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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第9章 つかの間の休息
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第116話 ケフィアへのお願い

 ギルド職員に案内されてギルマスの部屋に通される。

 中に入るとデスクに積まれた書類と睨めっこしている見た目20代後半のダークエルフの女性。

 実年齢は知らないが、以前はライラネートのギルマスとパーティーを組んでたって話だから、少なくとも……うん。これ以上はやめとこう。


「すまないね。もう少しで終わるから、そこで待っててくれないか」


 ケフィアは仕事中のようで書類に目を通しながら言う。


「いえ。アポ無しで押し掛けたのはこっちですから……ってか、出直しましょうか?」


 流石に急ぎの仕事中に邪魔するような用事でもない。

 肉食ったり観光したりして暇つぶしは出来るしね。


「あとここにある分に目を通したら終わりだから……よし。問題ないね」


 ケフィアはそう言って読んでた書類に判を押す。

 どうやらそれで一区切り付けるようだ。


「さて、久しぶりだね。元気してたかい?」

「ええ。おかげさまで……」

「なんだいそりゃ。はっきりしないねえ」


 ほぼ条件反射で答えてしまったが、こういう返しをしてしまうところに、元日本人だったんだなぁと感じる。


「それで今日はどうしたんだい? 確かアンタ今アクアパッツァに居るはずだよね?」

「……アクアパッツァに居ることは知ってるんだ」

「ああ。あの馬鹿が海竜石が手に入るかもと自慢していたよ」


 あの馬鹿ってのはギルマスのことだろう。

 ったく……冒険者ギルドの個人情報はどうなってるんだって話だ。


「まぁアクアパッツァからどうやってここに来たのかは聞かないよ」

「きゅう?」


 そう言いつつもケフィアは俺の隣でちょこんと座っているラビットAを見る。

 俺が上級試験を受けた時にケフィアとラビットAは顔を合わせている。

 ただラビットAが戦っている姿は見せていないが……まぁそれもギルマス経由で知られているんだろう。


「聞いてるよ。アクアパッツァでも色々とやらかしてるそうじゃないか」

「……何のことでしょう? 俺は観光しかしてないですよ」

「確かアクアパッツァとたこ焼き……だったかね。アンタとファーレン商会が流行らせてんだろ?」

「へっ?」

「街の名前と同じ名を料理名にすることで町おこしの一環にしようとは……考えたもんだね」


 なんだ。そっちか。

 てっきり海底事件がバレてるかと思った。

 そんなわけないのにね。

 海底のことはアクアパッツァにいるアズリアにしか説明していない。

 だからギルマスも……アザレアすら知らないことをケフィアが知っているわけがない。


 ケフィアが言ってるのはアズリアがやってる商談のこと。

 アズリアは商談で提示したのはアクアパッツァとたこ焼きのレシピ。


 何故この2つなのか……ひとつはケフィアの言った街の名前と同じ料理にすることで、街の名物にするため。

 そしてたこ焼きの方は……専用のたこ焼き器が必要だから。


 レシピ、機材、そして調味料で儲けるつもりだったというわけだ。


 そして……何のことはない。

 例のアズリアの修羅場ってのは、この料理のプレゼン中だったらしい。

 プレゼンってのは料理するところから始まる……ってことで、ティータには不可視状態で手伝ってもらっていたと。

 アズリアの料理する姿は、商談相手には恐ろしく手際の良く見えたことだろう。

 だがその途中でティータが居なくなると……確かに修羅場には違いない。

 幸いティータが居なくなっても料理が失敗することはなく、プレゼンは大成功。


 今は街中にアクアパッツァとたこ焼きを広めるために大忙しってわけだ。

 ……まぁそのお陰で俺は毎日のようにアクアパッツァとたこ焼きを食べさせられて海産物に飽きたんだけど。


 冒険者ギルドのギルマスは黒電話型の通信機を持ってるから、それを使ってアクアパッツァの現状を聞いたんだろうなぁ。


「……食べたいならあるけど?」


 俺はアクアパッツァとたこ焼きのカードを取り出す。


「カード化スキル……はぁ。相変わらず便利なスキルだよ」


 ケフィアはカード化スキルのことは知っている。

 魔法をカードに入れてもらいお世話になったこともある。

 ただ詳細な説明やカードマスターのことは教えてないけど。


「じゃあお昼を食べながらアンタの話を聞こうかね」


 別に深刻な話じゃないから食べながらでいいけど……。


「俺は肉で頼む」

「きゅい! にんじーん」

「……いま用意させるよ」


 ここでもアクアパッツァを食べるなんて絶対にごめんだ。



 ****


「あーはっはっは」


 大爆笑である。

 目に涙を浮かべながらの大爆笑である。


「きゅぷぷ……」


 挙げ句、何も聞かされてなかったラビットAまで笑ってるし。


「そこまで笑うことはないだろ」


 そりゃこんな相談したら笑われるのは覚悟してたけど……ここまで笑われると流石に不快だ。


「すまないね……けどアンタ……わざわざ来るからどんな大事かと思えば、まさかこんな……ゴホッゴホッ」


 笑いすぎて咽るケフィア。

 ったく。

 こっちは恥ずかしいのを我慢して相談したってのに……相談する人選を間違えたか?

