第47話 山を抜けて
夕食も食べ、今日はここで一晩過ごすことになる。
一応個室で寝るのだが……今までの一軒家と違い、モンスターの襲撃は怖い。
そのため、夜行性モンスターのルナバタフライと、新しく仲間になったダークネスアウルに見張りをお願いした。
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ダークネスアウル
レア度:☆☆
固有スキル:暗視、識別
個別スキル:聴覚強化
フクロウ系のモンスター。
闇夜のハンター。
夜行性で夜でもはっきり見える目でしっかりと獲物を狩る。
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初めての鳥系モンスターだ。
まるでカラスのように真っ黒なフクロウで、夜になると体が闇に紛れる。
そして目だけが光って……ちょっと怖い。
固有スキルは暗視と識別。
暗視はその名の通り、暗いところでも物が見えるようになるスキル。
夜目と似たようなスキルだが、こちらの方が上位スキルらしい。
識別は隠れている物を認識できるスキル。
葉っぱや木陰で見えない場所にいる獲物を見つけることができるそうだ。
個別スキルは聴覚強化は嗅覚強化と同じく感覚が強化されるスキルだ。
残りの五感――視覚や味覚、触覚も強化スキルはあるのかな?
このダークネスアウル。
倒したのはツインホーンラビットが進化したジャッカロープ。
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ジャッカロープ
レア度:☆☆☆
固有スキル:雷の素質、角強化
個別スキル:雷のコツ、帯電
ウサギ系モンスター。
強靭な2本の角を持つ。
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2本角はツインホーンラビットと変わっていないが、その角がトナカイのような大きな角へと変わっている。
体の大きさはツインの頃よりも大きいが、アルミラージ以下。
正直体のサイズと合ってないと思う。
個別スキルは雷のコツ。
ゴブリンメイジは火のコツを持っていたけど、このコツ系スキルはその属性の魔法の威力が上がったり、消費魔力を抑えたり出来るスキルらしい。
ただ、このスキル単体だけでは魔法は使えない。
魔法が使えること前提のスキルだ。
魔法はサンダーを覚えさせたが、スキルレベルが足らないようで唱えられず。
雷属性の星1魔法を手に入れてからじゃないと、スキルレベルが上がらないため、しばらくは使用不可。
せっかくのコツも宝の持ち腐れだ。
ただし、魔法が使えなくても星3モンスターだけあって、それなりに強い。
角強化と帯電だけでもそれなりに戦える。
そのジャッカロープを狩ろうとしたダークネスアウル。
見た目は角がデカいだけのウサギ。
いい獲物だと思ったんだろうなぁ。
そして見事に返り討ちにあっちゃったってわけだ。
そんなダークネスアウル。
そんなに強くはないが、夜の見張りには頼りになるモンスターだ。
俺も夜の状態の命中補正を確認したかったので、ベレッタで野生の夜光蝶を倒した。
どうやら夜でも命中補正の恩恵は受けられたようだ。
この調子で他の夜のモンスターも……と思ったが、見張りの邪魔だからさっさと寝ろとの無言の圧力を感じ、大人しく寝ることにした。
次の朝、目が覚めると、ルナバタフライとダークネスアウルが朝日で辛そうだったので、急いでカードに戻す。
やっぱり陽の光が苦手のようなので、何か対策を考えないとな。
どうやら夜に襲撃はなかったようだが、だからといって今後は見張りを立てない……わけにはいかない。
夜明けとともに俺が目覚め……るのは厳しいな。
う~ん、鳥小屋じゃないけど、とりあえず避難場所でも作っておくか。
朝食を食べたら移動を再開。
昨日と変わらないペースで下山し、何事もなく無事に森を抜ける。
「ふぅ。ようやく抜けたか」
この世界に来て、初めて視界を遮るものがない広々とした空間。
なんか感慨深いものがある。
「はぇ~何もないね」
ナビ子の言う通り、見渡す限りの草原。
その中央に草の生えてない、舗装されてない一本の道が通っている。
この道を進んでいけば村にたどり着くのかな?
「じゃあホブAはしばらくお休みだな」
「ホブゥ~」
ホブAが悲しげに呟くが……うん、全くかわいくない。
少しかわいそうな気もするが、森を出ると人間に出会う可能性がある。
そこでゴブリン……しかも上位種のゴブリンソルジャーを連れているとなると……ねぇ。
なので、ホブAには人目に付きそうな場所ではカードに戻ってもらうことになっていた。
そのため、これからの護衛はラビットAとサイレントビーだけ。
ラビットAなら大きいけど、所詮ウサギなので何とでも言い訳できると思う。
「きゅっきゅきゅっきゅきゅー!」
山を下り始めてからラビットAはずっとご機嫌だ。
久しぶりに俺と一緒に歩けるのが嬉しいみたいだ。
うん、ホブAと違ってかわいい。
「このまま半日くらい歩いていれば、村が見えてくるよ」
「……あと半日も歩くのか」
夜は休んだとはいえ、昨日からずっと歩きづめだ。
そしてようやく山を抜けたのに、まだ半日も歩く必要があるという。
山は障害物が多いので仕方ないが、平地でただひたすら歩くというのは流石にゲンナリする。
せめて乗り物があれば……
「なぁナビ子……次の定例会のお土産は自動車がいいな」
それに歩いて半日の距離なら、信号も渋滞もないこの世界、自動車なら1時間も掛からないだろう。
その上、カード化すればガソリンの消費も気にしなくていいんじゃないか?
思わず言ってしまったけど、かなりいい提案じゃね?
「シュート……何ふざけてること言ってるの?」
だが俺の考えとは逆に、ナビ子のドスの利いた声が響き渡る。
あっこれ、アカンやつや。
「あっいや、ちょっとした冗談のつもりで……」
俺は慌てて言い訳するが……どうやら遅かったようだ。
「自動車なんてお土産に出来るわけないじゃない!! そもそもシュートはちょっと楽をしすぎ……」
ナビ子の中ではファンタジー世界に自動車なんて科学を持ち込むのは以ての外なんだそうだ。
そもそも科学の結晶のような存在が言っても説得力もなにもない。
ただナビ子の腹の虫は収まらないようで……歩きながら俺はナビ子のお説教を聞き続けることになった。




