第115話 内緒のお出かけ
「シュート。じゃあ今日もアタイはお出かけしてくるね」
「きゅっきゅいー!」
「おう。いってらー」
ラビットAがナビ子を連れて無人島へテレポートする。
俺自身は引き籠もってカード整理に勤しんでいるが、俺以外はそうではない。
俺が海底に行っていた時同様、メーブとホブAがリーダーになってアクアパッツァ近辺や無人島の探索を続けている。
更に今はセレンが海中で動ける仲間を連れて無人島近海を探索。
ナビ子は最初こそ俺のカード整理に付き合っていたのだが、『何で旅先で引き籠もってなくちゃいけないのよ!』と言い出してここ数日は誰かのところに付き添っている。
まぁ合成をして新たな仲間を増やすならともかく、やってることは戦利品のカードの分解と仕分けだけ。
しかもメーブたちお陰で今も毎日モンスターの素材や魔石が手に入るから、カード整理が一向に終わらない。
俺にとってはコレクションが増え続けるから楽しいけど、コレクターじゃないナビ子が飽きるのも無理はない。
ナビ子一人で出かけるとなると色々と心配だが、メーブやホブAが一緒にいるから不安はないので自由にすればいいと思う。
さてと。
ナビ子たちは無人島に出掛けて、アズリアも商談に行っている。
俺はいつものように引き籠もってカード整理……と、二人も思っていることだろう。
しかし……今日だけは違うのだよ。
「きゅいっ。シュート。ただまー」
「おう。おかえり」
ナビ子たちをテレポートで送ったラビットAが戻ってきた。
実は今日ナビ子たちを送った後、ラビットAには戻ってくるように言ってあった。
「ラビットA。ナビ子たちに悟られてないよな?」
「きゅい! ぬくぬくするー言ってきたー」
ラビットAはホブAたちと無人島探索する日もあれば、庭で日向ぼっこする日もありと、ナビ子同様、自由に過ごしていた。
今日も日向ぼっこすると言って帰ってきたのであれば、バレることもないだろう。
「じゃあ早速出発しようか」
「きゅい! 秘密のおでかけー!」
そう、ナビ子とアズリアの二人には内緒の秘密のお出かけへ。
俺とラビットAは出発した。
「きゅっきゅいー! とーちゃく!」
「ああうん。ご苦労さま」
まぁ一瞬で目的地に到着するわけだが。
以前のラビットAなら遠距離だと中継地点を挟んで何度かテレポートをする必要があったが、まさか一度のテレポートで到着するとは。
ラビットAのテレポートはやっぱりチートだと思う。
いや、海には潜れるは、女の子になれるは、創造魔法で何でもできるはでラビットAの存在そのものがチートだな。
というわけで、やってきたのは今や懐かしきブルームの街。
ライラネートに帰る前に、かつ出来るだけ誰にも知られずにこの街に来たかったのだが……まさか機会があるとは。
「きゅう? さっそくお肉たべるー?」
「……別に肉を食べに来たわけじゃないから」
「きゅい! じゃーやっぱにんじん?」
何がやっぱりなのか分からないが、当然ながら肉やにんじんのためにわざわざこの街へ来たわけではない。
……もちろん後で食べるけど。
「用事が済んだらにんじんを買って帰ろうな」
「きゅい!」
手伝ってくれたラビットAには後でにんじんを買ってやることにして、先にようにを済ませることにした。
****
向かった先は冒険者ギルド。
ここのギルマスであるケフィアを呼び出してもらう。
「……恐れ入りますが、お約束をいただいておりますでしょうか?」
「いや、ないけど……」
「申し訳ございませんが、お約束がなければギルドマスターにお繋ぎすることはできません」
ああ、うん。
ライラネートでは顔パスでギルマスに会えるから忘れてたけど、一介の……しかも余所者の冒険者がアポ無しで会わせろと言ったって会わせてくれるわけないよなぁ。
「大丈夫大丈夫。約束はないけどケフィアさんとは知り合いなんで。ライラネートのシュートって言えば、多分会うと思うんで聞くだけ聞いてもらえない?」
「はぁ?」
訝しる職員に対して冒険者カードを見せる。
「っ!? しょ、少々お待ち下さい」
そう言って慌てて奥へと引っ込む職員。
俺は改めて冒険者カードを見る。
先日の海底での経験もあって表示されているレベルは40。
流石にこのレベルだと一介の冒険者扱いはされないようだ。
「きゅート。最初から見せればいーのに」
「見せずに済んだらそっちの方がいいと思ったんだよ」
基本的に冒険者は長期滞在するギルドに報告する義務がある。
今回は日帰りで拠点変更する必要はないのだが……問題は今の俺の滞在拠点がアクアパッツァになっていることだ。
最初に見せてカード確認とかされてみろ。
あんな遠くからどうやって……とか、変な詮索をされかねない。
そして何より履歴とか残って今回のお出かけの証拠を残したくなかった。
とりあえず対応した職員は驚いてギルマスに確認に行ったので、今回は変な詮索はされずに済みそうだ。
……ギルド職員の噂にはなりそうだけど。
「おっお待たせしました。ギルドマスターがお待ちです」
うん。ケフィアなら会ってくれるって思ったよ。
あとは……俺のお願いを聞いてくれるかどうか。
……めちゃくちゃ笑われそうだなぁ。




