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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第71話 宿屋事情

 アザレアさんが帰った後、お互いに軽く自己紹介をする。


「あっあの……私はサフランって言います。一応この宿の看板娘……って、自分で言うのは恥ずかしいですね」


 少し照れたように笑う。

 明るく元気なのが取り柄って感じだから、看板娘にはぴったりだと思う。


「よろしくサフランさん。俺の名前はシュート。んで、こっちはナビ子」

「ナビ子だよ! よろしくね!」


 挨拶されて初めて彼女はナビ子の存在に気づいたようだ。


「妖精……初めて見ました」


「やっぱり珍しいですか?」


「そりゃあもう……私も冒険者さんの話はよく聞きますけど、遭遇したという話は聞いても、こんな風に人前に出るって話は聞いたことないですね」


「そうなんですか。それでサフランさん……」


「サフランでいいですよ。それに敬語も止めてください。シュートさんはお客様なんですから」


 元々年下で、見た目も同年代っぽいから、遠慮なくそうさせてもらうことにした。


「分かったよサフラン。それでその……アザレアさんのせいでちょっと目立ってるみたいなんで、出来れば部屋に案内してほしいんだけど……」


 宿屋の入口だから、あまり人はいないけど……なんかチラチラ見られているような気がする。


「あっすいません。ではスイートルームにご案内を……」


「別に普通の部屋で構わないよ。どうせあれはアザレアさんのたちの悪い冗談なんだから。もしくは寮生扱いでもいいけど」


「こちらは別に構いませんが……明日、アザレアさんがやってきた時に、なにか言われませんか?」


 むぅ。そう言われればそうだ。

『あらっ? やっぱりお金が足らなかったのかしら?』

 とか皮肉交じりに言うに決まっている。


「それに寮は四人部屋になっちゃいますけど……」


 四人部屋……流石にそれは嫌だな。


「……やっぱりスイートで」


 仕方がない。金欠になるけど……まぁどうにかなるだろう。


「あの……シュートさんはアザレアさんとどういった関係なんですか?」


 サフランが俺の前を歩きながら尋ねてくる。

 ずっと聞きたそうにしていたもんなぁ。


「2時間くらいギルドで話しただけで、初対面だけど」


「えええっ!? うそおお!!」


 サフランがビックリして振り返る。


「嘘なもんか。大体俺は今日初めてこの街に着いたんだ。知り合いすらいないよ」


 俺の言葉が信じられないのか、サフランはポカンと大口を開ける。

 どうでもいいけど、看板娘が人前でやったら駄目な顔だよなぁ。


「だ、だってアザレアさんが仕事以外で話をしている姿なんて初めてみましたよ。しかも冗談まで言って……」


「いや、さっきのだって仕事だったと思うけど……ギルドで試験まで教習所通いをさせてくれってお願いしたら、ここまで案内してくれたんだよ」


「仕事でもありえないですよ。ここはギルドの裏手なんですから、アザレアさんならわざわざ案内しなくても、口頭で終わらせます」


 それはちょっとアザレアさんに失礼なんじゃ……


「真面目で仕事一筋で……本当に優秀な人なんですが、対応が事務的といいますか、愛想がないことでも有名なんです」


 あ~確かに俺の第一印象もそんな感じだったな。

 それでも営業スマイルは完璧だったけど。


「でもさ、多少愛想がなくても、あれだけ美人だったら、男が放っておかないんじゃないか?」


 毎日あそこで受付嬢をやっていたら、ナンパされまくってもおかしくないと思うのだが。


「昔はそれなりにいたのですが、全員アザレアさんに言い負かされてしまったんですよ。中にはバキバキに心を折られて立ち直れなくなった人もいるとか」


 あ~、何となく分かる気がする。


「それから……一番の理由は観察眼ですね。アザレアさんが観察眼のスキルをお持ちなのは知っていますか?」


「ああ。思いっきり見られたよ」


 俺は笑いながら答える。


「シュートさんは大丈夫な人なんですね。でも……やはり見られるのが嫌だという人が大半なんですよ。別にアザレアさんが誰彼見ているとかそういうわけでなく、もしかしたら見られているんじゃないかと考えると、それだけで敬遠されがちなんですよ」


