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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第66話 冒険者支援ギルド

 受付嬢のギルド職員さんに案内された場所は、関係者以外立入禁止となっていた2階。

 俺としては1階の隅に座って……ってつもりだった。

 それなのに何故……冒険者でも職員でもない俺が2階に連れて行かれていたから、余計に目立っていたぞ。


 そして通されたこの部屋に関しても、言いたいことがある。

 応接室……になるんだろうが、ドラマで重役が利用していそうな豪華な部屋だ。

 絶対に場所を間違っている。

 俺のような世間知らずの田舎者を通すとしたら、中途採用の面接会場くらいの部屋で十分だろ。


 俺はフカフカのソファーに腰を落とす。

 ……そして何故か目の前にはケーキと紅茶がある。

 しかも、ナビ子の分まで。……ケーキ、この世界にもあるのか。


「さっ、遠慮なさらずに召し上がってください。最近この街で流行しているお菓子なんです」


 そう言われても……ねぇ。

 怪しすぎるだろ!!


「そちらの可愛らしい妖精さんも是非……」


「シュートシュート。アタイのこと可愛らしい妖精さんだって!」


 ナビ子がバシバシと俺を叩く。

 ナビ子はさっきからおだてられてテンションが高い。

 つーか、お前は食べられないだろ。


「ふふっ本当に可愛らしいですね」


「ありがとっ。だけど……アタイ、人間と同じものは食べられないんだ」


「あらっそうなんですか。では……よろしければ、お2つともどうぞ」


「……ありがとうございます」


 ……いつの間にか、俺が2個とも食べることになってしまったようだ。


「それでは、まずは自己紹介を致しましょう。わたくしはここの職員でアザレアと申します」


 職員さんの名前はアザレアって言うのか。

 話しかけられた時は親切な受付嬢だと思ったが、こんな対応をされた今は不審感しかない。

 ともあれ、自己紹介されたら、こちらもしないわけにはいかないか。


「俺の名前はシュートって言います。そしてこっちが……」

「アタイはナビ子だよ!」


 ナビ子も元気よく挨拶する。

 可愛いと言われてスッカリ気を許している。

 ……確か俺以外に懐かない設定じゃなかったっけ?


「シュート様とナビ子様ですね。どうぞよろしくお願い致します」


 アザレアさんは深々とお辞儀をする。

 対応や佇まいは完璧な接客なんだよなぁ。

 ただ、対応する相手が間違っている。


「それでは、シュート様。本日このギルドにお越しいただいた理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


 理由も知らずにケーキを出すとか、裏があると言っているようなものじゃないか。

 まぁその裏ってのは、おだてられて気を許している駄目っ子妖精なんだろうなぁ。

 ……とりあえず、軽く話だけ聞くことにしよう。

 話ならどこで聞いても一緒だしね。

 話を聞き終わったら……さっさとここから出て、別のギルドに行こうかな。


「今日は冒険者登録をしに来ました」


「冒険者登録でございますね。冒険者になるには試験を受けて頂く必要がございますが……それはご存知でしょうか?」


「はい。ただ詳しい内容までは知りませんが……」


「畏まりました。試験は学科試験と職業別の実技試験を行っていただきます」


「学科試験……」


 実技試験は予想していたが、学科試験もあるのか。

 学科ってことは当然文字が読めないと……あれ?

