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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第2章 冒険者登録
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第49話 設定

「あっ見えてきたよ!」


「……何とか今日中にたどり着けたな」


 早足で歩き続けて数時間。

 夕方になってしまったが、ようやく村が見えてきた。

 特にモンスターに遭遇することがなかったから何とかたどり着けたが……少しでも戦闘していたら、確実に間に合わなかっただろう。


 にしても、少し息切れはしているが、早足で数時間歩いても平気なくらいに体力はついていたようだ。

 俺も中々やるようになってきたじゃないか。


「このぐらいで息切れするようじゃ……やっぱりシュートは乗り物よりも、もっと体力を付けないと駄目なんじゃない?」


 ……俺的には十分満足していたんだが?

 どうやらナビ子に言わせたらまだまだらしい。


「今も毎日筋トレしてるし、霊薬の量産も出来ているから、心配しなくても体力くらいすぐにつくさ」


 魔力、力、体力を元の状態から1パーセント底上げする霊薬はアンブロシア同様、毎日量産できるようになっている。

 ただナビ子の話では、1日1個、どれかひとつだけしか効果がないらしい。

 まぁドーピングで無理やり底上げをするんだから、飲み過ぎると体に毒なんだろう。


「そんな若いうちから薬に頼ってどうすんのさ。楽ばかりしても自分のためにならないよ」


 若い頃に苦労した人は成功するって言われてるもんな。


「俺は心は若くないから……それに楽だけじゃなく、筋トレは続けるしね」


 心はアラサー。

 そろそろ楽を覚えてもいい年だと思う。

 ……苦労をしてきた覚えがないが。


「もぅ……言い訳ばっかり」


 ナビ子が呆れているようではあるが、本当に霊薬を飲むことを止めさせたいわけではなさそうだ。

 もし本当に止めさせたいなら、もっと強く言うと思う。


 そんな話をしながら歩いていると、村の入口が見えてきた。

 入口には中年の男性が立っている。

 この村の門番なのかな?

 いや、村は柵に覆われているだけで門はないから、正式には門番じゃないけど……とりあえず、門番でいいや。

 向こうも俺達に気づいているようだが、腰の剣に手を当てて……何やらこちらを警戒しているように見える。


「おいナビ子。なんだか俺達警戒されてないか?」


「そりゃあラビットAを連れた男なんて、怪しさ抜群でしょ」

「きゅう?」


 俺の中ではラビットAは見た目はかわいいウサギなのだが、考えてみたら1メートル級のウサギは普通じゃない。

 ホブAと同じようにカードに戻していた方が良かったかもしれない。


 まだ視界に入る程度の距離なので、特に何もされてないが、こっちをめっちゃガン見している。

 多分これ以上近づいたら絶対に止められるだろう。


「今からでもラビットAを戻した方がいいかな?」


「それ……余計に怪しまれると思うよ」


 だよなぁ。


「まっ今からUターンしても、逆に不審がられるだけだし、このまま進もうか」


「シュート。ちゃんとあの設定通りに話を進めるんだよ」


「分かってるよ」


 あの設定……ねぇ。

 俺が別の世界からやって来たことは当然のことだが説明できない。

 だが……それじゃあどうする? って話だ。

 何せ俺はこの世界の常識を全く知らない世間知らず。

 おまけに無一文。もちろん金銭価値だって分からない。

 おまけに言語翻訳のスキルが低い今の状態では文字の読み書きすら出来ない。

 

 そんな俺が16年間どうやって生きてきたのか。

 その設定をナビ子が……いや、運営が準備していた。


 ――旅のしおりの1ページ目に。

 ゲームの取り扱い説明書に書いてある簡単なあらすじのように、シュートの生い立ちが書いてあった。

 設定自体はありきたりなものだったけどな。


 ただ……俺が頼れるのはそれしかないのが事実なんだよなぁ。

 はたして上手くいくのかどうか。

 そもそも言語翻訳のスキルがちゃんと機能しているか。

 正直不安でしかない。


 う~ん、あの男性と上手く会話ができるだろうか。

 せめて友好的に見えるようにと、出来るだけにこやかに近づいてみる。


「そこのモンスターを連れている怪しい奴! 止まれっ!!」


 ……全然効果がなかった。


「モンスターを引き連れて笑っていると村を滅ぼすんじゃないかって余計に怪しまれちゃうよ」


 ナビ子よ……そういうことはもっと早く言って欲しい。

 どうやら逆効果だったようだが、相手の言葉がちゃんと分かると分かったのは大きい。

 言語翻訳は無事に作動しているようだ。

 こっちの言葉もちゃんと伝わるかな?


