第7話 図鑑
コレクターの必須アイテム、カード図鑑。
俺は今の心境をどうやって表現すればいい?
思いっきり叫ぶ? この場で踊りだす? 目の前のナビ子を抱き締める?
とにかく俺は今にも爆発しそうな感情を必死に抑える。
一旦落ち着いて……大きく深呼吸をする。
――うん、落ち着いた。
落ち着いたところで俺は改めてさっき取り出した5冊の図鑑に目を落とす。
「うおおおおお!! マジか!? マジなのかよこれ!! いよっしゃああああ!!」
俺は図鑑を持ち上げ、崇め讃える。
間違いない、俺は今この世界に来て一番喜んでる。
「おっ、おぅ。嬉しいのは分かったけど、一旦落ち着こう。なっ?」
あっヤバい。ナビ子が引いてる。
……深呼吸して十分に落ち着いたつもりだったけど、まだ足らなかったようだ。
****
ナビ子が引いてるからもう一度深呼吸して落ち着く。
そしてナビ子から図鑑について詳しく説明を聞いた。
――説明を聞き終わった後、俺は改めて狂喜乱舞した。
「いやぁナビ子! 俺をこの世界に連れてきてくれてありがとな!!」
俺はナビ子をギュッと抱きしめ……握り締める。
「ちょっ!? 痛いから!! 潰れるから!! セクハラだから!!」
「えっ!? ああ、ごめん」
俺は慌ててナビ子を離す。
いかんいかん、少し力を入れすぎたようだ。
「もう……いたいけな乙女に何すんのさ!!」
「いや、いたいけな乙女って……そもそも電子妖精にセクハラなんて概念があるのか?」
「なにおー! 電子妖精のアタイだって女の子には違いないんだよ!」
まぁ確かに見た目は可愛い女の子だが。
「まぁでも確かに喜び過ぎて力を入れ過ぎたのは悪かった」
俺は改めてナビ子に謝罪する。
「まぁ別にいいけどね。と言うか、そもそもアタイが連れてきた訳じゃ……ねぇ確かに喜ぶと思ったけどさ。流石に喜び過ぎじゃない?」
流石にこの価値はコレクターにしか理解できないか。
「いやぁこの図鑑にはそれだけの価値があるってもんだ」
この図鑑は本当に素晴らしい代物だった。
まずこの5冊はそれぞれ違う種類の図鑑だった。
アクセサリー図鑑……武器、防具、装飾品など装備品のカードを保管する。
アイテム図鑑……ポーション等の消耗品、鉄等の素材カードを保管する。
スキル図鑑……スキルカードを保管する。
魔法図鑑……魔法カードを保管する。
モンスター図鑑……モンスターカードを保管する。
この5種類に分かれていた。
だが現時点でこの5冊はまっさらな状態。
俺がカードを手に入れることによって登録されるらしい。
この図鑑はバインダーとしての役割もあるようで、この図鑑にカードを保管することで図鑑として登録されるらしい。
登録されればそのカードの詳細情報を見ることが出来る。
さらに、どういう原理か分からないが、登録されたカードはソートが可能。
五十音、入手順、種別に自動的に並び替えることが出来る。
この5冊の図鑑自体もカードにすることが可能らしく、分厚い本を持ち運びしなくてすむ。
要するに俺がカードを手に入れる度に図鑑が充実……図鑑が完成されていく。
まさにコレクター冥利に尽きる話だ。
元々、図鑑が無くても適当にこの世界をぶらぶらして、カードをコレクションをしていくつもりだった。
だが図鑑完成という明確な目標ができたことにより、モチベーションもアップするというものだ。
「よし! 俺は必ずこの5冊の図鑑を完成させてみせるぞ!!」
おー! と俺は右手を高く掲げる。
「おっ、おー」
相変わらず引き気味のナビ子。
このナビ子を立派なコレクターに仕立て上げる……というのも面白いかもしれないな。
****
「じゃあ次にカード化のスキルの使い方を説明するよ」
ついにスキルを試すときがきた。
「カード化のスキルで最も基本的なことは4つ。レベル1でも可能だからしっかり覚えてね」
変化……対象をカードにする。
解放……対象をカードから元に戻す。
返還……リリースした対象をもう一度カードに戻す。
解除……カードを破棄する。
まずは変化。