 そういえば確か俺、1階で窓口に書かれてある文字が読めたよな。

 ってことは……いつの間にか、言語翻訳のレベルが上ってたんだ。

 スキルレベルは自分では調べられないし、最近はナビ子にも聞いてなかったからな。

 もしくは街に着いてからの会話でレベルが上ったのかもしれない。

 ただ……書くことが出来るようになるには、もう1レベル必要なはず。


「学科試験に不安が残る方には、試験を受ける前に、教習所での講習を薦めております」


 教習所……講習……試験。まるで自動車学校みたいだな。


「そういえば冒険者支援ギルドのことを説明するお約束でしたね。少し長くなりますが、シュート様の知っている冒険者ギルドの頃からの変化からご説明いたしましょう」



 ****


 そもそも冒険者とはどのような職業なのだろうか。


 未知なるダンジョンの攻略や未開の地の踏破をするベテラン冒険者。

 依頼で他の街へ配達や護衛をしながら旅をする中堅冒険者。

 街の近隣のモンスターを退治したり、採取などして素材を売却する初心者冒険者。

 街の外へは出ずに、清掃や修繕、害虫駆除など何でも屋のような仕事をする駆け出し冒険者。


 これが当時の冒険者であった。当時はそれでよかった。

 50年ほど前までは……


 今から50年ほど前、帝国内で生活に便利な魔道具が開発された。

 火をおこす魔道具に、水を出す魔道具。

 俺が知っているものに例えると、コンロと水道が開発された感じだ。

 この魔道具は、魔法が使えないものでも手軽に扱えることから、帝国内で一気に普及し、今の帝国の発展に大いに貢献することになった。


 だがこの魔道具を使うには必要なものがある。


 それが魔石。

 魔道具は魔石を消耗して稼動する道具。

 しばらく使えば空っぽになってしまう。


 そのため、魔石の需要が一気に高まることとなり、一時的な魔石不足となった。

 魔石をに入れる方法は唯ひとつ。

 モンスターから手に入れるより他はない。


 そのモンスターを退治するのが冒険者の仕事。


 当時の冒険者ギルドは、魔石の不足を解消しようと、冒険者にモンスター退治の強化を命じた。


 だがそれが裏目に出た。

 冒険者を引退するものが続出したのである。


 何故ならモンスターと戦うには金が掛かる。

 装備を揃えるのも、メンテナンスにも金が掛かる。

 それにポーションのような消耗品の準備。

 もしお金をケチって、これらを怠れば命の危険が増すだけ。


 魔道具に使う魔石はホーンラビットなど、ゴブリン以下の下級モンスターの魔石で十分なのだが、森に生息しているモンスターはそれだけでない。

 強いモンスターに遭遇しても困らないように、最低限の準備をしなくては、街の外での活動は命取りとなる。


 その上、当時は冒険者も入市税を払わなければならなかった。

 一回の入市税はそこまで高額ではないものの、毎日モンスターを狩るために出掛けていては、その額は馬鹿にならない。

 かといって、街に戻らずに野営をしていれば、野営の準備に金が掛かる。

 装備品、消耗品、税、そして命がけの戦い。

 流石に割に合わないと、初級と駆け出しの冒険者が引退したというわけだ。


 元々外で活動しており、装備も整っている中堅以上の冒険者にとっては何も変わらないから、引退することはなかったが、中堅以上の冒険者だけでは魔石の供給が追いつかない。

 そもそも下級モンスターの狩りなど、中堅以上の冒険者がやりたがるはずもない。


 このまま深刻な魔石不足が続けば、どうなるか。

 魔石の買い占め、値上げ、そして暴動が起きる可能性がある。


 それを危惧した帝国は、冒険者への対応を変え、冒険者の減少を抑えることにした。

 そこで当時の冒険者ギルドを解体し、新たに冒険者支援ギルドを発足。

 冒険者が快適に活動できるためのサポートを開始した。


 各街の入市税や滞在税などの税の免除。

 モンスターの戦いで怪我した際は、治療費が半額。

 冒険者支援ギルドの指定する宿屋の割引。

 装備の整っていない冒険者へ、格安で武器・防具のレンタル。

 そして格安で各種武器の訓練や、各属性の初歩魔法を覚えられる職業別の研修。


 冒険者であれば、ベテランだろうが、駆け出しであろうが、誰でもこのようなサービスを受けることができる。


 このサービス――特に税が免除になることで、引退した冒険者が帰ってくるだけでなく、新たに冒険者になる者も急増した。

 しかし、中には税の免除だけが目的で、実際に冒険をしない冒険者もいた。


 そこで冒険者資格を免許制にした。

 駆け出しや初心者冒険者は年に一度。

 中堅冒険者以上になると、三年に一度、冒険者カードの更新が必要となる。


 この更新で冒険者としての働きがなかったと判断されれば、冒険者資格を剥奪される。

 今後冒険者になることはできなくなり、その間の税は徴収されることになった。


 もちろん怪我で冒険者の活動が出来ない場合は、申請すれば更新は免除されるし、冒険中で長期不在の場合は、更新時期を過ぎても、最大1年は事後申請で後日更新することも可能だ。


 この免許制の取り入れで、税の免除のためだけに冒険者になるものはいなくなる。

 だが、今までよりも破格の待遇に、冒険者になるものは、年々増えていく。


 近年では冒険者の質を高めるために、冒険者になる前に学科試験を行うことになった。

 モンスターを退治するだけではなく、複数の街や村を回る冒険者として最低限の教養は身に付けなくてはならない。

 冒険者の心得から職業別の内容、素材の売却にも必要な簡単な計算などが、試験として導入されることになったのだ。


 この世界は義務教育があるわけではないので、村人などは文字の読み書きができない人もいる。

 そういう人のために、試験の前に教習所で講習を受けることが出来る。


 もちろん講習は有料だし、講習期間中の滞在料もかかる。

 だが、受講料や滞在費用は後払いでも可能だ。

 その際は、冒険者になった後の報酬から徴収される。

 また、滞在中はギルド指定の宿を寮として住まわせているが、宿屋の手伝いや、ギルドの手伝いをすることで、料金の肩代わりをすることも可能だ。


 教習所は義務教育や単位制ではないので、必要なことだけ学んだら、自由に出ていって構わない。

 早い人は数日で試験合格程度の学力を身に付けられるようだが、長い人は1ヶ月以上かかる人もいる。

 中には宿やギルドの手伝いさえすれば無料で教育を受けられると、じっくり勉強をする者もいるようだが……


 このように、冒険者になろうとする者を、そして冒険者になっても最大限に支援するのが冒険者支援ギルドの役目。

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