 でも……他に頼る人はいなんだよなぁ。


「まさか女に贈るプレゼントの相談を受けるなんて思わないじゃないか」

「プレゼントじゃなくお土産な」

「どっちも一緒じゃないか」


 心情的には全然違うっての。

 それに女性だけじゃなく、ガロンもいるし。

 ……まぁガロンには海底で拾った石を与えればいいんだけどさ。


 俺がケフィアに相談したのはアザレアたちへのお土産。

 そのお土産をどうしよう……って相談したら爆笑された。


「きゅート。にんじんがいーともー」

「うん。ラビットAにはにんじんをやるよ」

「きゅい!」


 でも残念ながら他の人はにんじんで……ってわけにはいかない。


「ってか、土産自体はすでに決まってるんだ」

「なんだい。既に決まってるのかい。ならそれを贈りゃいいだろうに」

「そのまま贈れないから相談なんだよ」


 ったく。

 爆笑するなら最後まで聞いてほしいもんだ。


 俺は土産にしようと思っているカードを一枚取り出して解放(リリース)する。


 テーブルの上に現れたのは野球ボールより一回り大きい……真珠。


「アンタ……これ……」


 さっきまでの爆笑はどこへやら。

 ケフィアが驚きのあまり目を見開く。


「海底で見つけた……玉手貝ってモンスターの真珠だ」


 そう。

 お土産は海底で手に入れた玉手貝の真珠だ。


 ――――

 玉手貝の真珠【宝石】レア度:☆☆☆☆


 玉手貝の真珠。

 不老長寿の秘薬の材料となる。

 ――――


 アズリアから出発前に大きめの真珠をお土産に……って言われてたし、海底で玉手貝の群生地を見つけ、鈴風とラビットAが全滅させたから、50個以上の真珠がある。

 だからアザレアやサナにも丁度いいと思っていた。


 ……まぁその群生地はネレイドが養殖していたわけだけど。


 最初は内緒にしたまま帰るつもりだったが、やはり罪悪感に負け、帰る前にネレイドの女王エライネには正直に話した。

 女王には若干引かれたけど、問題ないと言ってくれた。

 どうやら今回のように全滅してもいいように、何箇所かで養殖をしているらしいので、1ヶ所なくなっても生活には困らないとのこと。

 なので遠慮なく貰って帰ることにしたのだ。


 問題はこの真珠をどうやって渡すかってこと。

 何もせずにそのまま渡すのも芸はない……というか、野球ボールよりデカい真珠をそのまま渡されても相手が困る。

 かといって加工して渡すにしても……普通の真珠ってイヤリングやネックレスにするが、こんなのをイヤリングにしたら耳が千切れる。


「ってことで、ケフィアさんならいい加工を思いつかないかな~って思ってさ」


 俺の勝手な思い込みだけど、エルフって細工とか得意そうだし。

 ……ケフィアはダークエルフだけど。

 まぁ身内以外で女性の知り合いってケフィアしか居なかったってのもあるけどさ。

 そんなケフィアは俺を見てため息一つ。


「はぁ……アンタはこれがどれほどの価値を持っているか分かってるかい?」

「一応は」


 図鑑の説明文には不老長寿の秘薬の材料と書いてあるし。

 それに……どうやら玉手貝の真珠はそれ以外にも色々と使い道があるのが判明している。

 その辺りも女王から聞いてきた。

 玉手貝の真珠は魔力の伝導率が非常によく、様々な魔道具の材料となるらしい。


 例えばネレイドたちが住む海底楽園。

 洞窟にも関わらず、楽園内は明るかったが……それは玉手貝の真珠が疑似太陽として洞窟中を照らしていたから。

 それから楽園中にエアーポンプのような水疱があったが、それも真珠が原動力になっていたそう。

 他にもネレイドたちの生活には欠かせない海を織る道具にも使われたりとその使用方法は多岐にわたる。


「呆れた……分かってて旅の土産にしようとしてるのかい」

「まぁいっぱいあるし」


 俺は解放(リリース)せずに真珠のカードを広げて見せる。


「相談に乗ってくれたらお礼に一枚渡してもいいけどなぁ」

「このアタシにどんと任せな!」


 ……うん。

 現金なのは嫌いじゃないよ。

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