第58話 ポーションの価値
村長と2人で家へと戻ったのだが……案の定というか、村長から質問攻めにあった。
質問の内容は当然のことだが、ゴブリン退治について。
ゴブリンの死体に、驚くほど傷がなかったのが気になったらしい。
俺も実際に退治する場面を見たわけではないが、武勇伝を語りたがったホブAのジェスチャーで、ある程度のことは分かっている。
それによると、ホブゴブリンの威圧で動けなくしてキラーホーネットがブスリ……だそうだ。
武勇伝もなにも、ただスキルを使って動けなくしただけだった。
そりゃあ一日でほとんど全滅させられるよ。
ちなみに一番時間が掛かったのが死体の運搬作業だそうだ。
それこそ死体が腐ってしまわないように、キラーホーネットの毒が時間差でゆっくり殺すようにしたらしい。
俺への心配りはありがたいが、その話を知ったときは若干引いたぞ。
仮にも元仲間なんだから、苦しませずに殺してやれと言いたかった。
そういうわけで、外傷はキラーホーネットが刺した後しかない。
ただ、ホブゴブリンもキラーホーネットの話も出来ないので、ラビットAがブスリってことにした。
角と針じゃ大きさに差があるけど……そこまで気にしないだろう。
そして戦った形跡がないのは、ゴブリンの巣に痺れ薬を撒いたから。
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痺れ薬【薬品】レア度:☆☆
飲むと体が痺れる薬。
飲まずとも触れるだけでも多少の効果がある。
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試しにスキルのマヒ攻撃と水を合成したら完成した薬だ。
ただスキルを消費するから量産はできないけど。
これを巣の前で気化させ、ラビットAの風魔法で巣の中に充満させる。
動けなくなったところをブスリってことにした。
まぁ今度はその痺れ薬をどうやって手に入れたか質問されたんだが。
それはじいさんから調合を教わったと言えば簡単に信じてくれた。
……こうやってまた嘘が増えていくんだよなぁ。
そんな話をしていると、ロランさんがやって来た。
無事に男衆に引き継ぎしてきたようだ。
そしてロランさんにも同じようにゴブリンの倒し方に関して言及される。
俺はもう一度同じ話をして、ようやく報酬の話に入ることができた。
「――では約束通り、これがワイルドホースの魔石じゃ」
村長がすんなり渡してくれる。
「ありがとうございます」
ようやく魔石が手に入った。
これを手に入れるために、どれだけの嘘を重ねたのか。
まさに詐欺師の気分だ。
「それで……もし余っているなら、このワイルドホースが引いていた荷車も欲しいんですが、売ってくれませんか?」
「荷車をか? 馬もないのにどうするのじゃ?」
「馬は……別に手に入れます。それまではレ……ワイルドボアに引かせようかと」
危ない危ない。危うくレッドボアと言いそうになった。
「ワイルドボアでは体格が違いすぎて、無理があると思うのじゃが……」
「まぁ馬を手に入れるまでのつなぎですから」
「ふむ。じゃが荷車となれば……流石にゴブリン退治の礼でもタダとはいかんぞ?」
「もちろんです。ただ俺は金を持ってないので……代わりにこんなのはどうでしょう」
俺は鞄からポーション各種を取り出す。
「左からローポーション、ミドルポーション、ハイポーション、そして魔力回復ポーションです。どうでしょう? 交換していただけませんか?」
昨日からずっと量産していたポーションと、ついでにアンブロシアから作った魔力回復ポーション。
こちらも1日3個作れて、下山してから消費していないため、少し在庫がある。
そして3種の霊薬……は出すと色々とヤバそうなので、自重する。
「ローポーションはともかく……ミドルポーションにハイポーションじゃと!?」
村長の驚きからミドルポーション以上は結構貴重なのかもしれない。
「いや、村長。魔力回復ポーションと言えば、金貨100枚はするはずだぞ」
「き、金貨ひゃくみゃい!!」
村長が驚きすぎて言葉になっていない。
一応、お金のことはナビ子から簡単に聞いている。
硬貨の種類は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の5種類。
ナビ子が分かりやすく日本円で例えてくれたけど、鉄貨が10円、銅貨が100円、銀貨が千円、金貨が1万円、そして白金貨は100万円の価値らしい。
要するに魔力回復ポーションは金貨100枚――100万円だ。
白金貨と言わないのは、白金貨に馴染みがないからだろう。
……魔力回復ポーションって、そんなにするの?
