第114話 あれから一週間
お待たせしました。
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「肉が食べたい」
「はぁ?」
俺の唐突の呟きに対して、ナビ子がこいつ何言ってんのって顔をする。
「俺は今、無性に肉が食いたい」
「何故も一度言うし。お肉が食べたいなら、食べればいいじゃない」
「それが出来ないから苦悩してるんじゃないか。肉のカードがないんだよ」
「えっ? お肉のカードないの?」
「完全にゼロってわけじゃないけど……残ってるのはレアな肉しかなくて」
「ああ、この間のドラゴンの腕とか?」
「……まぁそういうことだな」
俺的にはパラディオンの腕は食い物としては認めてないけど。
だって食べたら絶対に変な効果がありそうだし。
ただ他の肉も似たようにレアなモンスターの肉で在庫が乏しいものしか残っていない。
コレクション的な意味でもただ肉が食べたいって欲望なだけで消費してはいけないものだ。
「この際ステーキなんて贅沢は言わないから……牛丼でいい。ああ、牛丼が食べたい」
日本に居た頃によく行ってた牛丼チェーン店。
アツアツご飯に牛肉とタマネギがつゆだくでさ、更に紅生姜と七味たっぷりかけたジャンキーな牛丼。
ああ、考えただけで涎が出そうになる。
「くそっ。こんなことなら、ちゃんと肉を準備してくるんだった」
「元々魚介を食べるつもりだったもんね」
「そうなんだよなぁ……」
俺はがっくしと項垂れる。
魚介を目指しての旅行だったので、ライラネートに残ったアザレアたち用にと食料を置いてきたのが響くとは思いもしなかった。
あの海底神殿の一件から帰還して一週間。
俺たちは未だに港町アクアパッツァに滞在していた。
理由は単純明快。
アズリアの商談がまだ終わっていないからだ。
俺たちが海底で過ごした期間は一週間も経っていないから、商談が終わってないのも無理はない。
それからティータを呼び出したことに関してはお咎めなし。
どうやらティータからは海の中で強敵と戦っていたからだと説明を受けていたようで、逆に心配されたくらいだ。
アズリアが開口一番『お早いお帰りで』と言ったのも皮肉でも怒っていたわけでもなく本音だったってことだ。
そういうわけでアズリアの商談が終わるまではこの街に滞在することにした。
ただ待っている間ずっと引きこもっていると申し訳ない気持ちになるから、アズリアを手伝おうとも思ったのだが……俺は商売のことはからっきし。
精々護衛や荷物持ちくらいしか出来ない。
一応それも提案してみたのだが、不要だと断られた。
そりゃ護衛はティータがいるし、荷物だってカード化でどうにでもなるから必要ないだろうけど。
遠慮ってより邪魔だから断ったって感じがするのがなんとも……。
しかしならば、手伝わなくていいんだったら、この期間を利用して帝都に行くのはどうだろうか。
パラディオンから聞いた女神が授けた邪神対策のひとつであるアリアの情報を得るためだ。
今のところアリアに関して居場所、年齢、種族など全く情報がない。
アリアって名前で勝手に女性だと思っているが、男性の可能性だってある。
そんな中、唯一分かっていることは帝都美術館にアリアの絵画が展示されているということ。
だから帝都美術館に行けば何か分からないかと。
居場所が分かるのが一番だが、あの絵画をいつ手に入れたのか、アリアの年齢や外見などどんな些細なことでもいいから情報が欲しい。
だからアズリアを待っている間、丁度いいと思っていたのだが……その提案は鈴風に却下された。
『帝都にはわたくしが行きますから、シュートは大人しくこの街で待ってなさい』
だとさ。
どうやら鈴風はこれからも俺たちと行動を共にするようで、ライラネートへ拠点を移すことにしたそうだ。
その為に、経営していた居酒屋などの引き継ぎや、カード化スキルでスタート地点の一軒家の回収もするつもりだそうだ。
だからついでに美術館で話を聞いてくれるとのこと。
そりゃ俺が話を聞きに行くより、闘技場の覇者で帝都の英雄だった鈴風が話を聞いた方が相手もちゃんと話してくれそうだから、それに関しては感謝しかないけど。
それなら別に俺が一緒に帝都に行ってもいいだろうに。
『邪魔だから結構です』と、にべもなく断られた。
遠回しに邪魔と言われるのも凹むが、正面から邪魔と言われるのも凹むよな。
まぁ鈴風の邪魔だって気持ちは俺だってよく分かる。
この海底で鈴風が新たに手に入れた武芸マスターのスキルと俺が合成した神殺しの薙刀を誰もいない場所でじっくりと試したいからに違いない。
ってことで、俺は誰の邪魔にもならないように、この一週間引き籠もって海底で得た戦利品の整理に勤しんでいたわけだが。
「まさか魚介に飽きるとはなぁ」
果たして後何日この街に滞在することになるのやら。




