第68話 試験内容
アザレアさんは俺のスキルを観察眼というスキルで確認したという。
「ちなみに……俺のスキルは全部確認しました?」
「召喚、錬金、魔の素養、命中補正、統率、看破、隠蔽、魔力妨害、スキル妨害の9つで間違いないでしょうか」
アザレアさんがスラスラと答える。
どうやら隠蔽までは解かれてしまったが、流石に偽装されたスキルまでは気づかなかったようだ。
というか、悪寒を感じたのはあの一瞬だけ。
それなのに9個全て覚えたのか……やはりスキルだけじゃなく、アザレアさん本人も只者じゃないな。
「妨害を突破しただけでなく、隠蔽で隠していたスキルまで見つけられてしまったわけですか。鑑定系のスキルでは、隠蔽までは見つからないと思っていたのですが……」
それともまだ別のスキルを隠し持っているのか?
「観察眼のスキルは見るだけでなく、見極めるスキルですので、隠されたスキルも確認することが可能です。シュート様がお持ちの看破のスキルと似たようなスキルとお考えください」
つまり鑑定と看破が合わさった上に、より強力な上位スキルってことか。
そんなのチートじゃね?
「それにしても、妨害スキルで守るだけでなく、更に隠蔽スキルで隠すとは……ベテランの冒険者ですら、ここまですることはありませんよ」
突破されたのは悔しいが、ベテラン冒険者以上と言われたら悪い気はしない。
それに……ふふっ、更に偽装しているとは思うまい。
アザレアさんを出し抜いた感じになったようで気分がいい。
「それにしても……シュート様がスキルを隠したくなる理由も分かります。稀少な召喚スキルに、錬金と魔の素養のスキルをお持ちとは……これを才能と言わずして、なんと言いましょう」
実はその3つのスキルはどれも持ってないんだけどね。
「……バレてしまったのなら、仕方がありません。ですが……それを知ったアザレアさんは俺をこんなところに連れてきて、どうするおつもりですか?」
さっきまでの話を考えると、俺を将来有望だと思って呼びかけたってことだけど……実際どうするんだって話だ。
「特に何かをするつもりはございません。ただ……このギルドで冒険者になっていただきたいだけでございます」
その言葉も嘘ではない。
このギルドで冒険者に……か。
さっきまでは、アザレアさんの真意が読めなくて、別のギルドで冒険者になることを考えていたが、俺のスキルを知られてしまったのなら話は別だ。
他のギルドでもスキルがバレる危険性があるのなら、このギルドで冒険者になる方がリスクが少ない。
ただし、利用されるのはゴメンだ。
「……言っときますけど、派閥争いや権力争いには参加しませんよ」
アザレアさんがここまでして俺をギルドに入れたいってのは、多分他のギルドとの力関係があるからだろう。
売上とか所属している冒険者の力とか……同じギルドってよりは、ライバルに近いのかもしれない。
変な権力争いに巻き込まれるのだけはごめんだ。
「……本当に聡明な方ですね。とてもではありませんが、村から出てきたばかりの方とは思えません。実は他国の工作員とかではないですか?」
別に普通の考え方だと思うが……それほどまでに村人の考え方は乏しいのか?