ちなみにミドルポーションで金貨1枚。ハイポーションで金貨5枚はするそうだ。
一方、ローポーションは銀貨1枚。
ローポーションはありふれているから安いが、ミドルポーション以上は市場に出回っていないらしい。
そのため、この金額よりも、高くなることもあるとか。
「このポーションがあれば、街に行けば、馬を含めて立派な馬車が買えるであろうに……」
「金額的にはそうでしょうが、本当に手に入るか分かりませんからね。手に入る時に手に入れたいんですよ」
というか、街に行く前に欲しいだけなんだけど。
街に行って立派な馬車があったら、改めて買えばいいだけだ。
「それにしても、これだけのポーション。どうやって手に入れたのじゃ?」
「痺れ薬と一緒ですよ。山にはヒール草が生えてますからね。いくらでも作れますよ」
「このポーションはそなたが作ったのか!?」
「ええ。そうですが?」
何でそんなに驚くんだ?
「ミドルポーション以上の代物を作るのは、何年もの修業と才能スキルが必要と聞いていたのだが?」
「……小さい時からじいさんから色々と教わりましたから」
「なるほど……あの祖父から教わったのであれば間違いないか」
それで納得……やはりじいさんは魔法の言葉だな。
「それで……どうでしょう? そのポーションと馬車を交換していただけないでしょうか」
「うむ。この村としては、大歓迎なんじゃが……そなたは大損することになるぞ?」
「じゃあ少しだけでいいのでお金をくれませんか? 何せ無一文なので」
「しかし、この村にこのポーションに見合う金は……」
「もちろん相場のお金じゃなくていいんで。この村が損をしない程度に……街でしばらく暮らすのに困らない程度のお金で十分ですよ」
「ふむ。そなたが本当にそれでよいのなら、儂は構わぬよ」
「ありがとうございます」
こうして俺は無事にワイルドホースの魔石と馬車の両方手に入れることができた。
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その後、村長の説明により、村中にゴブリンが全滅したことを伝えられた。
村人たちは姿が見えないゴブリンに怯えていたようで、その脅威がなくなったことで、村人は大いに喜んだ。
そして急遽、村を上げての宴会が行われた。
せっかくの宴会だということで、俺はゴブリンウィッチ達が解体してくれたホーンラビットの肉を無料で提供した。
本当はポーションが売れなかった時用の売却用で準備したんだし、ポーションが高価だということが分かったので、大盤振る舞いって感じだ。
この村では肉はあまり食べれないようで、子どもたちがすごく喜んでくれた。
そして自分だけが食べるのではなく、ラビットAにも食べさせようと……
ちょっと!? その肉をラビットAに食べさせようとするのは流石に酷すぎるから止めて!!
……とりあえず草食だから肉は食べないと説得して、ニンジンを渡してやった。
ラビットAに与えられるエサがあれば子ども達は満足するもんな。
そしてゴブリンを解体した男衆には缶ビールを提供した。
この村の人はビールを飲んだことがなかったようで、こちらもすごく喜んでくれたが……残念なことに1人1缶が限界。
中には売ってくれと、せがむ人もいたが……自分の分が無くなるのは嫌なので、丁重にお断りをした。
その中で……他の人は気にしていなかったが、ロランさんだけは缶の方に注目していた。
缶は異界シリーズなので、放置するとマズイと思い、朝になったら自然消滅する魔道具ということにした。
返還すれば、どこにあっても缶はカードに戻るしね。
ロランさんから『そんな魔道具聞いたことがない!』と言われたが、じいさんから教わったといつもの言い訳で……流石に怪しまれたけど、何とか誤魔化した。
これ以上はボロが出そうだから、ロランさんから離れて他の村人と話して回った。
俺が村人に聞いたことは、この村の特産品のこと。
今後、出身は? と聞かれたら、バランの村の方から来たと言うつもりなので、この村のことを知っておかないといけない。
肉と酒のお陰で、村の人は饒舌に答えてくれた。
これだけでも提供した甲斐があったってもんだ。
宴会後は空き家で一晩を明かす。
ロランさんが言うには行商人が来る度にここを使用しているらしいが……ベッド以外何もない。
そのベッドは……固いわ埃被ってるわで、とてもじゃないけど眠れそうにない。
とりあえず、自前のベッドを解放して寝ることにするが、一応図鑑登録の意味も兼ねて、このベッドをカードにしてみる。
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ベッド【家具】レア度:☆
寝床。
安宿でよく使用されている。
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レア度があるから図鑑登録には役に立ったが……安宿のベッドはこのレベルなのか。
……やはり宿に泊まるメリットはあまりないなぁ。
どこか一軒家を建てれる土地を見つけ出せればいいんだけど……ポーションのお陰で、お金の心配はなさそうだからな。
街でちょっと考えてみるか。
そんな事を考えながらいつの間にか眠りについていた。




