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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第69話 駆け引き

「アザレアさんがどれだけ俺を買っているか分かりませんが、ご存知のように俺は無知なので、勉強しなくては合格できませんよ」


「それで教習所に入ろうと?」


「ええ、それが学ぶには一番手っ取り早いですよね」


 そして、ついでに宿の手配も出来るのなら大助かりだ。

 俺がそう言うと、アザレアさんは少し考え込む。


「……畏まりました。それではそのように手続きさせていただきます」


「お願いします」


 これで、試験日までの心配はなくなったと。


「それではこれ以上質問がないようでしたら、早速宿へとご案内いたしますが?」


 そうだなぁ。

 他にも職業の話とか、冒険者の依頼や活動に関しても詳しく知りたいが……それは講習のときでいいだろう。

 そうなると、あと聞きたいことは……そうだっ!


「じゃあアザレアさん。最後にもうひとつだけ聞いてもいいですか?」


 よく考えたら、俺はこの人がどんな人か知らない。

 最初はただの受付嬢かと思ったけど、こんな部屋を自由に使えて、ケーキまで準備できる。

 観察眼のスキルを持っていて、しかも仕事もすごく出来る。

 下手したら、かなり立場が上の人なんじゃないか?

 まさかギルマス? ……いや、さっきの話だとアザレアにも上司がいるみたいだし、トップではないようだ。

 それにアザレアさんはどう見ても20代だし……受付嬢のトップくらいの立場なのかもしれない。

 正直興味があるので教えてくれると嬉しいのだが……


「シュート様。考えてみれば先程からシュート様ばかり質問して不公平だと思われませんか?」


 だがアザレアさんは俺が質問を言う前にそんなことを言いだした。

 さっき自分で質問はって聞いたくせに、何を言い出しているんだ?


「……いや、全然。だってアザレアさんは俺の質問に答えることが仕事でしょ?」


「むぅ。確かにそうですが……」


 俺の正論にアザレアさんが少しむくれる。

 ……へぇ。そんな顔もするんだ。

 今までのクールな感じとギャップがあって、より可愛く見える。

 いや、アザレアさんのことだから、これも計算かもしれない。


「そうです! わたくしはギルド職員として、受験者のことを知らなくてはなりません。ですので、シュート様のことをお聞きしても何の問題もございませんわ!」


 アザレアさんは名案だと言わんばかりに、パンっと手を叩く。

 普段は絶対に受験者の話なんて聞いてないだろうに……というか、さっきまでとキャラが全然違うんだが……どういうことだ?


 突っぱねてもいいが、多分俺が質問に答えないと、アザレアさんも答えてくれないんだろうな。


「仕方ないですね。それで……アザレアさんは何が聞きたいんです?」


「よろしいのですか! それではシュー……」

「あっ、スキルのことと、ナビ子のことは話しませんよ。それ以外でお願いします」


「………………」


 アザレアさんが固まる。

 どうせそんなことだろうと思ったよ。


「あれっ? 質問しないんですか? じゃあ俺の方が質問しますね。えーっと、アザレアさんって……」

「わたくしのことに関しては、業務と関係ございませんのでお答えいたしません」


「………………」


 先に言われてしまう。

 どうやら俺が質問したかったことを事前に察知していたようだ。

 だからこんな事を言いだしたんだな。

 自分のことが知りたければ、俺のことをもっと教えろと。

 そういう取引を持ちかけたというわけだ。


 どうせアザレアさんには今後もお世話になる。

 それにスキルもある程度バレているし……召喚と称してラビットA辺りを見せてもいいかもしれない。

 だが、今ここで俺の方が先に折れて話をすれば、今後俺はアザレアさんに頭が上がらなくなりそうだ。

 要するにこれは、今後どちらが立場が上になるか試されていると言ってもいい。

 ……向こうはどう思っているか分からないけど。


「………………」

「………………」


 お互い見つめ合う。

 向こうから交渉を持ちかけないところを見ると、もしかしたら俺と同じ考えなのかもしれない。


「アザレアさんって、最初は親切で素敵な職員さんだと思ってたんですけど、そうでもなかったんですね」

「シュート様こそ最初の田舎者風が見る影もありませんよ。もう猫被らなくてもいいのですか?」


「………………」

「………………」


 どうやら一歩も引かないようだ。

 というか……そうだな。

 今の状況で世間知らずの田舎者って設定は無理があるよな。……間違ってはいないんだけどなぁ。


「まっ俺は別にアザレアさん本人から尋ねなくても、他の人から聞けばいいだけなんですけどね」

「わたくしがその気になれば、冒険者試験の合否を操作することも容易いです」


「あっ、それズルい」

「シュート様こそ、乙女の秘密を他人から聞こうとするのはマナー違反です」


「乙女って……」

「何か?」


 ギロッと睨まれる。

 こぇぇ……今までで一番ドスの効いた声だったぞ。


「……まぁ乙女かどうかはともかく、女性の秘密を本人の許可なく聞き出すのは良くないな。うん」

「……少し微笑んだだけで、鼻の下を伸ばす女性に免疫のない方でも、試験に不正を働くのは間違っておりました。先程の言葉は訂正させていただきます」


「………………」

「………………」


 ちょっとした皮肉には皮肉で返してくる。

 本当に手強い。


「そもそも俺を落としたら、ギルドにとって損になるって話じゃなかったっけ?」

「その場合はギルド職員として雇ってあげますよ。それなら似たようなものでしょう」


「いやいやいや、職員になるつもりはこれっぽっちもありませんから」

「そうですか? 冒険者よりも定職の方が収入が安定していてモテますよ?」


 ……冒険者ってモテないのか?

 いや、恋人を作る気ない俺には関係ない……けど。


「………………」

「………………」


 もう本当にお互い意地になってるな。

 話がもうかなり離れてしまったし……これ以上はもう無理だろ。


「……はははっ」

「……ふふふっ」


 そして同時に笑い出す。


「引き分け……ですかね」

「そのようですね。本当に……本当にシュート様は素晴らしい。わたくし、こんなに素敵な会話をしたのは初めてでございます」


 俺も……本当に楽しかった。


「えっ? なになに? どういうこと?」


 そして意味が分からずに戸惑いを見せるナビ子。

 当事者以外から見たら、俺達の会話は険悪に見えただろう。

 それが同時に笑って、険悪な雰囲気がいきなり霧散した。

 意味が分からないのも当然か。


 流石にアザレアさんの前で説明すると、面倒なことになりそうなので、後で教えてやると言って、ナビ子を納得させた。

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