 アザレアさんが勝手に見るわけないのに。とサフランが憤慨するが、いやぁ結構見ていると思うぞ。

 俺も実際に見られたしね。


「それなら見るなって文句を言いそうな人もいそうだけど、アザレアさんは大丈夫なの?」


「ええ、たまに見られたと文句を言う人もいるみたいですが……証拠はありませんからね」


 アザレアさんも言っていたけど、スキルで確認しても相手に気づかれることはない。

 もし見たとしても、アザレアさんから言うことはないだろうし、その証拠もない。

 見た見てない論争になって最終的にアザレアさんに言い負かされるんだろう。


 俺は妨害スキルが発動……というか破られたから分かったが、そうじゃなかったら分からなかった。

 もし俺が気づかなかったら、果たして俺にスキルのことを話しただろうか?


「でも、それなら暴力に訴える人がいたり……」


「その辺は心配ないですよ」


「何で?」


「だって……って、アザレアさんについての話はしちゃいけないんでした」


 あっ、一応覚えていたのね。

 くそ……こんなところで止められたら逆に気になるじゃないか。

 暴力に訴えても心配ない……か。

 もしかしてとんでもなく強い人ってこと?


「でも……アザレアさんのあの調子なら、シュートさんはすぐに知ることになると思いますよ。本当にどうやったんですか?」


「多分、周りが敬遠しているだけで、素のアザレアさんはあんな感じなんだよ」


 さっきの話通りならな。


「そうですか?」


「試しに今度気軽に話しかけてみなよ。仕事の話以外でさ。そうだなぁ……今日はいい天気ですねとかでいいと思うぞ。ちゃんと笑顔で返してくれるから」


「本当ですか?」


「本当だって。そうだ! 明日迎えに来るって言ってたから、その時にでも話してみなよ」


「……分かりました。やってみます。でも……そもそも明日迎えに来るということがおかしいと思うのですが……本当に恋人じゃないんですか?」


「ははっ恋人じゃないよ。多分からかいがいのある面白いオモチャみたいな感じじゃないかな」


 俺の言葉にサフランは最後まで怪しんでいたが……実際そんな感じだと思う。



 ****


「こちらがスイートルームになります!」


 サフランが誇らしげに説明する。


 ……見た感じ、あまりスイート感を感じない。

 部屋は10畳くらい、中にはベッドがあるだけだ。


「……あんまり驚いてませんね」


 俺の反応が鈍かったから、サフランが不満そうだ。


「驚くも何も……他の部屋を知らないから基準が分からないんだ」


「あっ確かこの街は初めて何でしたよね」


「そうなんだ。バランの村には宿屋がなかったから、宿屋自体が初めてなんだ」


「そうでしたか。それじゃあスイートって言われてもピンとこないですよね」


 そう言ってサフランが簡単に部屋の説明をしてくれた。

 と言っても、特筆すべき点はなにもないのだが。


 サフランの話だと、スイートと一般の部屋の違いは部屋の大きさ。

 スイートは見た感じ10畳くらい、それ以外の部屋は半分なのだそうだ。

 ってことは……寮生のいる部屋は4人で5畳ってことに……寝る場所すらないんじゃね?


