第55話 二匹の合成
明日まで時間潰しで解体と合成を行う。
解体に関しては、ゴブリンは死体ごと渡すので、解体の必要はない。
まぁ魔石だけは全部抜き取らせてもらうが。
だから他のモンスターの解体をする。
主に売却できそうな素材を中心に……荷車の費用に出来れば御の字だ。
多分モンスターの素材ではホーンラビットの肉が一番売れそうかな。
ホーンラビットはラビットAがアホみたいに狩り尽くしたので、有り余っている。
なので今夜はホーンラビットの解体を行う。
「ってなわけで、よろしく頼むよ」
コクリとゴブリンウィッチが頷く。
解体はウィッチとゴブリナ達にやってもらうことにした。
ウィッチを中心に、メスゴブリンは手先が器用な個体が多い。
ホーンラビットの解体程度は任せて問題ない。
ナビ子が教えてくれたメスのゴブリンを見分ける方法。
まぁ方法と言っても、単純に本人に聞いただけだけど。
そのお陰でゴブリナが5体に増えた。
5体ともウィッチのように、次の進化まで上げてもいいのだが……ホブゴブリンを見る限り、ゴブリナの進化先も多そうなので、慎重に行いたい。
なので少しの間、ゴブリナで我慢してもらっている。
それに……進化は先約があるもんな。
****
「ってなわけで、今からフェアリーとルナの合成を行う」
古参の中で、唯一合成進化しなかったフェアリーバタフライとルナバタフライ。
最初はレシピ合成前だったので待ってもらった。
そしてレシピ合成が出来るようになっても、下山が遅れるという理由で後回しにした。
随分と待たせてしまったが、ようやく合成をしてあげられる。
リビングには古参の2匹とは別に、フェアリーバタフライ3匹と多数の幻惑蝶と夜光蝶もいる。
「じゃあ2匹は合成したい相手を選んでくれ」
俺が選ぶとまた不公平とか言われそうなので、前回の古参合成から合成相手は本人に選んでもらうことにしていた。
まぁフェアリーバタフライは3匹のどれかと、ルナバタフライは夜光蝶を2匹選んでもらってレシピ合成でルナバタフライに進化させ、そこから合成って感じだろう。
だが……2匹は相手を選ばない。
「あれっ選ばないの? ……それって俺が選んでいいってこと?」
2匹が違うと否定の左へ移動する。
「俺が選ぶんでもなくて、自分でも選ばないってことは……合成したくない?」
だがそれも否定。
合成はしたいけど、合成相手は選びたくない?
意味が分からない。
「もしかして、この中に合成したい相手がいないんじゃない?」
ナビ子の言葉に2匹は肯定の右へ移動する。
「この中にいないって……えっ? もしかして魔法と合成したいってこと!?」
モンスター合成じゃないとすれば、次に考えられるのはゴブリンメイジのように魔法との合成。
だが2匹はそれも否定する。
魔法でもないと。
「あと残っているのは別の種族との合成……まだ1回もやったことないけど……それがいいのか?」
分かってたことだけど、もちろん否定。
……もしかして単純に俺のことを全否定しているだけじゃないのか?
それだったら泣きそうなんだけど。
でも、これ以上思いつかないなぁ。
「バカねシュート。多分、まだモンスター化してない魔石に合成したい相手がいるのよ」
ナビ子の言葉にまた肯定する。
……何故ナビ子には肯定なんだ?
