第53話 ラビットAの芸
村長の家を出ると、外はもう暗かった。
そして家の前で待っているはずのラビットAはいない。
「アイツ……問題起こしてないだろうな?」
ラビットAに関しては、死んでもカードに戻るから心配する必要はない。
が、村人に何かしたっていうのなら、せっかくワイルドホースの魔石を手に入れるチャンスがふいになる。
「どうやらあっちの方にいるみたいだよ!」
どうやらナビ子が気配察知で確認したようだが……
「うん、それは俺にも分かるよ」
だって、ナビ子が示した方向は……夜なのに明るかった。
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村の中央にある広場。
夜なのに明るく照らされている。
その理由は広場の中央に浮かんでいる明るく照らされている光の玉。
おそらくライトの魔法だろう。
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ライト【光属性】レア度:☆
光の玉を召喚し暗闇を照らす。
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ただの明かりの魔法だけど……これを誰が唱えているかだ。
村人でも覚えていそうな魔法だけど……問題はラビットAも覚えていることだよな。
もしラビットAが唱えているなら、魔法が使えるウサギだということがバレてしまう。
そのラビットAは……
「そーれ、いくぞー!」
「きゅー!!」
村人が空へ向かって高くニンジンを放り投げる。
そのニンジンが宙で突然バラバラに刻まれる。
バラバラになったニンジンに向かってラビットAがジャンプ。
空中でラビットAが口を開けると、バラバラになったニンジンが吸い込まれるようにラビットAの口の中へ収まる。
そしてくるりと宙返りをして二本足で着地してポーズ。
「きゅきゅっ!!」
「わー!! すごいすごーい!!」
「きゅきゅだって。かわい~」
「本当にかしこいウサギだこと」
「一体どうやってバラバラにしているんだ?」
「いやいや、それよりもどうやって食べているんだよ!?」
子どもも大人も大盛りあがりである。
「何してるんだよまったく……」
……何がどうなってこんなところで芸をしているんだ?
俺は子どもをいじめるなとは言ったが、芸を披露しろとは言ってないぞ。
しかも思いっきり魔法まで使ってるし……あのニンジンをバラバラにしたのは風魔法だよな?
てことはあのライトも……隠す気ゼロじゃないか。
それからニンジンを食べた方法は……あれ、どうやっているんだ?
あれも魔法なのか? 思い当たる魔法はないんだが……ヤバい、本当にわからない。
ラビットAめ……無駄に高度な芸をしやがって。
「おい。あのウサギ……今魔法を使わなかったか?」
背後からロランさんの声がした。
どうやら俺を追いかけてきたようだ。
流石にロランさんは魔法だと気がついたようだ。
ここで誤魔化すのも無理だよなぁ。
「そうですね。今のは多分ウインドカッターの魔法だと思います」
というか、ライトに関してはあまり驚いていない。
もしかしたら本当に村人の中に使える人がいたのかもしれない。
「どういうことだ? ホーンラビットが魔法を使えるなどと聞いたことがない。……いや、そもそもあんな大きなホーンラビットは見たことが……あれは本当にホーンラビットなのか?」
「え~っと、昔は本当にホーンラビットだったんですよ。だけどある日突然大きくなって……じいさんは進化だって言ってました」
「進化か……ホーンラビットが進化したという話は聞いたことがないが、ありえない話ではない」
動物がモンスターになるし、進化もありえない話ではないようだ。
「きゅっ!」
俺の存在に気づいたラビットAが近づいてくる。
「お前……何してるんだ?」
「きゅわわっ!?」
俺が少し怒った雰囲気で話すと、ラビットAは言い訳がましく首を振る。
違う……不可抗力だったんだ。そう言っているようだ。
まぁラビットAのことだから、調子に乗っているうちにこんなことになったんだろう。
「まぁいい。ラビットA……出発するぞ」
「きゅっ!」
ラビットAが背中を向ける。
……乗るとは言ってないんだが?
