第57話 再び村へ
次の日、夕方までは解体作業と合成で時間を費やす。
ゴブリンウィッチ達の頑張りにより、残っていたホーンラビットの死体は全て解体が完了。
大量の肉が手に入った。
ゴブリンの死体もなくなり、ホーンラビットの死体もなくなったことで、ようやく図鑑の中が死体安置所じゃなくなった気分だ。
まぁまだ蝶や蜂、蜘蛛の死体は残ってるけどね。
俺の方はひたすらポーションの作成。
ポーションはヒール草を使用しなくても、ヒールの魔法と水でポーションが作れるようになった。
ヒールはラビットAと光のゴブリンメイジが覚えている。
もしポーションが売れれば、原価ゼロで稼ぎまくることが出来る。
そう考えると手が止まらず、ただひたすら作り続けてしまった。
フェアリーとピクシーに関しては、現在俺が持っている風属性と闇属性を全て覚えさせた。
2人には暇があれば魔法を使ってもらって、スキルレベルを上げてもらいたい。
ちなみにピクシーはルナバタフライと違い、日中でも普通に行動していた。
だが、それでも夜の方が元気になるらしい。
なので、今後ピクシーには引き続き夜をメインに行動してもらうことにした。
そして夕方。
「さて、準備ができたな」
ホブA達が作った二台の台車にゴブリンの死体を載せる。
死体は既に解除してブランクカードを破棄している。
なのでこの死体はカードに戻らない。
村までは約2キロ。
二台の台車を引くのはレッドボアとラビットA。
ラビットAは昨日会ってるし、レッドボアは……途中で捕まえたとでも言えばいいだろう。
こうして俺はバランの村へ帰還した。
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「ただいま戻りました!!」
村の入口でロランさんがいたので、元気に報告する。
「……本当に1日で戻ってきたのだな」
ロランさんが呆れた様子で言う。
「ええ。全速力で取りに帰ったので」
「全速力……か。確かにあのスピードなら戻ってくることは可能か」
昨日のラビットAのスピードを目の当たりにしているから、不可能とは思ってないようだ。
そう考えると、あれで正解だったかもしれない。
そのラビットAとレッドボアは見える位置だが、少し離れた場所で待機している。
流石にレッドボアを村の中には入れられないだろうし、そもそも死体だって村の中に入れていいものなのか……子どもの教育によろしくないと思う。
「ゴブリンの死体はあれか?」
「ええ。どこに置いていいか分からないので、とりあえずあそこに待機させてます」
「1匹は昨日の進化したホーンラビットのようだが、もう1頭は……もしかしてワイルドボアか!?」
レッドボアだけど……ラビットA同様、あえて訂正する必要もないか。
「ええ。荷物運びに便利そうなので、ここへ来る途中に手懐けました」
元から仲間だったといえば、昨日いなかった理由を問われそうなので、途中で捕まえたことにする。
「野生のワイルドボアを手懐けた……だと!? 考えられん」
「いやぁ……意外と物分かりのいい奴でしたよ」
「……君は魔物使いなのかね?」
魔物使いか……そう思っていてくれた方が都合がいいな。
「俺はじいさん以外の人に会ったことがないので、一般的な魔物使いがどんなのか分かりませんが……あの2匹以外にも。今まで懐いてくれるモンスターはいましたよ」
「魔物使いはモンスターと心を通いあわせて従わせることのできる職業のことだ。魔物使いに使役されたモンスターは、通常のモンスターとは別の特殊なスキルや力を持つと言われている」
「だったら俺は魔物使いかもしれませんね。だって……普通のウサギは魔法なんか使わないでしょ?」
「ふむ。確かにそうだな」
「それよりも……あのまま待たせるのは悪いですから、早く指示を下さい」
「あっああすまん。今村長を連れてくるから……あの辺りに待たせておいてくれ」
ロランさんが示した場所は村の……柵の外ではあるが、草の生えていないちょっとした広場だ。
「普段から動物やモンスターの解体はあそこで行っているんだ」
なるほど、作業場所ってことか。
ロランさんが村長を呼びに行ったので、俺はその場所に死体を運ぶことにした。
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「わわわ……ワイルドボアじゃ……」
村長が腰を抜かしそうなほど驚いている。
「襲ったりしないので安心してください」
俺が優しくレッドボアの頭を撫でる。
硬い毛がチクチク刺さってちょっと痛い。
「ふむ……ワイルドボアとはこんなに強そうであったか? もっと普通のイノシシに近かったような気がするのだが?」
「さっ、さあ。俺には分からないですねぇ」
流石に近づくと普通のワイルドボアとの違いに気づくか。
「まぁ何もしなければ敵意はないですから、気にしないで下さい」
「う、うむ。分かった」
それでもチラチラ見る村長。
やっぱり怖いのかなぁ。
「それで……ゴブリンの死体なのですが、これで信じてもらえましたか?」
村長とロランさんの前には40体のゴブリンの死体が山積みにされてある。
「……本当にゴブリンの死体じゃ」
「この死体……まだ死んで間もないように思えるんだが?」
「殺したのは1週間くらい前ですかね。解体が終わるまでは、腐らないように冷たい場所に保管してましたから、そのせいでしょう」
カードの中は腐らないから嘘ではない。
……冷たいかは分からないが。
「冷たい場所?」
「ええ。山には洞穴とかありますからね。肉とか野菜とか……保管するのにピッタリなんですよ。あっダンジョンではないですから安心してください」
あの山にダンジョンがあるとなれば、別の意味で大騒ぎになる。
この説明で2人とも一応納得してくれたようだ。
「それで……この死体、どうしましょう? 処分するなら角と睾丸は素材として売却できると思いますが、それ以外は……」
「我らもゴブリンの素材くらいは分かっておる。村の男衆で解体し、アンデッドになる前に焼却処分をすることにしよう。この程度の解体ならば時間はかかるまい」
まぁ俺も素材の少ないゴブリンなら解体するのにそう時間はかからない。
慣れている村人が解体すれば、1時間もかからないんだろうな。
俺もゴブリンの素材は十分に持っているし、ここはロランさんに任せることにしよう。
「では我々は先に村へ戻るとしようかの」
ここはロランさんに任せて、村長と俺は村へ入ることにした。
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「あー! 昨日のウサちゃん!」
「きゅっ!」
村に入ると、早速ラビットAが子ども達に囲まれる。
レッドボアはゴブリンのところで護衛。
解体が終わればその場で待機するように言ってある。
昨日の様子なら問題ないだろうと思い、ラビットAはこのまま子どもたちに預けることにする。
昨日と同じようにニンジンを5本ほど子どもに渡す。
「わぁありがとうお兄ちゃん」
「きゅきゅっ!」
子どもよりも、ラビットAの方が喜んでいる気がする。
まぁ昨日みたいにやり過ぎないようにしてもらいたいものだ。
その後、村長は村の男衆に説明をし、ゴブリンの解体を任せる。
そして村長と俺は村長の家でロランさんが戻ってくるまで、世間話をして待つことにした。