これは俺が直接触ってないと発動しないらしい。
発動するとそれが一瞬にしてカードになる。
もっとも基本の効果だろう。
次に解放。
カードから元に戻すことが出来る。
解放はカードを持ってないと発動しない。
解放すると持っていたカードはブランクカードになる。
解放したからといって、そのカードが消えることはないらしい。
ただ、仮に解放中にその対象を失った場合はそのブランクカードは消滅する。
例えば使い捨ての魔法を使用した時や、消耗品のアイテムを使用した場合がそれに当てはまる。
それから解除してカード化スキルの効果を完全に無くした時に消滅するそうだ。
返還。
もう一度カードに戻す。
解放中の物は変化出来ないため、返還するか、解除する必要がある。
変化と違い、ブランクカードを手にしていれば、対象と離れていてもカードに戻すことができる。
解除。
説明通りカードを破棄する。
もし変化状態のカードなら中身を含めてカードが消滅する。
解放時なら、ブランクカードが消滅して中身はカード状態から解放される。
解除した後、もう一度カードにしたければ、ブランクカードがないので、もう一度変化する必要がある。
「なぁ。このリセットって使うことあるのか?」
どんな状況であれ、自分からカードを破棄することなんてあり得ないと思うが。
「そうだねぇ基本的にはブランクカードを破棄することがメインかな」
「でもブランクカードって破棄することってあるのか?」
だって解放中に対象が無くなったら自動的に消滅するんだろ?
ならブランクカードは残らないと思うが……
「主に使用するときは武器や素材を売却するときかな。カード化したアイテムを売るときはブランクカードを破棄して、カード状態を完全に終わらせなくちゃいけないんだよ」
そっか。
解放中のアイテムを売って、後で返還すれば手元に戻ってくる。
そうなれば詐欺のし放題である。
「言っておくけど、あまり悪いことは考えない方が良いと思うよ」
「なんでだ?」
正直詐欺をするつもりはないが、念を押すってことは何かあるのだろう。
「まず……基本的に売却できるお店は鑑定のスキルを持っている。解放中のアイテムは効果は同じでも、通常のアイテム状態とは違うの。スキルの内容まではバレないと思うけど、何かしらの呪いの品だと思われちゃうよ」
アイテムの性能は変わらないが、鑑定されると通常と違うことは分かるのか。
ってことは誰が鑑定のスキルを持っているか分からないし、売るとき以外でも、解放状態のアイテムは迂闊に人に見せない方がいいな。
「それから売られた商品が無くなったら、最初に疑われるのは売った本人。すぐにお尋ね者になっちゃうよ。別に悪いことしようが何しようが、シュートの好きに生きていいけど……シュートは犯罪者になりたいの?」
犯罪者になりたいか?
別に犯罪者になりたいわけではない。
そもそもがだ。
「あのなぁ。コレクターたるもの、コレクションに対して誠実でなければならない」
コレクターはコレクションを裏切ってはならない。
それが俺の持論だ。
今回のコレクションは俺が手に入れるもの全てが対象だ。
なので全てに対して誠実である必要がある。
基本的にコレクションを手放すことはないだろうが、それでも生活するためには武器や素材を売ることがあるだろう。
他にも欲しいコレクションの為に、交換することもあるだろう。
だが俺は相手を騙すようなことをしてまでコレクションを手にしたくはない。
相手を殺してでも手に入れる……なんてのはコレクターとして失格だと思ってる。
それがたとえ世界に一品だけの品だとしても……それで図鑑コンプするとしてもだ。
まぁ逆に俺のコレクションに手を出そうとする人間がいたら、たとえ犯罪を犯そうが絶対に許しはしないがな。
殺してでも奪い返す。
「……シュート。なんか顔が怖いよ」
おっといかん。顔に出ていたようだ。
「まっ、俺はコレクターとしてコレクションを裏切るような真似はしないってことだよ」
俺はそう言って誤魔化すことにした。