第62話 シュートの恋愛事情
「ねぇシュート。そんなにビクビクしなくても、なんとかなるって」
すれ違った行商人から、ユニコーンが狙われるかもしれないと聞いた俺は、それからずっと後悔していた。
いや、ユニコーンを作った事自体は後悔していないが、何故俺はもっとちゃんと対策を立てなかったのだろうか。
いや、今からでも遅くない。
ナビ子の言う通り、なんとかするために、ちゃんと今からでも対策を立てよう。
「要はユニコーンが誰にもバレなきゃいいんだ」
「そうだね。で、一体どうすんのさ」
バレないようにするには、召喚しないのが一番。
だが、それでは何のために作ったのか分からなくなる。
ユニコーンを召喚しつつもユニコーンとバレない方法……
「多分色々とやりようはあるんだ。たとえば、誰かが近づくと俺が隠蔽スキルで馬車ごと消してやり過ごすとか。まぁその場合は、ナビ子の気配察知をフル活用させてもらうことになるけど……」
「それは今とやっていることが同じだし、別に構わないけど……多分、街や村に近づくと、人に遭遇する確率が上がっちゃうよ。毎回隠れるの? 人が常に行き来している環境だったら動けなくなっちゃうかも」
隠蔽は隠密と同じように、動いても問題ないスキル。
そして隠密と同じように、姿だけで音までは隠せない。
そのため、馬車って意外と音がするから、音ですぐに気づかれてしまう。
そして認識されると効果がなくなるから……結局すれ違う間は、息を潜めなくちゃならない。
そうなると、ナビ子が言うように、街に近づくとすれ違う人も増え、動けなくなってしまう恐れもある。
「そもそも隠蔽で隠さなくても、カードに戻せばいいだけじゃない?」
ふむ。
確かにそっちの方がバレる心配はないし、俺たちは歩いて旅をする振りをすればいいから先に進める。
だけど、これも結局街に近づくと再召喚できずに、ずっと歩き続けることになりそう。
出来るだけギリギリまで馬車は使いたい。
というか、ナビ子と2人で歩き続けていても狙われそう。
護衛としてラビットAを呼び出しても目立って逆効果だろうしなぁ。
「じゃあさ。いっそのことユニコーンに隠密と消音のスキルを覚えさせて、ずっと隠れたまま移動させればいいんじゃない?」
「それだっ!!」
それなら、すれ違う度に毎回隠蔽やカードに戻す必要はないし、消音もあるなら音を気にする必要はない。
「んっ? ……なぁナビ子。確かに隠密と消音でユニコーンは消えるかもしれないけど、馬車はどうなるんだ? 馬が引いてないのに動いている馬車はヤバくないか?」
不思議な馬車としてユニコーンより目を引きそうだ。
「隠密や消音のレベルが高かったら、触れているものも効果があるはずだけど……」
「そうなの? 自分だけじゃなかったんだ」
「そりゃあそうだよ。もし自分だけだったら、着ている服や装備品も効果がないことになっちゃうよ」
そっか。
裸でスキルを使うわけじゃないもんな。
自分だけ→装備品→接触物。
こんな感じで、レベルが上がると対象が増えていくのかもしれない。
「……レベルの高い隠密と消音のスキルは確かあったはず」
スキル合成で新たにできたスキルはレベル1なのだが、元々モンスターが持っていたスキルはレベルがそのまま。
隠密と消音はキラービーから手に入れたから、最初からレベルが高い。
「あった! 両方とも一番高いのがレベル6だ」
「レベル6なら十分だよ!」
ナビ子も大丈夫だというから、早速ユニコーンにスキルを覚えさせる。
そういえばモンスターにスキルを覚えさせる。
「……これで完璧だな」
俺達は誰にも認識されないまま街へと向かうことが出来る。
俺達は安心して旅を再開した。
****
無事にまったり旅に戻ったので、馬車の中で世間話をしながらいつもの作業に戻る。
「ねぇシュート。街に着いたら何するの?」
「何って……そりゃあまずは冒険者になるに決まっているだろ」
それが目的なんだから。
「それは分かってるけど……冒険者になったらどうするの? 誰かとパーティーを組んで旅するの?」
……何を言い出しているんだコイツは?
「そんなわけないだろ。パーティーとか……俺のスキルをどうやって説明するんだよ」
パーティーなんか組んだら俺のスキルが一瞬でバレてしまう。
妨害や隠蔽スキルを手に入れてまで隠そうとしていた理由を分かっているのか?
「それだけど……別にカード化スキルは絶対に秘密ってわけじゃないんだし、仲間になる人になら教えてもいいんじゃない?」
そりゃあスキルについて口止めされているわけじゃないけど……こんなチートスキルがバレたら絶対に面倒なことになる。
カードを盗む者、利用しようとする者、下手したら実験体や延々に合成するだけの監禁生活とか……うん、知られるわけにはいかない。
まぁナビ子の言うように、信頼できる仲間ならいいかもしれないが……
「それが本当に信用できる仲間ならな。でも……そんな仲間なんて、そうそういないよ」
「そうなんだ。アタイはてっきりシュートは冒険者になったら、ハーレムパーティーでも作るのかと思っていたよ」
ナビ子がとんでもないことを言う。
「そんなん作るわけないだろ!! ハーレムパーティーとか……楽しいと思うより、絶対に気疲れの方が多いわ!」
ネトゲとか……ギルド内で女性がいたら大変と聞くしね。
まぁ男が俺だけの本当のハーレムなら違うかも知れないが……それはそれで人間関係が面倒なことになりそうだ。
というか、俺に近づく女性って絶対に別の目的があるだろ。
「じゃあハーレムじゃなくて恋人とかは? 恋人同士のコンビなら信用も出来るし、人間関係も面倒じゃないよ」
……さっきから何なんだ?