いや、それが正しいからなんだろうが……なんだか腑に落ちない。
「え~っと、まだ魔石状態の蝶は……うっ結構あるな」
魔石どころか、解体前のまである。
「……本当にこの中から合成したいのか?」
今度は肯定。
できれば否定して欲しかったよ。
「しかし……まだモンスター化していないのに、なんでこっちからがいいんだ?」
スキル目当てなら、モンスター化してないから、どの魔石がどのスキルを持っているか分からない。
どれも一緒だと思うんだが……
「もしかしたら、生前に知り合いだったモンスターなのかもしれないよ!」
なるほど。
俺達には区別はつかないが、同じモンスター同士なら区別がつくだろう。
知り合いがいたら、それと合成したくなる……って気持ちは分からなくない。
だが2匹はそれを否定する。
「あれれっ違うの?」
どうやら違ったらしい。
ようやくナビ子も外れて、なんだかちょっと嬉しい。
だけど……結局理由は分からずじまい。
「知り合いじゃないとすると……イケメンとか美人とかかな?」
……いきなり俗っぽくなったな。
この2匹がオスなのかメスなのか分からんが……そもそも昆虫にオスとメスの区別があるのすら分からん。
そして2匹は……あれ? 否定も肯定もしない。
もしかして本当に……と思ったら、2匹はナビ子に向かって攻撃をし始めた。
どうやら失礼なことを言ったので、怒っているようだ。
「きゃっ!? ごめんっ! ごめんってば!!」
ナビ子が謝りながら逃げまどう。
……ちょっと愉快だ。
「まぁまぁ。そのくらいでいいだろ」
流石に話が進まないから、仲裁に入る。
結局理由は分からなかったけど、別に無理に解き明かす必要はない。
希望があるならそれを答えてやればいいだけだ。
ただ残っている魔石を全部をモンスターにするわけにはいかないから、引き続き聞き取りをしていく。
ゴブリン退治をする前の魔石→否定。
1週間の期限の時の魔石→否定。
山を下りてからの魔石→肯定。
ってことで、山を下り初めてからの個体だと言うことが分かった。
山を下りていた時も、何匹か現れたから倒している。
そういえば、俺も命中補正の効果を確かめるために、倒した個体がいたな。
そう思っていたら、どうやら2匹が希望していたのは、俺が倒した個体だったらしい。
たまたまなのか、俺が倒したからなのか……別に俺が倒したからって何かあるわけではないが、幻惑蝶と夜光蝶を1匹ずつ倒しているので、その個体をモンスターへと変化する。
……個別スキルは所持していない。
何か特別な変化があるわけではなさそうだが……もしかして、本当にイケメンなのか!?
流石にそれは分からないが、この個体をレシピ合成でフェアリーバタフライとルナバタフライへ進化させる。
この時の個体は何でもいいようで、特に指定はなかった。
そして、まずは古参と俺が倒したフェアリーバタフライを合成させる。
――――
フェアリー
レア度:☆☆☆
固有スキル:風の素質、花操作、不可視
個別スキル:擬態、鱗粉、妖精女王の器
妖精族。
花が好きで、花の妖精とも呼ばれる。
非常に閉鎖的な種族で、基本的には他種族の前には姿を現さない。
――――
「ふぁっ!?」
出来上がったカードを確認して、驚きのあまり変な声が出た。
……蝶じゃなくなってるんだが。
「ちょっ、ちょっとシュート! ルナの方もみてみましょ!」
フェアリーのカードを見て、興奮したようにナビ子が言う。
「あ、ああ。そうだな」
ナビ子同様、俺もルナバタフライの合成先が気になる。
――――
ピクシー
レア度:☆☆☆
固有スキル:闇の素質、催眠術、不可視
個別スキル:月の光、月光浴、鱗粉、妖精女王の器
妖精族。
イタズラが好きで、夜中にイタズラを仕掛けることから、夜の妖精とも呼ばれる。
非常に閉鎖的な種族で、基本的には他種族の前には姿を現さない。
――――
「こっちも……」
種族は違うみたいだけど、両方とも妖精だ。
「なっ、なぁナビ子。妖精ってモンスターなのか?」
これってモンスター図鑑だよな?
人間や動物は登録されないって話だけど、妖精は登録されるのか。
「アタイに聞かれたって分からないけど……でもゴブリンだって妖精なんだし、モンスターなんじゃない?」
「えええっ!? ゴブリンって妖精なの!?」
衝撃の事実をナビ子が言う。
妖精ってナビ子みたいな見た目の生き物を言うんじゃないのか?
「あくまでも日本の――地球の物語の中ではだけどね。エルフやトロール、コボルトなんかも妖精の仲間だね」
マジか……ゴブリンだけじゃなく、エルフやトロールまで?
俺の中の妖精のイメージが一気に崩れていく。
「まぁ人間だって、チンパンジーと同じヒト科でしょ。それと一緒だよ」
はぁ……広い定義で見れば、妖精科目ってことか。
それなら……イメージが崩れるけど納得はできる。
「それよりもさ。早くカードから呼び出してみようよ!」




