第74話 協力者
元々スキルと魔法の研究をしていたが、冒険者なら珍しいスキルや魔法を持っていると思い、その研究のためにギルドで働き始めた。
一応仕事は真面目にこなしながらも、時間を見つけては受付で観察眼のスキルを駆使し、珍しいスキルを探す日々。
だが、冒険者もそこまで珍しいスキルを持つものがいなかった。
多少レアなスキルを持つものは存在していても、既存の調査しつくされたスキルばかり。
挙句の果ては、自分の持つ観察眼のスキルが一番珍しいスキルだという始末。
だが、そこに現れたのが妖精を連れた少年だった。
スキルは全て既存のスキルながら、その数は9個と異常な数を所持していた。
基本的にスキルはその人の持つ才能とされていて、誰しも1~3個最初から所持している。
そこから生活によりスキルが増えることもあるが、その若さで9個のスキルはありえない。
召喚、錬金は才能のスキル。
2つともそれなりに珍しいスキルではあるが、使えない人がいなくもない。
だが、このスキルを後天的に得るのは難しい。
魔の素養、命中補正は生活によって後天的に発生するスキル。
環境によっては習得してもおかしくないスキル。
統率、看破も後天的に発生してもおかしくないスキルだが、軍の大将や成功した大商人など、長年の経験により発生するスキル。
隠蔽、魔力妨害、スキル妨害も環境や経験によって発生するスキルだが、狙って習得できるものではない。
そんなスキルを3つ同時に取得はありえない。
この中からランダムで3個のスキルを所有していたのなら、才能豊かだけで済んだだろう。
だが9個全てはありえない。
スキルを狙って習得できない限りは。
長年の経験でようやく手に入れたのではなく、狙ってスキルを手に入れる話なんて聞いたことがない。
もし狙ってスキルを得ることが出来るのであれば……自分の研究が大幅に捗ることになる。
まさに自分の全てをなげうってでも、この人を研究するべきではないか。
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「わたくしはそう思ってシュート様に協力をしたのに……それを二人して変わり者の研究者などと……少々失礼ではありませんか?」
……今の説明のどこに変わり者じゃない要素があったか?
もはや変わり者どころでなく、変態の領域に達していると思うんだが。
しかし……協力的で自分の研究のためなら不正も辞さない。
そしてぼっち。
まさに俺が思い描いていた通りの変わり者の研究者だ。
ちょっと行き過ぎている節があるから、度が過ぎて人体実験をしないかだけ心配だけど。
だが、それでもこれだけの優良物件は他にはいないと思う。
「いや、この変わり者の研究者は褒め言葉ですよ」
「……おかしいですね。明らかに嘘なのに、観察眼のスキルが発動しません」
「俺が嘘って思ってないですからね」
俺の中では変わり者は最大の賛辞だ。
「それよりも……アザレアさんの欲求を満たしてあげますので、俺の協力者になりませんか?」
「ほぅ協力者……ですか? なにやら素敵な響きですね」
別に素敵な響きではないと思うが……きっとぼっちだったから、一人で出来ない協力が魅力的に感じるんだろう。
「具体的に何をすればいいんでしょうか? ギルドでシュート様に優位なことをすればよろしいのでしょうか? それともこの身体を差し出せばよろしいでのしょうか? 畏まりました。シュート様がどのような性癖の持ち主であれ、研究のためならどのような行為も甘んじて受け入れましょう」
どのような行為も……ゴクリ。
「シュートさいてー」
はっ!? ナビ子のツッコミで我に返る。
「い、いや、違うんだ。変なことは何も考えてないから」
「嘘ですね。わたくしの観察眼が発動しております」
うっ……こんなことで発動するんじゃないよ。
確かにちょっとだけ考えたけど……ってか、アザレアさんが変態研究者なのに、美人で魅力的すぎるのがいけないんだ。
「それで異常性癖のシュート様は、わたくしにどのようなプレイを申し付けるおつもりでしょうか?」