 それから最大の違いは洗面所と風呂とトイレがあること。

 スイート以外の部屋は全て共同になるそうだ。

 風呂に至っては、別料金で1階にある共同浴場が利用できるそうだ。

 別料金のため、客は数日に一度利用する程度で、基本的にはお湯で体を拭くことが多いらしい。

 もしくは、お金を払うのなら街にあるちゃんとした設備の風呂屋があるらしいので、そちらに行くようだ。


「本当はお風呂までは厳しいかもしれませんが、せめて洗面所とトイレだけは全室用意したいんですけどね。ただ……下水の工事とか費用がバカにならないそうで……」


 確かにそれは全面改装する必要があるだろうからな。

 どうやらこの水回りも50年前の魔道具革命で大幅に進化したそうだ。

 だからこの宿のように、それ以前に建てられた宿はその辺りがまだ改善されてないらしい。

 この宿も一部の部屋だけ取り付けたらしく、そこをスイートにしたらしいのだ。


「最近建てられた宿屋は殆どが共同ではなく部屋付きになってますので、皆様そっちに流れていくんですよ」


 そっちの平均相場は銀貨4枚で、ここのスイートよりも安いくらいらしい。

 それなら俺だって、共同で銀貨2枚よりもそっちを利用する。


「ですから……冒険者支援ギルドには本当に助かってます」


 お客が少なくなった宿でも、支援ギルドのお陰で冒険者や寮生が来てくれる。

 この宿は一般客は1泊銀貨2枚、冒険者なら銀貨1枚。

 ……やはりアザレアさんは俺に一般人の金額を提示したらしい。

 まぁまだ冒険者じゃないから仕方ないけど。


 その上、冒険者なら1週間泊まるなら銀貨5枚でいいらしい。

 あまりお金を持っていない冒険者なら、1日銀貨4枚の宿よりは共同でもこの宿を選ぶよなぁ。


 それに売上は少し下がっても、ギルドから契約料は貰えるし、寮生が宿の掃除や料理を手伝ってくれるらしいので、結果的にはちゃんと黒字になるらしい。

 本来なら潰れていたかもしれない宿だったはずだ。

 ギルドのサポートって冒険者だけが得するのかと思ったけど、そうじゃないんだな。


「あっシュートさんにトイレとお風呂の使い方を説明しますね」


 説明って……説明が必要なものなのか?


「村にはまだ魔道具が普及してませんからね。街にくると皆さん驚かれるんですよ」


 あっそうか。

 バランの村はまだ井戸だったし、トイレも水洗じゃなく、汲み取り式だった。

 ……確かに初めて街に来た人には使い方の説明は必要なのかもしれない。


 風呂とトイレは俺が普段使っている物と殆ど変わらなかった。

 ただ蛇口の捻る部分が魔道具に変わっていて、魔道具を作動させることにより水がでる。

 トイレも洗浄機などは付いてないが、普通の水洗トイレだ。

 まぁトイレットペーパーのような柔らかい紙もないので、使うことはないだろうが。

 一軒家の個室のように、トイレと風呂は別にしてある。

 風呂は……流石にスペースがないが、トイレは部屋の大きさ的に召喚できそうだから、そっちを使うことになるだろうな。



「それで……食事はいらないとのことでしたが……」


 すべての説明が終わったサフランが最後に確認する。


「うん、それはこっちで用意してるから」


「そうですか。でも、もし食事が必要でしたら遠慮なく言ってください」


「分かった。その時は頼むよ」


 一応こっちの食事事情も知りたいし、1回くらいは食べてもいいかも。


「ただ……正直こんなこと言いたくないんですが、冒険者の中には血気盛んな方や、手癖の悪いお客様もいらっしゃいますので……」


 サフランがチラリとナビ子を見る。

 要するに食堂のような人の多い場所では、ナビ子が原因で絡まれたり、ナビ子を盗まれるかもっていいたいんだろう。

 そして、その責任は持てないと。


「ああ、大丈夫大丈夫。その辺は自分でなんとかするから」


「……申し訳ありません」


 別にサフランが謝ることじゃないんだけどな。


「そういった人達は取り締まらないの?」


「たとえ絡まれたとしても、基本的に冒険者同士なら喧嘩両成敗になってしまいます。それから……盗難等に関しては、現行犯で証拠があれば可能でしょうが、確定してないのにお客様の荷物を漁るわけにもいかず……」


 さっきの見た見てない論争もそうだけど、証拠がないのに疑うのは難しい。

 見つからなかった場合のリスクが高すぎるんだろうな。


「ったく、そういう時こそアザレアさんの観察眼の役目だろうに……ギルド辞めさせてこっちで働かせたら?」


「ははっアザレアさん相手にそんなこと言えるのは、シュートさんくらいなものですよ」


「でも……本当に困ったことがあったら相談してみたら? 多分助けてくれると思うよ」


「そうですね……。今までのアザレアさんは少し近寄りがたかったですけど、今日のアザレアさんを見たら相談できそうな気がします」


 うんうん。

 あんなチートスキルを持っているんだから、人のスキルを覗き見ばっかりしないで、少しは人の役に立たないとな。

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