俺を誰かとくっつけたいのか?
「いや、恋人は絶対に作らない」
「何で? ……はっ!? もしかしてシュートって女の子に興味がない人?」
「違うわ!!」
思わず大声でツッコむ。
とんでもない言いがかりだ。
「そうだよね。シュートだって女の子に興味あるよね。実は最近シュートのウィッチを見る目つきがちょっと怪しいから、いつか襲うんじゃないかって心配だったんだ」
「襲わねーよ!!」
なんてこと想像してるんだコイツは。
確かにゴブリンウィッチは進化して確かに可愛くなったし、俺の唯一と言っていいくらいの癒やしだけど、ゴブリンに手を出すほど飢えてね―よ。
もし本当に我慢できないようなことがあったら、ゴブリンウィッチに手を出さずに、そういったお店に行く。
つーか、ナビ子は俺がゴブリンウィッチを襲うと思ったから、さっきから恋人とかハーレムとか言い始めたのか?
「ったく。何考えてるんだか。俺だって男だから女性に興味ないことはないけど……。ただ……な、恋人にはちょっと苦い思い出があって……」
「えっ!? 何々。何があったの?」
やけにナビ子の食い付きがよい。
やっぱりナビ子も女の子だから恋バナが好きなのかな。
「別にそこまで大した話じゃないけど……捨てられたんだよ」
「あ~付き合ってた彼女に逃げられちゃったのね」
「えっ? ああ違う違う。捨てられたのは俺じゃない。捨てられたのは……コレクションだ」
「…………は?」
「学生の頃からずっと……10年以上かけて、地域限定やスポーツ選手とかアイドルとかのテレホンカードを集めてたんだ。多分、千種類はあったと思う。それを……当時付き合っていた彼女が全部オークションに出しやがった」
しかも価値が分からないからと、適当に全部セットで。
100万で落札があったらしいが……本当にアホかと言いたくなった。
ちゃんと調べればプレミアが付いているのもあるから、1枚で10万くらいの価値のあるカードだってあったのに……総額だと1千万くらいいったんじゃなかろうか。
「挙げ句の果てに彼女は何て言ったと思う? 『そんな使いもしないカードに金を使う位だったら、私に使ってよ』だぞ。ふざけるのも大概にしろって話だよな」
その彼女とは一年以上同棲していたけど、結局その時の大喧嘩でそのまま別れた。
ちなみにオークションのお金は振込先が彼女の口座だったので全額とられた。
もしかしたら最初からコレクション目当てじゃなかったのか? そう思いたくなる。
「それって勝手にコレクションを売った彼女が悪いのか、コレクションにかまけて彼女を蔑ろにしていたシュートが彼氏として駄目駄目なのか……判断に悩むところね」
いや、悩むまでもないだろ。
「別に俺は悪くないだろ。でもそういうわけで、俺に近づく人は皆コレクション目当てだと疑ってしまうんだ」
「まぁ一年以上同棲していた人に裏切られちゃあね」
「だから俺は彼女やパーティーは作らない。少なくとも、絶対に裏切らないと分かるまでは……それと、俺の趣味を許容してくれる人じゃなきゃな」
「シュートって確かグローリークエストで破産したのよね。破産するくらい、趣味にのめり込む人を許容する人は……というか、破産させちゃ駄目だから、止めないと駄目なんじゃ……」
ナビ子が正論を言う。
「なっ。結局は許容しても許容しなくても駄目ってことだ。それに……もし本当に恋人ができたとしたら、冒険が続けられると思うか? ポーションを売ればお金を稼げると知ったら、もう冒険をしないで堅実に生きようとする気がするんだが……そのまま引きこもり生活になったらナビ子だってイヤだろ?」
多分日本で生活していた頃と全く変わらない生活になると思う。
「確かにそれはちょっとイヤかも」
「だろ? パーティーを組んだって同じだ。元々冒険者なんて金稼ぎがメインなんだから……俺が毎日ポーションを作れることが分かれば、冒険しなくなるよ」
たとえ本当に信頼できる人がいたとしても、お金の心配がなくなれば、命がけの冒険者を続ける人なんているはずがない。
一部の戦闘狂や、俺のようなコレクターでもない限りな。
「じゃあシュートはこれからもぼっちなんだね」
「ぼっちって言うな! こういう時はソロって言うんだよ」
まったく……俺はあえて仲間を作らないんだから、ぼっちとは違うっつ―の。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。
お陰様で当初の目標でありましたブクマ100件を突破することが出来ました。
まさか投稿開始から2ヶ月かからずに到達できて本当に驚いております。
本当にありがとうございます。
また、ブクマ以外にも評価や感想など大変嬉しく思います。
そして誤字脱字報告……いつも本当に感謝です。
物語はまだまだ序盤。
冒険者になってからが本番になりますので、これからも応援していただけますと幸いです。
そして、もしよろしければ、ブクマや評価、感想などいただけましたら幸いです。
また、大したことは書いておりませんが、毎回投稿後には活動報告も書いておりますので、よろしければそちらも御覧ください。
では、これからもよろしくお願いいたします。




