第77話 ラビットAの紹介
「それでは早く! 早く召喚の能力を見せてくださいまし!」
言葉は丁寧だが、若干鼻息が荒く、目がマジになっている。
これでは変わり者の研究者ではなく、本当に変態研究者だ。
呼び出すモンスターは……やっぱりラビットAだな。
ナビ子そっくりのフェアリーとピクシー、馬車でも利用したユニコーンも少し考えたが、ラビットAがやはり俺のモンスターじゃ最古参だし、触れる機会も多いだろう。
俺はカードホルダーからラビットAのカードをアザレアさんに見えないように取り出す。
そして心の中で解放と念じる。
指示を出しながら呼び出すにはまだ声を出さないといけないが、ただ呼び出すだけならもう声に出さなくても可能だ。
「きゅう?」
召喚されたラビットAはいつもと違う場所に戸惑っているようだ。
辺りをキョロキョロと見渡し……アザレアさんと目が合う。
「きゅっ!」
まるで『よっ!』と気さくに話し掛けるように、右の前足を器用に上げ挨拶をする。
「……何ですか、この愛らしいウサちゃんは」
「きゅみぃ」
まさかアザレアさんの口からウサちゃんなんて単語が出るとは思わなかった。
そして愛らしいって言葉にだけ反応して照れるラビットA。
うん、かわいい。
「俺の初めての仲間でラビットAって言うんだ。こう見えても結構強いんですよ」
「きゅきゅ!」
ラビットAが任せろと胸を張る。
「……それは見れば分かります。スキルも出鱈目ですが、特筆すべきは習得している魔法の多さ。無属性以外の魔法の中級レベルまで唱えられるではないですか」
どうやら観察眼のスキルはラビットAのスキルだけでなく、覚えている魔法まで見ることができるようだ。
んっ? 魔法が確かめられるってことは、俺が実は魔法を何も覚えてないことがバレているんじゃ……
「あの、アザレアさん。あの時、俺の魔法について調べました?」
「いいえ。魔法を確認するには、スキルの詳細を読み取らねばなりません。流石にあの一瞬ではそこまで読み取ることが出来ませんでした」
危なかった。
もし読み取られていたら、偽装スキルがバレていただろう。
「もしお許し頂けるのなら読み取りますが?」
「……止めてください」
「むぅ残念です。妨害スキルがなければ気にせずに読み取れるのに……」
良かった。妨害スキルを持っていて本当に良かった。
というか、この人はもっと人のプライバシーを読み取ることに躊躇してほしい。
こんなんだからぼっちなんだ。
「にしても、ラビットAは丸裸にされてしまったわけだ」
「きゅみみぃ」
ラビットAは恥ずかしいと両前足で器用に顔を隠す。
うん、かわいい。
「……本当に、随分と愛らしいですね」
アザレアさんもラビットAの可愛さに顔が少し弛んでいる。
「コイツって、どのくらいの強さになるかな?」
スキルや魔法がバレたんなら、ある程度の強さは分かるはず。
「この子を倒すとなると、ベテランの冒険者でもソロでは厳しいかと。魔法を防ぐことが出来れば何とか……というところでしょうか。グループでよろしいのなら、魔法が得意な中堅冒険者グループでなんとかなるレベルでしょうか」
「へぇラビットAすごいじゃん」
「きゅふぅ」
今度は誉められてドヤ顔のラビットA。
この、すぐに調子に乗るところさえなければなぁ。
「ですが、一番の脅威はその賢さかもしれません。どうやらシュート様の言葉を完全に理解しておられる様子。シュート様の指示通りに魔法が出せるのであれば、中堅の冒険者グループでは歯が立たなくなるでしょう」
……多分、俺が指示するよりもラビットAが自分で考えた方が強い気がする。
「しかし……シュート様。サマナーの召喚スキルは、本来素材を使い捨てにするはずです。それに、肉体はあってもモンスターの意識は戻らない。ゴーレムのように意思のないモンスターで、命令にしか従いません。それなのに、何故このウサちゃんは何度も呼び出すことができ、意思があるのでしょうか?」
「えっ!?」
サマナーの詳しい説明は聞かなかったけど、使い捨てで意識がない?
ラビットAは思いっきり意思があるし、俺が初めて仲間にしたとか言って、何度も召喚していることを言っている。
「いったいどういうことでしょうか?」
アザレアさんが俺に詰め寄る。
初めて見せた俺の失態に、今回こそは絶対に逃さないという執念を感じる。
ここで誤魔化しは……通用しないだろう。
……仕方がない。
さっきの魔法の話で、アザレアさんが強硬手段に入るとスキルがバレてしまうことが分かった。
ここまで来たらもう全部バラしてしまおう。
「アザレアさん。今、俺のスキルを解除しましたから、もう一度観察眼のスキルを俺に使ってもらえます?」
「よろしいのですか!? 実はあの時は一瞬でしたので、もう一度じっくり確認した……」
アザレアさんが途中で固まる。
「あの……シュート様。前回拝見したときと、スキルが違うような気がするのは気のせいでしょうか?」
「気のせいって言いたいけど……言ったら信じる?」
「信じるわけないではないですか!! 召喚は? 錬金は? 魔の素養は!? いったいどういうことですか!!」
「うん、落ち着こうね。まぁ本当のことを言ったら、最初から持っていなかったってだけなんだけど」
「つまりわたくしに嘘をついていたと?」
「嘘はついてないよ。だって……観察眼のスキルが発動しなかったでしょ」
「……本当ですね。でもどうして……」
「だって俺は一度も自分が召喚スキルと錬金スキルを持っているとは言ってないから」
「しかし、実際に今召喚したではないですか」
「うん、召喚スキルは持ってないけど、召喚が出来ないとは言ってないよ」
「それは……隠していたスキルのことでしょうか。偽装と言語翻訳とカード化。まさか隠蔽だけでなく、偽装のスキルまで発動させていたとは……不覚です」
「三重の防御とは流石に思わなかったでしょ」
俺がドヤると思いっきり睨まれた。
どうやらめちゃくちゃ怒っているようだ。
「この3つの中で召喚の代わりができそうなのはカード化というスキルだけ。聞いたことがないスキルですが、どのようなスキルなのでしょうか?」
「教えてほしい?」
「教えるつもりがあるから公開したんでしょうが! いいからさっさと教えなさい!」
こええ……今のアザレアさんには冗談は一切通用しなさそうだ。
「えっと……簡単に説明すると、召喚と錬金と調合と魔の素養と収納がひとつにまとまって、さらに強くしたスキルかな」
「はぁ!? 何ですかそのまとまりのないスキルは……出鱈目もいいところじゃないですか」
「……観察眼もかなり出鱈目なスキルだと思うけど」
「わたくしのことはどうでもよろしいのです。もっと詳しく……教えていただけますわよね?」
「……はい」
こうなったら自棄だとばかりに白状することにした。