「シュートさいてー」
アザレアさんがニヤニヤしながら言う。
くそぅ。完全にからかってやがる。
「だから本当に違うんだって。俺がお願いしたいことは……」
俺はアザレアさんに、簡単に目的と協力者の条件を伝えた。
「――要するに、シュート様はコレクターで様々なものを集めたいと。ですが、ナビ子様やスキルのことがあるので表立って行動はしにくい。そこでわたくしが協力すればよろしいのですね」
「そういうことです。アザレアさんはその条件にピッタリなんですよ」
「その条件なのですが……誰にもシュート様のことを伝えない。それは構いません。研究にも協力してくださる。それは大歓迎です」
「言っておきますが、人体実験には付き合いませんよ」
「……シュート様はわたくしをなんだと思っているのですか。わたくしはマッドな研究者ではありませんよ」
「じゃあ調べるために服を脱いで全身くまなく調査したり、血液や細胞を寄越せとかも言いませんよね?」
「それくらいは人体実験のうちに入りませんよ」
「十分入ってるから!!」
「ですが、わたくしに全身を嬲るように観察されるのは、むしろシュート様にとってご褒美なのでは?」
「シュートさいてー」
「ご褒美なわけないでしょうが!!」
一体この2人は俺を何だと思っているのだろうか。
「ふふっあまりからかうと、シュート様に嫌われて協力者を解除されてしまうかもしれませんからこの辺りで止めましょうかね」
そう思うなら最初から止めてくれと言いたい。
「ですが……人体実験はともかく、研究に関しては協力してくださるのですよね? シュート様のスキルや知識に関して……わたくしは詮索しますよ」
「ちゃんと協力してくれるなら俺も出来る限り情報の出し惜しみはしないよ。だけど……それでも絶対に話せない情報はあるけどね」
アザレアさんが本当に協力的ならカード化スキルまでは教えるかもしれないが、日本のことは絶対に話せない。
「そういうことでしたら、喜んで協力させていただきます」
「ありがとうございます」
「それで……本当に身体は要求しないのですか?」
「しないですってば!!」
全く……本当にしつこいな。
「そうですか……」
しかも何でちょっと残念そうなんだよ!!
本当は要求してほしいの!?
少し……揺れちゃうじゃないか。
「シュートさいてー」
……ナビ子はさっきからそれしか言わないのな。
「それはいいのですが、最後にひとつだけ訂正させていただきたいことがございます」
アザレアさんがさっきまでの冗談の時と違い、真剣な表情になる。
「何でしょう?」
「わたくしは別にぼっちではありません。周りのレベルが低いので、あえて一人でいるのです」
「あっはい」
さっき、ぼっちなのが協力者の条件として提示したからそれに関してなんだろうが……うん、デリケートな部分だからな。
触らぬ何とかってやつだ。
「何かシュートとおんなじこと言ってるね」
ナビ子がとんでもなく失礼なことを言う。
「あらぁ。もしかして、シュート様がぼっちでしたか」
うわぁアザレアさんが悪魔のような笑みを浮かべてこっちを見る。
「違う。俺はスキルがバレたくないから、あえてソロで活動するの。だから、友達くらいいくらでも作れるの」
「ふふっそう言いつつ、現在はぼっちなんですよね?」
「……サフランとはもう友達だ」
うん、朝食を一緒に食べた中だ。
「あら、それならわたくしだってサフランさんはお友だちです。今朝だって、『今日はいい天気ですね』って話しかけてくれたのですから」
アザレアさんがめっちゃ嬉しそうに言う。
それ、俺がサフランに言わせたって言ったら、この人はどんな反応するんだろうか。
……そんな残酷なこと、俺には言えないな。
「なっ何故お二人ともわたくしにそんな可哀想な人を見るような目を向けるのですか」
横を見ると、ナビ子も俺と同じような表情を浮かべていた。
ナビ子もサフランとの会話を聞いていたから知っているもんなぁ。
「これからはアタイ達が協力者だから、ぼっちじゃなくなるよ!」
そしてとどめを刺した。




