第78話 不遇の召喚職
「つまりこのウサちゃんは、サマナーと同じように、魔石から呼び出しますが、魔石がカードになっているので、何度も召喚でき、しかも生前の意識まで残っているというわけですか」
「まぁ正確には魔石からモンスターカードに変換させるけど、アザレアさんの認識で間違いありません」
「さらにモンスターの持っていたスキルも手に入れることができると。しかもそれを自由に付けることが出来ると」
「モンスターかスキルのどちらかしか選べない上に、持っているスキルをランダムでひとつしか手に入れられませんけどね」
「その上、物もカードにすることができ、持ち歩けると。しかも錬金スキルや調合スキルと似たように合成することが出来ると」
「一瞬で合成できて便利ですよ」
「しかも、その合成は物だけに限らずモンスターやスキル、魔法まで合成することが出来ると」
「ラビットAは元はただのホーンラビットでした。それに俺の持っている妨害スキルや隠蔽、偽装も元は隠密や擬態から変化させました」
「……本当に出鱈目ではありませんか」
俺が説明したのはカード化スキルの能力だけ。
それもレベル1とレベル2の合成まで。
図鑑やレシピ合成、現在所有しているモンスターの話については説明していない。
一気に説明しても付いてこれないだろうからね。
それだけでも十分チートなのは伝わったようだ。
「俺も出鱈目だと思うよ」
「どのようにして手に入れたのですか?」
「手に入れたというか、最初から持っていたんだ」
「こんなスキルを最初から……シュート様の存在そのものが出鱈目だったのですね」
「アザレアさんの観察眼だって似たようなものでしょ」
「あら、わたくしのこのスキルはちゃんと自分で身につけました」
「えっ!? どうやって?」
「それが分かったらスキルの研究などしません。ですが……わたくしの研究愛を感じた神が授けてくださったのですわ」
要するに観察眼を持つ前からスキルの研究をしていて、その執念で観察眼を習得してってことか。
「わたくしが苦労して会得したこのスキルも、シュート様はスキル合成とやらで簡単に手に入れてしまうのですね」
「手に入るのなら手に入れたいですけど、スキルは手に入れるのが難しいんですよ」
「難しい? 他の人はもっと難しい思いをしていますよ!!」
アザレアさんが激高する。
どうやら今の俺の言葉はスキル研究者の逆鱗に触れてしまったようだ。
「悪かったって! だからなっ、ちょっと落ち着こう」
俺はアザレアさんを宥める。
……このままなら、もっと怒りそうだから話を変えてしまおう。
「ってことで、職業の話に戻りたいんですが、結局俺はサマナーじゃ駄目ですかね?」
これが大事なところだ。
アザレアさんの話なら、ラビットAが何度も召喚できたらおかしいことになる。
「シュート様は冒険者になられても、そのウサちゃんや、他のカードモンスターを使われるおつもりですよね?」
「そりゃあもちろん。まぁ街中では極力自粛しますが」
「分かりました。それで……職業はやはりサマナーがよろしいかと」
「でも、ラビットAは意思もありますし、使い捨てでもないですよ」
「そこは上手く誤魔化しましょう」
「上手く誤魔化すって……可能なんですか?」
「ええ。そもそも冒険者の方は自分のスキルや能力を公開する義務はありません。たとえギルド相手でもです。秘密とでも言って突っぱねればよいのです」
本当にそれでいいのかよ。
でも、冒険者の所持しているスキルや魔法は大事な飯の種だ。
だから基本的に誰も深く追求してこないし、追求しても答える義務はないのは確かのようだ。
まぁ中にはアザレアさんのようにチートスキルを持って調べる人もいたり、気にせず追求する人もいるらしいのだが。
「ですから念の為、スキルも隠すことにしましょう。シュート様は今まで召喚、錬金、魔の素養スキルに偽装しておりましたよね」
「ええ、その3つがカード化スキルで代用できるのでバレにくいかなぁと」
「その方向性は間違っておりません。ですが、ここをサマナー専用に変更しましょう」
サマナー専用か。
「具体的に何に偽装するんでしょうか?」
「召喚はサマナーに必須なスキルなので、そのままでよろしいかと。後は……そうですね、節約スキルと魔力共有スキルにしましょう」
節約と魔力共有スキル?
