第117話 正しい真珠の使い道
無事ケフィアの協力を得て真珠を使ったお土産作りへ。
「じゃあ方向性から決めないといけないね」
「……方向性?」
「この真珠をこのまま使うのか、砕いて使うのかって話だよ」
「ああ……そういう」
この玉手貝の真珠を一番生かせる方法は、当然だけど砕かずにこのままの状態だろう。
砕いて欠片をペンダントやイヤリングにしたところで、この真珠の特徴でもある魔力伝導率は半減以下になる。
唯一砕いても活かせるとしたら、薬の材料にすること。
正直、真珠を薬の材料ってのはイメージ沸かないが、不老不死の材料なのは間違いない。
……残念ながら不老不死の材料は真珠しかないから不老不死の薬は作れないけど。
そもそも不老不死になんてなりたくないし、変な諍いを生むだけだから欲しくもない。
……コレクション登録はしたいけどさ。
ただ不老不死の薬じゃなくても、その材料となるなら、それに匹敵する薬が作れるかもしれない。
少なくとも俺が作っているハイポーションよりも効果の有りそうな……それこそエリクサーが作れたりさ。
「可能なら薬なんかじゃなく、普段から身につけられるような物に出来ればいいんだけど……」
それが俺の結論。
仮にエリクサーが作れたとしても、いつ使うか分からない消耗品よりは、普段遣いできる物の方がいい。
「アンタは装飾品にしたいようだけど、この大きさの真珠を身につけるのは難しいと思うがね」
「だよなぁ」
「そこでだ。武器なんてどうだい?」
「武器?」
なるほど。
装飾品じゃなくて武器の方か。
俺の合成した量産型魔剣にはないが、一般的な量産型魔剣は柄頭の部分に原動力の魔石かそれに変わる石や水晶が埋め込まれている。
あまり真珠は使われないと思うが、魔力伝導率の高い玉手貝の真珠なら、かなり強力な魔剣が作れそう。
……魔剣がお土産になるか分からんけど。
あ~でもナイフなら手頃な大きさだし、護身用にもなるかも。
「じゃあナイフを……」
「ナイフ? アタシが思うに、この真珠を最も活かす事ができるのは、杖じゃないかと思うんだが……どうだい?」
「きゅぴっ!? 杖?」
杖と聞いて反応するラビットA。
ふむ……杖か……。
確かに杖もありかも。
増幅した魔法が撃てそうだ。
「きゅぅぅ。シュートぉ。あたらしー杖ほしーなー」
上目遣いで俺を見つめるラビットA。
うん。かわいい。
……ったく。どこでそんな技を身に付けたのか。
「よし、じゃあ杖にするか」
「きゅい! きゅート。だいすきー」
うん。かわいい。
別にラビットAのお土産を作りに来たわけじゃないんだけど……まぁ方向性は見えたし、杖を作った後にナイフを作ればいいか。
そういうわけで杖を作ることに。
どうせ作るなら、星5の杖を目指そうと思う。
となれば他の素材も吟味しなくては。
こういった時、普段はナビ子に相談するのだが、あいにく今は不在。
まぁナビ子よりも優秀そうな相談相手なら眼の前にいるけど。
「ケフィアさん。この真珠に相応しい杖の素材って何かな?」
「そりゃその真珠に負けないくらいの魔力伝導率の高い素材さ」
「……それが何なのか聞いてるんだけど」
「魔力伝導率の高けりゃ木製だろうが金属製だろうが、骨だって構わないさ」
「骨て……」
「高ランクモンスターの骨は杖の素材としちゃ申し分ないよ」
そりゃ……ねぇ。
実際に見たことはないけどゲームではドクロの杖とかあったし、モンスターの骨なら素材としちゃ十分だろうけど。
「アンタ、高ランクモンスターの骨は持ってないのかい?」
「持ってないことはないけど……」
まだ分解してないけど、巨大モンスター海域で戦ったシードラゴンやシードレイクの骨がある。
後は……まだ分解していないパラディオンの腕とか。
これらを分解してないのには理由がある。
カード分解は簡単に分解できるというメリットがあるが、逆に全部の素材が手に入らないっていうデメリットもある。
