第64話 ライラネートの街
「ふぅ……ようやくたどり着いたな」
行商人と遭遇してから10日。
ひたすら人との遭遇を回避して、ようやく目的地のライラネートの街が見えた。
一時はユニコーンに隠密と消音のスキルを覚えさせて大丈夫と思ったのだが……相手が探知系スキルを持っているかもしれないことを、すっかり忘れていた。
途中で冒険者グループにユニコーンが見つかって、慌てて逃げ出す羽目になった。
あの時はユニコーンが加速スキルを使って、何とか逃げることが出来たが……それからすっかり安心できなくなってしまった。
そこで次なる対策として、ユニコーンに魔力妨害とスキル妨害を覚えさることにした。
これで相手が探知型スキルを持っていても、ユニコーンに気づくことはない。
正直、妨害スキルは合成でかなりの量のスキルを消費するので、あまり使いたくはなかったのだが……背に腹は代えられない。
これでまったり旅の再開……なのだが、すれ違う度に見つからないか不安になるので、結局気が休まらなかった。
そして最終的に、俺がユニコーンに偽装スキルで普通の馬の姿に変えればいいことに気づいたのが昨日のこと。
もちろん、これも看破や鑑定系スキルを使われればバレてしまうのだが、気配察知で見えないものまで探っている状態ならともかく、見た目は何の変哲もない馬車の馬相手にスキルを使うかといえば……多分使わないだろう。
これにもっと早く気づいていれば、あんなに気疲れする必要もなかったのに……いや、それでもやっぱりすれ違う度に神経をすり減らしたかな?
とにかく最終的には何事もなく到着したのだが……どっと疲れた。
今回のことはちゃんと反省して今後に活かすことにしよう。
ユニコーンに覚えさせたスキルも、今後のことを考えると、覚えさせても損はなかったとはずだ……多分。
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街に入る際はユニコーンは連れていかないので、少し手前で馬車ごとカードに戻して歩いて向かう。
ライラネートはしっかりと外壁で覆われており、正門では街に入るための行列ができている。
柵で誤魔化していたバランの村とは大違いだ。
「いいことシュート。街では看破レベルとはいかないまでも、嘘を見破るスキルとか、逆に看破を防御するスキルを持っているかもしれないからね。あの村のように嘘ばっかりついてると、すぐにバレちゃうよ」
「分かってるよ」
移動中にナビ子からさんざん聞かされたことだ。
ってか、嘘ばっかりついてと言うが、じいさんの設定を持ち出して嘘をつかせたのは誰だったかと言いたい。
本来なら俺だって嘘はつきたくないんだ。
もうじいさんネタは必要ないんだし、必要に迫られない限り、嘘はつく予定はない。
「多分、門番にはどこから来たか尋ねられると思うからね。どう答えるの?」
「どこから来たって聞かれたら、バランの村って答える。出身はどこかって聞かれたら、バランの方からって答える。これでいいんだろ?」
これも道中でナビ子から教わった。
バランの村は直前に滞在したから、どこからって質問の解答として間違っていない。
出身と聞かれても、バランの村の方角にある山なので、村と言わずに方と言えば嘘にはならない。
相手が勝手に勘違いするだけだ。
それに手紙もあるから真実味も増す。
「うん、これなら大丈夫そうだね」
ナビ子が太鼓判を押してくれるけど……こんな詐欺師のような方法を教えるナビゲーターって正直どうよ。
嘘と変わらなくね?
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「ねっ! アタイのお陰であっさり街に入れたでしょ」
ナビ子がどやぁと胸を張る。
まぁ無理もない。
ナビ子先生の常識講座のお陰で、スムーズに門を抜けることが出来たのは間違いないのだから。
まず街へ入る際に、身分証の提示を求められた。
身分証には冒険者ギルドや商業ギルドなど所属ギルドのカード、それから街の住民である証の市民証などがある。
身分証なんて持っているはずがないんだから、事前に知ってなければ、この時点でテンパっていただろう。
身分証を持っていなければ街に入れない……ことはない。
この街以外の市民証や、身分証を持っていない村人は街に入る前に審査が必要になる。
審査と言っても特に難しいことではない。
まず最初に名前と血液の登録をする。
名前は字をかけない人もいるので口頭で構わない。
血液は指先を針で指して、一滴だけ採取する。
もし身分証がない人が、この街で犯罪を犯した場合、ここでの名前と血液が本人確認となる。
もし街の中では偽名で活動していたとしても、血液で本人確認ができる。
また、血液を登録した時点で、過去に登録があるか、犯罪歴はあるか等も分かるらしい。
もしお尋ね者が偽名で街に入ろうとしても、すぐにバレてしまうそうだ。
魔法なのかスキルなのか……ナビ子にも分からないそうだが、随分とハイテクなシステムだと思う。
名前と血液の登録の後は、出身と滞在目的を聞かれる。
出身に関しては、事前に確認したようにバランの方からと答えた。
滞在目的は素直に冒険者になることと、本当のことを言えば問題ない。
ちなみに身分証を持っていない人の半分以上が同じ目的らしい。
残りは別の仕事を探すか、村人が物をギルドへ依頼や、特産品の販売のためらしい。
身分証を持っている人は、身分証を提示するだけで、ここまで省略できる。
最後に必要なことは税の支払い。
街へ入るために銀貨1枚の入市税を支払わなければならない。
これは身分証を持っている人も支払わなければならない。
もしお金がなかったら、物品での支払いも可能。
この入市税は街で異なるらしいのだが……相場が分からないので、銀貨1枚が高いのか安いのか分からない。
とりあえずバランの村で金貨2枚分貰ったので支払いに問題はなかった。
また、1ヶ月以上滞在する場合は、更なる徴税――1ヶ月毎に銀貨1枚の滞在税が必要とのこと。
これは市民証を持っている人は免除される。
まぁ市民は市民で滞在税より安いが、住民税の支払いが必要らしい。
ただし、冒険者だけは例外らしい。
冒険者は入市税も滞在税も住民税も……全ての税に支払い義務がないらしい。
何故冒険者だけが特別なのか。
それはギルドが肩代わりしているからだそうだ。
そのため冒険者になるのなら、滞在税を支払わなくてすむ1ヶ月以内に冒険者になることを薦められた。
まぁ早ければ今日明日中にも冒険者になるつもりだから問題ない。
以上のことを、ナビ子先生が教えてくれていたから、スムーズに街に入ることが出来たんだが……
「ナビ子がしおりの中に戻っていたら、もっと早く入れたのにな」
案の定というか、ナビ子の存在が向こうの興味を引いた。
審査中にナビ子の種族やどこで見つけたかなど色々聞かれた。
もちろん世間話程度だから、答える義務はない。
ある日突然付きまとうようになったとはぐらかした。
それから、妖精は珍しいから盗まれないようにと忠告を受けたり……妖精が何かしでかしたら飼い主の俺の責任になるなど、注意を受けた。
まぁこれはナビ子だけじゃなく、モンスターを連れている人には必ず注意はしているらしいのだが……これを聞いてナビ子が不機嫌になった。
「本当に失礼だよね。アタイが問題を起こすわけないじゃん!」
マニュアルなんだからそんなに怒らなくてもいいのに……本当に問題児に思われてしまうぞ。
それに……ナビ子は問題を起こさないかもしれないけど、ナビ子が原因で問題が起こる可能性はある。
現に街に入ってから、ナビ子は既に注目を浴びている気がする。
……いきなり盗まれたりしないよな?
まぁ盗まれたところで50メートル離れたら戻ってくるけど。
これ以上目立つ前に、さっさと冒険者ギルドへ向かうことにした。




