第119話 巻き込んだ理由
「……どうしよう」
本当にどうしよう。
俺は頭を抱える。
始まりはケフィアから貰ったミスリル。
「ミスリルと言えばやっぱ剣だろ」
「何言ってんだい! 杖を作るって言ってじゃないか」
「杖はさっきので十分だろ!」
「剣なんか作ってもシュートじゃ使いこなせないだろう? 宝の持ち腐れだよ!」
「それは杖でも一緒だ!」
「……アンタ。それを自分で言うのかい?」
「ほっとけ。コレクションにするだけで満足なんだよ」
「きゅうう……どっちでもいーもー」
「そりゃラビットAは剣でも杖でもどっちでもいいだろうけど……別にラビットAの物になるって決まったわけじゃないぞ」
「きゅぴえ!? どーして!?」
こんな風に最初は一つしかない貴重なミスリルを使って何を作るか激論を繰り広げていた。
だが、ミスリルのカードを確認しているとあることに気づく。
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ミスリル
銀×魔水晶
――――
ミスリルをカードにしたことで表示されたミスリルのレシピ。
――これ、量産できるんじゃね?
「なぁケフィア。銀と魔水晶でミスリルが作れるっぽいんだが……銀なら用意できるか?」
「銀なら用意できる……けど、魔水晶の在庫はないよ」
「大丈夫。魔水晶なら俺が持ってる」
「すぐに用意するよ」
そして用意された銀と魔水晶でミスリルを量産。
これで歯止めが利かなくなった。
なにせミスリルが自由に使えるうえに、叡智スキルで図鑑説明文では分かりにくい使い方を知ることが出来るケフィアがいる。
となれば……剣だろうが杖だろうが他にも色々と試すよね。
ついでにお土産用のアクセサリーも作っちゃったりさ。
真珠じゃなくてもミスリルや海竜石を使えば良質なアクセサリーが
・エルブンボウ レア度:☆☆☆☆
・エルブンダガー レア度:☆☆☆☆
・エルブンロッド レア度:☆☆☆☆
・森羅万象の杖 レア度:☆☆☆☆☆
・フォースブレイド レア度:☆☆☆☆☆
・神殺しの短剣 レア度:☆☆☆☆☆☆
・生命のブローチ レア度:☆☆☆☆☆
・魔力のリング レア度:☆☆☆☆☆
・吸収のブレスレット レア度:☆☆☆☆☆
・海竜のイヤリング レア度:☆☆☆☆☆
・神竜のネックレス レア度:☆☆☆☆☆☆
普通にミスリルソードやミスリルスピアなんかも作ったが、完成品の中でもヤバそうなのが目の前に並んだこれらの品。
星5どころか星6まであるし。
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神殺しの短剣【武器】レア度:☆☆☆☆☆☆
神を滅する事の出来る短剣。
全ての属性に適性があり、刀身に魔力を宿すことにより、相手に最も適した属性で攻撃する。
宿した魔力量で威力が変わる。
武器に認められた者しか、真の力を発揮することは出来ない。
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まさかの神殺しシリーズである。
「きゅへへぇ。シュートありがとー!」
神殺しの短剣を抱きかかえて満面の笑みのラビットA。
うん。かわいい。
元素材にラビットAのボーパルソードを使用したためか、名前が示す通り完全にラビットA専用武器であるようだ。
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神竜のネックレス【装飾品】レア度:☆☆☆☆☆☆
神が遣わした竜が素材のアクセサリー。
装着することで神竜の加護を得る。
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もう一つの星6が神竜のネックレス。
海底でラビットAが集めてくれたパラディオンの鱗を使ったのだが……図鑑説明文じゃさっぱり分からん。
ちなみにケフィアに確認してもらったが、ケフィアでも何もわからなかった。
多分星6だからだろうな。
それにしても……結果は大満足だが、流石にこれはやり過ぎた。
もしこれがナビ子に見つかったら……『またアタイの居ない間に合成して!!』と激怒することだろう。
でも、それだけならまだ頭を抱える必要はない。
大人しくナビ子キックを食らうだけ。
それ以上に頭を抱える問題が……俺を天国から地獄へと引きずり落とす。
俺は窓の外を見る。
うん。おかしいよね。
外がさ……明るいんだ。
ここでまだ全然時間が経ってないじゃないと楽観視は流石の俺でも出来ない。
「まさか……丸一日経ってるなんて……」
最初は夕方に帰るつもりだった。
夕飯前に帰ればナビ子やアズリアにバレることはないだろうから。
でも……予想以上に盛り上がったせいで予定よりも遅くなった自覚はあった。
それでも夜だと思っていた。
そして晩飯に間に合わない程度なら、ちょっと外の空気を吸っていたとかいくらでも誤魔化せると思っていた。
だけど……無断外泊は無理。
どんな言い訳も通用しないだろう。
……絶望しかない。
俺は頭を抱える。
さっきまでの高揚感は一切なくなっていた。
下手したら俺に連絡しようと何度も通信機に呼びかけたかもしれない。
……怖くて図鑑から取り出せないけど。
……これも全部ケフィアのせいだ。
ケフィアがミスリルなんか持ってくるから……と責任転嫁したいところだけど、そもそもケフィアに会いに来たことを内緒にしているので、ケフィアを言い訳にも出来ないわけだが。
そのケフィアはどうしているかと言えば……俺の横で、俺とは別の理由で頭を抱えていた。
頭を抱えている原因は俺のせいだけど。
ケフィアにはパラディオンの鱗を見せたついでに海底であったことを全部ぶっちゃけた。
神のことも……邪神のことも全部だ。
そしたら頭を抱えた。
そりゃあこの世界が邪神に狙われていて滅ぼされるかもとか聞かされたら頭も抱えるよね。
「アンタ……なんちゅうことを聞かせてくれるんだい」
「いやぁ。俺たちだけで抱え込むのもなんだかなぁと思って。せっかくだから巻き込もうと」
「だからってアタシを巻き込むんじゃない!」
「いやいや。ケフィアを選んだのには、ちゃんとした理由があるんだって」
「どんな理由だい?」
「頼りになる知り合いがケフィアしか居なかったんだ」
「それはアンタがボッチなだけじゃないか!!」
「ほっとけ」
自分で言っておいて何だが、改めてボッチと言われると凹むものがある。
ただまぁケフィアを選んだ理由はそれだけじゃない。
それはケフィアがダークエルフだから。
頼りになるギルマスなら、ライラネートのギルマスでも良かったが、エルフの知り合いとなると……ケフィア以外だとライラネートに住んでいる薬師のミランダ婆さんしかいない。
ならギルマスでもありエルフでもあるケフィアを頼るのが一番だと思った。
「はぁ。聞いた以上、無視することはできないね」
そうそう。
ケフィアには協力者としてギルマスの権限とエルフの伝手を駆使してもらわなくちゃ。
「で、アタシはアリアって娘を見つけだしゃいいのかい?」
「ああ。頼めるか?」
「冒険者登録されてりゃ楽なんだが……まっ。やってみるさね」
おおっ流石ギルマス。頼りになる。
冒険者情報って犯罪者になった場合などを除き基本は閲覧禁止。
だけど、ギルマスなら適当な理由をでっち上げれば確認できると。
閲覧履歴なんかは残らないみたいだしね。
「さっ。じゃあアタシは職員に仕事サボりの言い訳に行くから……アンタもさっさと帰りな」
……やっぱり帰らなくちゃ駄目なのか。
このまま失踪しちゃ駄目?
駄目だよね。
――よし!
俺は覚悟を決め、鬼の待つ地獄へと帰還することにした。




