第76話 冒険者の職業
流石に登録する職業すら決まってなかったら、試験すら受けることが出来ない。
流石にそれはマズいと思ったのか、アザレアさんが職業について教えてくれることになった。
冒険者の職業は前衛職、後衛職、サポート職、魔法職、特殊職の5つのジャンルに分かれている。
このジャンルの中からさらに個別の職業に振り分けていくことになる。
「冒険者を目指す方で、最も多い職業は前衛職です」
剣や槍などの武器を持ち、敵と戦うファイター。
斧や大剣、槌などを重量感のある武器を扱うウォリアー。
武器だけでなく、攻撃魔法も使うマジックファイター。
同じく魔法を使うが、攻撃ではなく補助魔法を使用して武器を強化するエンハンサー。
剣術や槍術など、武術系のスキルを所持している人は勿論のこと、何のスキルも取り柄もない人はとりあえずファイターを希望する。
数多くの冒険者の中で最も人口が多い職業であり、最低でも一人はパーティーに必須の職業でもある。
「俺は見ての通り、接近戦は得意じゃないので、前衛職は考えてないですね」
「わたくしも前衛職はシュート様の無駄遣いだと思われます」
俺の無駄遣いって……確かにそうだけど、もっと他に言い方がないのか?
「どちらかといえば、シュート様は命中補正のスキルを持っておりますので、後衛職の方がお薦めです」
弓を使い、遠距離から敵と戦うアーチャー。
投擲武器など、弓以外の武器で遠距離から攻撃するシューター。
俺の武器は銃なので、なるとしたらシューターなのかな。
だけど、銃を全面に押し出すととんでもないことになるからなぁ。
「俺自身が戦うとしたらシューターになるんだろうけど、それがメインじゃないから違うと思う」
「ちなみにどのような武器をお使いで?」
「……それを話すと長くなりそうなので、また今度ということで」
下手に銃を見せると話が進まなくなる。
幸いアザレアさんもそこまで興味がないのか、深く追求せずに、次へと進む。
「サポート職は冒険の手助けをする職業ですね。この職業がいるだけで、パーティーの生存率が跳ね上がります」
察知や探知スキルを駆使し調査、偵察に特化したスカウト。
察知や探知も行い、罠の解除や解錠などサポートに特化したレンジャー。
どちらも察知や探知は最低限必要な能力。
スカウトは敵地やモンスターの巣の調査など、隠密や潜入捜査を得意としており、レンジャーは罠や鍵の解除、隠れたものを探すことを得意としている。
護衛や外で冒険する場合はスカウト、ダンジョンのような限定的な場所を冒険するならレンジャーってことだろう。
「……俺には無縁の職業だな」
間違いなく向いてない。
「ですが、ソロで冒険される方なら必須の能力ですよ」
「それは問題ないと思う。罠は看破スキルで未然に防げるし、それ以外はナビ子がいるから」
「気配察知なら任せてよ!」
ナビ子以外にも探知系スキル持ちの仲間はいるし、なんとかなるだろ。
「次は魔法職の紹介です。素養・素質持ちは、ほぼ魔法職を希望されます」
ひとつの属性の魔法が使えるメイジ。
複数の属性が扱えるウィザード。
攻撃に特化したソーサラー。
回復、補助魔法に特化したヒーラー。
魔法は火とか水とか属性で使えるので、属性の魔法なら攻撃や補助何でも使えると思っていたんだが、属性の中でも得手不得手があるらしい。
光属性のヒーラーが光の攻撃魔法を唱えても威力が低かったりするそうだ。
俺は一応全種類の魔法を発動させることが出来るからウィザードになるのか?
いやいや、そもそも本当は魔法は使えない。
「俺の魔法はかなり限定されるから、とりあえずなしで」
「ふむ。魔法はそこまで得意ではないと」
なにかアザレアさんの心の中でメモを取られた気がする。
「では最後の特殊職の紹介です。シュート様にお薦めする召喚師もここの職業になります」
精霊と契約して使役するエレメンタラー。
死後の世界とつながりアンデットを呼び出すネクロマンサー。
モンスターの魔石や素材から一時的に生前のモンスターを具現化し、使役するサマナー。
モンスターを手なづけて使役する魔物使い・テイマー。
錬金スキルが必須の錬金術師・アルケミスト。
錬金スキルに頼らない道具の使い手ケミスト。
物に仮初の命を吹き込むドールマスター。
ケミストは調合スキルで回復薬を作成したり、道具や魔道具を使って戦闘のサポートをするアイテムマスター的職業らしい。
ドールマスターは、別名パペットマスターやゴーレムマスターと呼ばれており、人形や石像など本来命を持たないものに、仮の命を宿すことによって動かす職業らしい。
以上、召喚系職業が3つと、テイマー、それからその他3種。
「最初に選ぶことができる職業は以上となります。もし冒険者になった後で、別の職業に変更したい場合は、もう一度試験を受け直していただきます。また、ベテランの冒険者以上で試験を受けますと、上級職に変更することも可能です」
ファイターとして登録した後で、魔法の素養スキルや探知スキル系スキルを得たので魔法職やサポート職に変更希望する人も多いらしい。
その場合は実技試験だけ受け直すことで転職することが出来るらしい。
また、ベテラン以上の冒険者になると、さらに上位の職業になることができる。
例えばファイターから剣の達人のソードマン、槍の達人のランサー、弓の達人のスナイパーなどだ。
「色々説明いたしましたが、結局の所、職業なんてパーティー探しや依頼を受ける際の指針でしかありません。そう考えると、ソロで活動予定のシュート様は正直どれでもよいのです」
身も蓋もないことをいう。
だが、アザレアさんの言うことも尤もだ。
この世界の職業は、ゲームのように成長の補正が掛かるようなものではない。
それは上級職でも同じだ。
上級職になっても、一目置かれる程度のことでしかない。
結局はパーティーを探しているときや、討伐依頼、護衛依頼で希望の職業を探すだけだ。
俺のようにソロを希望するなら、護衛の仕事も受けられないし、どんな職業でも関係ない。
精々、普段の生活で怪しまれないような職業にすればいいだけだ。
モンスターを連れているのにファイターはおかしいもんな。
だが、この中に俺にピッタリの職業がある。
「じゃあ俺はサマナーになりますね」
「サマナー……ですか?」
アザレアさんが意外そうな顔をする。
「ええ、そうですが。何か問題でも?」
「わたくし、シュート様はエレメンタラーだと思っておりました」
「はっ? なんで?」
「先程もお尋ねしましたが、シュート様はナビ子様と契約なさっているのでしょう?」
「でもナビ子は妖精で精霊じゃないですよ?」
「確かにそうですが、一部の妖精は精霊と同一視されておりまして……」
妖精と精霊は精の種族と呼ばれ、同一視されることが多いそうだ。
特に四大精霊として扱われているウンディーネやシルフなどは見た目もナビ子のような一般的な妖精とほぼ変わらない。
実際に契約方法も妖精と精霊では変わらないそうだ。
「わたくしは、妖精の国から召喚してフレンチトーストの食材やらを持ち出したと思っていたのですが、違うのですか?」
召喚スキルで素材やナビ子を召喚したと思ったから、召喚スキルについて教えてもらえないと思ったのか。
「ナビ子は俺が召喚したんじゃない。ただ俺につきまとっているだけです」
「でっ、ではナビ子様が関係ないのでしたら、召喚スキルを見せて頂けますか!?」
試験に使ってもいいか判断してもらわないといけないから、最初から見せるつもりだった。
が、そう食い気味にこられると躊躇したくなるな。




