第61話 快適な旅?
無事にユニコーン車で旅を始めた。
目指すはこの辺りで一番大きな街ライラネート。
バランの村で聞いた情報によると、この馬車道を1ヶ月ほど歩けばたどり着くそうだ。
歩いて1ヶ月ということは、馬車なら半月も掛からないだろう。
もちろんライラネートまでの道中には、他の村や小さな街もある。
だけど冒険者になりたいならライラネートが一番とのこと。
他の村はバランの村と似たりよったりだろう。
小さな街は少し興味があるが……一番大きな街を目指しているのだから、別に必要に迫られない限り、寄る必要はないだろう。
必要に迫られること……あるのか?
寝る時は宿屋よりも快適な一軒家があるし、食料だって十分余裕がある。
もしどうしても寄らないといけないとなると……俺が乗っている馬車を買い換える時か。
ただ壊れてもカードに戻せばいいだけだから、買い換える必要があるとすれば……快適度かな。
今も移動中だが……少し揺れが気になる。
もっと上等な馬車なら揺れも抑えられるかな?
ただ、クッションを用意すれば我慢できないほどじゃないし、どうせ買い換えるならライラネートで買い替えたほうが絶対いい。
そういうわけで、一直線にライラネートを目指すことにした。
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馬車の旅は非常に快適だった。
若干の揺れは気になるものの、自分で歩かなくても、座っているだけで進むんだ。
文句などあろうはずがない。
防犯面はユニコーン自身が危険察知を、馬車の中にいるナビ子が気配察知を持っているから、何かが近づけば分かる。
最悪敵に先に見つかっても、加速で逃げることも出来るしね。
まぁモンスターに関しては、襲われる心配は殆どない。
元々馬車道にモンスターがいないのもあるが、ナビ子が言うにはこの辺りにユニコーンに敵うモンスターがいないらしい。
自分よりも強いと分かっている敵を襲うような真似は、モンスターもしないようだ。
ちなみに普通の馬車なら御者が必要だが、カードモンスターのユニコーンには御者の必要がない。
何せ俺の命令に忠実だし、ユニコーン自体も賢いからな。
ただ本来御者のいる場所に誰もいないと……ユニコーンがぼっちになってしまう。
なので御者代わりとして、フェアリーとピクシーがユニコーンの相手をしてくれた。
ユニコーンもフェアリーとピクシーが話し相手になってくれて嬉しそうだ。
……あの2人が女の子だからかな。
なので俺は馬車の中で心置きなく自由に過ごすことが出来る。
やることは勿論レシピ合成。
もうすぐレベル4になるはずだ。
そして魔法カードの補充。
馬車の中で攻撃魔法は使えないが、回復やガード系、補助系の魔法は使えるので、それらの魔法の補充。
俺はカードを、モンスター達はスキルのレベルアップにも繋がる。
後はカード化以外のスキルのレベルアップ。
これが今のところ最優先かな。
特に魔力とスキル妨害のレベルアップが必要だ。
妨害スキルは実際に妨害すればレベルが上がる。
スキル妨害は鱗粉のスキルを、魔力妨害はブラインドの魔法を使用してもらって地道にレベルを上げていった。
もちろん夜は一軒家を呼び出して就寝。
本当は夜通し移動して、早く街にたどり着きたいのだが、流石に揺れる馬車では寝にくいし、ユニコーンも休ませなくてはならない。
そして朝起きて、日課の筋トレと銃の訓練。
ずっと馬車にいたら体が鈍ってしまうから、しっかりと運動もする。
そうやって非常に有意義で快適な旅を続けていた。
……最初の数日間だけは。
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「失敗した」
俺はがっくりと項垂れる。
「失敗って……最初から分かりきってたことじゃない」
「そういうなよ。あの時は……ユニコーンになることだけしか考えなかったんだ」
そう。あの時は敬遠されそうなワイルドホースよりも、尊敬されそうなユニコーンの方がいいと思ったんだ。
だけど……俺はメリットしか考えてなかった。
ユニコーンというレアすぎるモンスターが、どれだけの影響力があるかなんて考えもしなかった。
きっかけはさっき出会った行商人だった。
ユニコーンに仰天してくれて、俺もちょっとした優越感に浸っていた。
やはりコレクターたるもの、コレクションに驚いてくれると嬉しいものがある。
その行商人とは、少し世間話をして別れることになった。
ただ、その行商人が最後にはなった一言が、俺を現実に引き戻した。
『そのユニコーンは確かに立派ですが、悪目立ちもするでしょうな。ユニコーンの角は万病にも効く薬になりますし、レアなモンスターはそれだけで経験値が高く、魔石も高く売れるでしょう。他の冒険者からやっかみだけならともかく、下手したら命を狙われるかもしれません。もちろん冒険者だけでなく、盗賊からも格好の的ともなりましょうぞ。最近この辺りに盗賊が移住してきたようですからな。十分気をつけた方がよろしいですぞ』
行商人とはそれで別れたのだが……それを聞いて、俺は気が気でなくなった。
何せ出会う人間全てがユニコーンを狙って敵になるのかもしれないのだ。
しかもユニコーンの持ち主は、16歳の一見頼りない見た目の男と、人前では非常に珍しい妖精もどき。
俺を殺すだけでユニコーンと妖精が手に入る。
もちろん実際はカードと旅のしおりだから手に入れることはできない。
だが、それを知らない敵に確実に俺は狙われてもおかしくない。
まぁもちろん殺されるくらいなら俺だって反撃するけど……それは相手を殺すことを意味する。
俺は自分のコレクションを狙う相手には容赦しない。
死んでもいいと思う。
だが、今回は相手が問題だ。
盗賊なら構わない。
多分罪に問われない。
ただ……勝てるかどうかは別問題だ。
おそらくカードモンスターを総動員すれば負けることはない。
ラビットAを始め、古参モンスターはかなり強いと思う。
だが……その場合、盗賊を一人でも逃したりすれば……ユニコーン持ちでモンスター使いの男の情報が一瞬で盗賊界隈に出回るだろう。
特にゴブリンや昆虫系モンスターは人々に敬遠されがち。
下手すると、盗賊だけでなく街でもお尋ね者になるかもしれない。
リスクが高すぎる。
それでも盗賊ならばまだいい。
近隣の村人に襲われたら……相手から襲ってきても犯罪者にされてしまいそうだ。
そして冒険者。正直言うと、彼らが一番怖い。
初心者冒険者がレアアイテムを持っていたら狙われるのはお約束だ。
……まぁ日本での知識だけど。
でも金のためなら何でもするって冒険者は絶対にいる。
ここから先、村や街に近づくにつれ、人と遭遇することが増えるはずだ。
その時俺はどうすればいい?
快適なはずの旅が一転して、恐怖の旅へと変貌した気分だ。