「こんにちは。あの……俺、別に怪しくないです」


 ヤバい。

 緊張していたから変なしゃべり方になった……というか、この言いぐさでは、ますます怪しい気がする。

 案の定、男はますますこちらを訝しむ。


「怪しくないだと? 人のいない山の方からたった一人で……しかもモンスターと妖精を連れている男が怪しくないわけないだろうが!!」


 ああ……実際に言葉にされると怪しさしかなかった。

 そっか、ちゃんと方角も考えないといけなかったな。

 村もなにもない山の方から来た時点でアウトだったか。

 でも、それは設定上仕方のないこと。


「えっと……俺はあそこの山にずっとじいさんと二人で住んでたんです」


 これがその設定だ。

 子どもの頃からずっと一人で山で生活していたは無理がある。

 なので、世捨て人のような……人と関わりを持たないじいさんとずっと暮らしていた。

 じいさんがいたから生活には困らなかったけど、この世界のことや常識には疎い。

 そして先日じいさんが他界して一人になったから、山を下りて冒険の旅に出ることにした。


 うん、ありきたりだが、あってもおかしくない設定だと思う。

 ただ……俺がそう説明すると、門番はひどく驚いた顔をした。


「じいさんって……あのじい様が死んじったのか!?」


「へっ? ええ……まぁ」


 あれっ? おかしいぞ?

 架空のじいさんなのに、何故この人はこんなに驚いているんだ?


 まさか……すごくいやな想像が頭をよぎる。

 もしかして架空じゃないじいさんがいるんじゃ……


「確かに以前、じい様は孫と二人で暮らしているって言ってた。じゃあ君がそのお孫さんなのか?」


 やっぱり架空じゃない!?

 しかも孫までいるだと!?


 ヤバいヤバい。

 あの山に本当にじいさんと孫がいたんだ。

 それなのに俺……死んだことにしちゃったよ。

 幸いなことに、この人は孫の顔は知らないようだ。

 今更違いますとは言えないし……とりあえず誤魔化すしかない。


「ええ、まぁ……貴方はウチのじいさんを知っているんですか?」


「この村でじい様を知らない人はいないさ」


 まさかの有名人!?


「じい様は半年に一回この村にやって来てね。村で採れた野菜と山の恵みを交換してたんだ」


 有名人ってより、山に住んでいる変人ってイメージなのかな?


「あっ、たまにじいさんが仕入れていた野菜って、この村の野菜だったんですか?」


 とりあえず当たり障りのない相槌で誤魔化す。

 もちろん野菜なんて知らない。

 もし、この人が今カマをかけたのだとしたらおしまいだ。

 だけど、俺の看破のスキルが発動してないから嘘ではない。

 ……逆に言えば、じいさんの存在も嘘じゃないってことだ。


 そしてもしこの人が看破のスキルを持っていたら、俺の嘘の方がバレてしまう。

 まぁ現時点ではバレてなさそうだから、看破のスキルは持っていないみたいだけど。

 そもそもスキル妨害も発動してなかった。

 一安心って感じだな。

 後は上手く誤魔化しきれるか……


「それで……じい様が亡くなったというのは本当のことなのか?」


「えっと……はい……」


「なんてことだ……あの殺しても死ななさそうなじい様が……一体どうやって? まさかモンスターに!?」


 殺しても死なないって……じいさんに使う言葉じゃないよな?

 一体どんなじいさんがあの山に住んでいるんだ?

 亡くなった原因か……流石に考えてなかったけど、モンスターとか言ったら、多分大事になりそうな気がする。


「その……老衰で……」


「そっか。前回の訪問ではあと100年は生きそうなくらい元気そうだったのに……流石にあのじい様でも年には勝てなかったか」


 100年て……単なる冗談だろうが、それくらい元気だったってことか。

 ……本当に冗談だよな?

 まさかこの世界の人間は寿命が長いなんてことないよね?


「それで……村には入れてもらえるんでしょうか?」


 これ以上話したらボロが出そうだ。

 さっさと話を終わらせてしまいたい。

 そして、軽く情報を聞いたらさっさとこの村を出てしまおう。


「えっ? ああ、じい様の孫なら大歓迎だよ」


 この人に先程のような警戒心はまったくない。

 じいさん効果……マジですげぇな。

 とりあえず村の中へ入ることは出来そうだ。

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