」
「それが賢明です。できればわたくしも見たくはなかったです」
「じゃあ教えないほうが良かったですか?」
「そんなはずありません! 何でも教えて下さいませ」
見たくないのか教えてほしいのかどっちだよと言いたい。
まぁそれだけヤバい物だというのは伝わった。
「とりあえず1日1個なんて、市場どころか国が動きかねません。解毒ポーションだけ受け取りますので、残りはシュート様が保管くださいませ」
流石に価値が高すぎるか。
「あっよろしければ研究用にいくつか頂きたいのですが……」
……やっぱり遠慮がなくなってるよな。
「じゃあそれを持っていって下さい。必要になったらまた渡しますんで」
「これ一本でかなりの値打ちものなのにそんな簡単に……シュート様は、働かずともこれを定期的に卸すだけで、遊んで暮らせるでしょうに……何故そこまでして冒険者になるのですか?」
「じゃあアザレアさんは、俺が遊んで暮らせるだけのポーションを渡したら、研究は止めて遊んで暮らしますか?」
「そんなことはありません。そんなお金があるのでしたら、全て研究資金につぎ込みます」
うん、アザレアさんならそう言うと思った。
「俺も同じです。俺はコレクターですから、遊んで暮らすことよりも、世界中のあらゆる物を集めたいんです」
「その考え……シュート様が、もう少し大人でしたら、わたくしはシュート様に惚れていたかもしれません」
「それは光栄ですね。でも……こう見えて実は30近いかもしれませんよ」
「ふふっご冗談を。ですが……シュート様と話をしていると、とても10近く年下とは思えません。考え方は子供っぽいので、年上には思えませんが、同年代くらいの雰囲気は感じておりますね」
10近くってことはアザレアさんは24、5ってとこか。
だとすれば元の俺の方が年上だから……子供っぽいと言われると少しショックだな。
とりあえず、ギルドや商会との兼ね合いがあるので販売は後日となったが、早急に金が必要なので、今でている分はアザレアさんが金貨10枚で買い取ってくれることになった。
結局アザレアさんのお金を頼ってしまったが……これは対価だから問題ないよね。