「えええ~!? ウサちゃん行っちゃうの?」
「ちょっ! 俺まだ触ってないのに!!」
「私もエサやりたかったのに~」
どうやらラビットAは見事に子ども達の心を掴んだようだ。
……まぁあんな芸をしてたらそうなるよな。
「きゅうう……」
ラビットAは申し訳なさそうに子ども達に鳴く。
そして、俺に向かってどうしよう? って感じで見つめる。
……俺にどうしろと?
「あ~……心配しなくても、明日にはまた戻ってくるから、また明日遊んでくれ」
「ほんとっ!?」
「絶対だぜ!」
「約束したからねっ!」
「きゅきゅっ!!」
俺の言葉に子どもたちとラビットAの表情が輝く。
子どもたちはともかく、ラビットAもかよ。
「よし、じゃあラビットA……出発だ!!」
「きゅっきゅきゅー!!」
何となくそのまま流れでラビットAに乗ってしまう。
すると張り切ったラビットAが掛け声と同時に体がキラキラと光り始める。
「えっ!? ラビットA、ちょっと待っ……」
「あっちょっとアタイは……」
不穏な空気を感じた俺はラビットAを止めようとするが……ラビットAはものすごい速度で出発した。
……ナビ子を残して。
****
「ら、ラビットA!! ストップ! ストーップ!!」
村が見えなくなっても全力で走るラビットAに、俺はさっきから叫び続けていた。
「きゅう?」
ようやく気づいたラビットAが急停止する。
「うわっと」
反動で落ちそうになるところを何とか踏みとどまる。
というか、走っている間からずっと振り落とされそうだったが。
ずっと角にしがみついてたもんなぁ。
「ラビットA……流石にやりすぎだ」
多分俺が乗ったことで張り切ったんだろうけど……あの速度は尋常じゃなかった。
というか、光るなんて予想外すぎだ。
「きゅうう……」
ラビットAがしゅんと項垂れる。
別に悪いことをしたわけじゃないし……ちょっとかわいそうだったかな。
「まぁ今回は初めてのことだったしな。次から気を付けてくれればいいよ」
「きゅい!」
……次があるか分からんが。
とりあえず金輪際ラビットAに乗りたいとは思わないだろうな。
「とりあえず……ナビ子を呼び出すか」
ナビ子はラビットAに置いていかれたからなぁ。
ただ、ナビ子は本体から50メートル離れると、本体に戻るようになっている。
だから今は旅のしおりの中にいるはずだ。
「ちょっとおおお!! 置いていくなんてひどいじゃない。誤魔化すのに大変だったんだかんね」
案の定、ナビ子は怒っていた。
誤魔化すって……多分取り残されて一瞬で姿が消えたと思うんだが。
どうやって誤魔化したんだろう?
「まぁまぁ。俺だってラビットAがあんなに速いなんて思わなかったし」
「きゅうう……」
俺が宥めて、ラビットAが謝るとナビ子も溜飲を下げた。
「にしても、ラビットAはスゴいね! まさか光るとは思わなかったよ。あれも魔法?」
「きゅきゅい」
ラビットAが肯定する。
「おそらく風魔法のフェザータップだろう」
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フェザータップ【風属性】レア度:☆☆
風属性の身体向上魔法。
自身の体を一時的に羽根のように軽くし、敏捷性を上げる魔法。
レベルが上がると持続時間が延びる。
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素早さ上昇のバフ魔法だ。
星2の魔法だが……やはり使えるようになってたんだ。
「魔法の効果は凄いけど……使いこなすのが大変そうな魔法だね」
確かに。
現にラビットAは止まろうと思っても、中々すぐには止まれなかったもんな。
いくらスピードが上がっても、使いこなせなかったら……猪突猛進と似たような感じになる。
「他の星2の魔法もそうだけど……ちゃんと実践で使う前に、試してみないとな」
「きゅきゅっ!!」
試す……か。
またとんでもないことになりそうだなぁ。