例えばシードラゴンを分解したら、魔石と肉と皮と鱗みたいな。
しかも肉はブロックの塊でとか、鱗だって全部が一枚一枚手に入るわけでもない。
だからゴブリンや昆虫など大量に手に入ったカードや、ギガントなど素材になる部分が少ないモンスターなら有用だけど、今回のように大型モンスターに関しては分解せずに自分で解体したほうがお得ってわけだ。
だから持ってるけど持ってない状態だ。
まぁ骨で合成したら、それこそ見た目がドクロの杖になりそうで嫌だけど。
ってことで、骨は却下。
金属は……量産型魔剣用のありふれた物しか持ってない。
石なら色んな種類があるんだけどね。
そして木製だが……これは良いものがある。
――――
アンブロシアの枝【植物】レア度:☆☆☆☆
アンブロシアの枝。
非常に高い魔力を有しているため、あらゆる素材として重宝される。
――――
毎度おなじみアンブロシアの枝を取り出す。
「あ、アンタ……それ……」
ケフィアが目を見開いて驚く。
「アンブロシアの枝だけど……」
「そりゃ見りゃ分かるよ!?」
……スゲーな。見てわかるんだ。
玉手貝の真珠も見ただけで価値が分かってたし、ケフィアもアズリア並の鑑定系スキルを持っているようだ。
「これなら高い魔力を有しているし、素材として問題ないだろ?」
実際、アンブロシアの枝で杖を作ったこともある。
――――
ラビットステッキ【武器】レア度:☆☆☆☆☆
幸運の魔法のステッキ。
魔法の威力が大幅に上昇する。
また、持っているだけで、魔力の自然回復量が上がる。
幸運率が大幅アップ。
様々な恩恵が得られる。
――――
ラビットAの最初の武器であるラビットステッキ。
幸運はもう一つの素材であるウサギのしっぽの効果だが、魔法の威力上昇と魔力の自然回復はアンブロシアの枝の効果だろう。
「アンタがどこでアンブロシアの枝を手に入れたか知らないが……またとんでもない物を隠し持ってたね」
俺の中では有り触れた物だけど、やはり一般的には滅茶苦茶貴重だというのが分かる。
流石に近所に生えてるとは言えないよなぁ。
さて、杖の素材はこれで十分として。
複数枚合成の枠は残り3枚。
……ふ~む。
玉手貝の真珠は不老不死の素材だから回復系だとして、アンブロシアは魔力回復系。
なら……回復系魔法を余った枠につぎ込めば、回復系に特化した杖が出来るんじゃ?
「よし、物は試しだ」
どうせ真珠はまだまだある。
アンブロシアの枝は……まぁまた取りに行けばいいし。
し、とりあえず思いつきで一回合成してみよう。
俺は取り出した真珠とアンブロシアの枝をカードに戻し、それから適当に上位の回復魔法を3枚ほど選んで一緒に合成する。
――――
エリクシルの杖【武器】レア度:☆☆☆☆☆
あらゆる怪我と病気を癒す杖。
魔力を流すことで、素質がなくてもあらゆる回復魔法を使用することが出来る。
杖の限界を超えて魔力を流すことで、死者すら蘇生できる可能性がある。
――――
「なんかヤバいのできたー!!!」
「うわっなんだい!?」
ヤバすぎる性能に、ケフィアのことも忘れて思わず立ち上がる。
「いや、試しに合成で杖を作ってみたんだけど……」
「はっ? 合成?」
「そう。カード化の能力で、カード同士を合成させて新しいカードを生み出すことが出来るんだ」
ケフィアには合成の能力は教えてなかったので簡単に説明する。
「まったく……本当にふざけたスキルだよ」
俺の説明を聞いたケフィアが頭を抱える。
合成ってカード化のレベル2で初期能力だけど、能力の中では一番のチート能力。
頭を抱えるのも無理はない。
「今までずっと隠してたのも分かるだろ?」
「……そんな大事な能力をアタシに教えて良かったのかい?」
別にケフィアに教えたか忘れていたわけでも、いつものノリで思わず……でもない。
「ああ。今日は全部教える覚悟で来てたし」
そう。
今日は最初からケフィアには全て教えるつもりでやって来た。
だけど……今は杖の方に集中させてくれ。