……確かにバランの村では、一番注意深そうなロランさんでさえ、簡単に騙せたもんなぁ。
素直な人が多いかもしれない。
「ははっ俺は他国どころか、バランの村以外は知りませんよ。看破スキルと似たようなことが出来るなら、俺の嘘も分かるはず。だとしたら俺が工作員じゃないことも分かりますよね?」
こういう時に嘘を見破れるってのはありがたいな。
俺がこうやってハッキリ違うって言えば、分かってくれるんだから。
「……確かに観察眼のスキルは嘘も見破れます。今のシュート様のお言葉に嘘はございません」
よし。
ついでに俺がバランの村出身だと勘違いしてくれたのなら助かるんだが。
「ですが……シュート様はまだ何か隠している気がします」
……やっぱり鋭いな。
「そりゃあナビ子のこととか、隠していることはたくさんありますよ。ただそれは俺個人のことで、そこに他の介入があるわけではありません」
一瞬、運営は他の介入かな? とも思ったが、運営は手出ししないと言っていたから、介入とは言わないと思う。
「確かにそれも真実のようです。わたくしの観察眼が防がれてなければ……ですが」
それを言い始めたらキリがないと思う。
「防ぐことが出来るなら、そもそもスキルを見られませんって」
「それもそうですね」
ほっ、どうやら納得してくれたようだ。
「疑いも晴れたようですので、話を戻しますが、俺は冒険者になりたいだけなので、ギルド間の諍いには関与しませんよ」
「もともと冒険者の方にギルドの内情は関係ございません。シュート様には、他の冒険者と同じように活動して頂ければそれで構いません。他のギルドではなく、ここのギルドで活躍してもらうことに意味があるのです」
これも嘘じゃない……と。
どうやら、本当に戦力を他ギルドに取られたくないだけで、他意はないようだ。
それなら、ここのギルドで登録して問題ない。
「出来ればスキルのことは誰にも知られたくないので、あまり言いふらしたりしないで頂けると助かるのですが……」
あとはアザレアさんに俺のスキルを言いふらさないように釘を差しておくだけ。
「心配せずとも、わたくしは人の秘密を言いふらすような趣味はございません。もちろん、必要がなければ上司や同僚にも言いません」
「覗き見する趣味はあるのに?」
「もぅ。シュート様は意外と意地悪なんですのね」
アザレアさんは少し恥ずかしげに答える。
確かに今のはちょっと意地悪だったかな。
しかし……冗談めかしたけど、必要があれば、俺のスキルを他人に言うってことだよね。
この必要がある場合ってのは、俺が犯罪を犯した時など、情報提供が必要なときだろう。
「すいません。ちょっと調子に乗りました。でも……アザレアさんが本当に秘密にしてくれるなら、俺はここで冒険者試験受けようと思います」
「畏まりました。わたくしはシュート様の秘密は誰にも申し上げません。……この言葉が事実なのは、看破スキル持ちのシュート様ならお分かりになられますよね?」
「確かに……俺の看破スキルを防いでなければですけど」
俺はさっきの仕返しとばかりに言ってみる。
「流石に観察眼のスキルでは防げませんよ」
「でも他のスキルなら防げるでしょ?」
「さぁ、それはどうでしょう?」
おい、否定しないのかよ。
「ふふっ冗談です。わたくしにそのようなスキルは持ち合わせておりませんよ」
それを証明出来ないが……
「とりあえず信じることにします」
「ありがとうございます」
となれば、後は試験を受けて冒険者にならなくちゃいけない。
「その……試験について聞いてもいいですか?」
特に学科について聞きたい。
「学科試験は冒険者としての常識問題と職業別の問題が合わせて50問ほど出題されます。問題は毎回異なっておりますが、回答は正しいか正しくないかの二択で答えることになります。合格は46問以上の正解が条件となります」
おっ二択か。
これなら、文字を書くことが出来なくても、読めさえすればイケるかも。
問題は俺が解けるかどうかなんだけど……
「常識試験に合格された方は、次の計算試験へ進むことになります。計算は簡単な四則演算を行ってもらいます」
あっ続きがあるのか。
まぁ計算なら余裕だな。……数字が書ければだけど。
「計算の試験まで合格できましたら、午後からは実技の試験になります。実技は職業別で行います」
職業か……いい加減決めないといけないな。
「実技は午後からってことは、今日はもう試験は受けられないんですか?」
流石に勉強しないとだから、今日は受けるつもりはなかったけど。
「そもそも試験は1週間に一度しか行いません。次回は3日後です」
「3日後!?」
いや、別に勉強する時間が欲しいので3日後は構わない。
そうじゃなくて、1週間に1回しか試験を受けられないのか。
まぁ手間隙を考えたら、そうなるだろうな。
しかし、落ちたら1週間後とか……そう考えると、落ちるわけにはいかないな。
「大丈夫です。シュート様なら試験なんて楽勝でしょう」
そんなわけない。
「とりあえず……勉強したいんで、試験までの3日間だけ、宿泊込みで教習所で講習を受けることって出来ますか?」
「えっええ。もちろんそれは構いませんが……」
なんだろう。アザレアはひどく驚いている。
「どうしました?」
「あっいえ……試験まで日程があるとはいえ、シュート様が希望するとは思いませんでしたので……」
「えっ? 何でですか?」
「シュート様のような方ですと、講習せずとも試験合格は確定でしょうから……」
……確かにスキルは見られたけど……それでも随分とアザレアさんは俺を過大評価してないか?