何となく名前で分かるが、知らないスキルだ。
「それってどういうスキルなんですか?」
「節約スキルは魔道具や魔法などの消費魔力を抑えるスキルです」
つまり消費魔力減少のスキルってことか。
自分だけでなく、道具にも効果があるってのがいいな。
「この節約スキルの効果で、本来使い捨てのはずの魔石が2回使えることにしましょう」
「でも2回じゃ駄目なんじゃ……」
「そこで、もうひとつの魔力共有スキルを使用します。このスキルは自分の魔力を他人に分け与えたり、他人から魔力を譲り受けるするスキルです。このスキルは生き物だけでなく、物にも効果があります」
パーティーで魔力が枯渇した人に魔力を分け与えたり、自分が枯渇した場合に、魔力を分けてもらったりするスキル。
また、魔石や魔道具から魔力を奪うことで、魔力回復ポーションの代わりにしたり、魔石が壊れる前に魔道具に魔力を注ぐことで、魔道具の使用回数を増やすことも可能らしい。
ただし、このスキルは対象と触れ合わなければならないので、敵から魔力を奪うことは難しいとのこと。
「つまり、節約スキルで2回にして、1回使ったら魔力共有スキルで2回に戻すと」
「そういうことです」
「……実際に出来るんですか?」
「過去に誰も試した記録はありませんから、分かりません。ですが、理論上は可能なはずです」
「これ、本当にできたらメチャクチャ役に立ちそうなのに、サマナーは誰も試してないんですか?」
召喚するモンスターの魔石や素材が必要で、使い捨てのサマナーは、燃費が悪すぎる。
それこそサマナーは上手な節約術を考えていてもおかしくない。
「サマナー……いえ、召喚職は人数が少ないですから、そっち方面の研究を考える余裕はないと思われます」
アザレアさんの話によると、召喚職は召喚スキルを持っていたとしても、誰もなりたがらない不人気の職業らしい。
エレメンタラーは精霊や妖精と接触し、契約できたら消費するのは魔力だけ。
だが、その契約までが難しい。
エレメンタラーになりたくても、なれないのが現状だ。
ネクロマンサーはアンデッドに抵抗がなければ、エレメンタラー同様消費するのは魔力だけ。
だが、死の世界と繋がるためには我流では難しく、誰かに師事しながら修行するしかない。
そして一番大事なことだが、本人にアンデッドへの抵抗はなくても、他人には抵抗がある。
結果、パーティーに誘われることが少なく、ソロで活動せざるを得ないらしい。
そしてパーティーの金食い虫サマナー。
仮にパーティーに入れてもらえても、召喚代は自腹なことがほとんどだそうだ。
だからサマナーには誰もなりたがらない。
「なにより、召喚と節約と魔力共有スキルを全て持つなんてあり得ませんから、考えに至らなかったとしても不思議ではありません」
そっか。基本的にスキルはひとり3つ。
召喚はほぼ生まれ持ったスキルだし、残り2個が節約と魔力共有なんてピンポイントになるはずないか。
「分かりました。……でも、それじゃあ複数回召喚できるだけで、ラビットAに意志があることの説明がつきませんよ」
「そこは、複数回召喚できるから前の記憶を所持しているということで十分でしょう。なに、誰も確かめようがないのですから、何とでも言い訳が立ちます」
そういうわけで、基本はスキルに関しては何も答えない。
仮に調べられてもいいように、偽装スキルで誤魔化す。
万が一問い詰められたら、今のように説明する。
結果、誰にも真似できないから証明できない……と。
「カード化スキル……実に興味深い。絶対に誰にも渡さない。わたくしが絶対に丸裸にして差し上げます」
ふふふ……とアザレアさんが怪しく微笑む。
頼もしいけど……やっぱり教えるのは早まったかな?




