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第112話 3つの希望

 パラディオンの案内で辿り着いた場所は神殿の最奥。


 神殿の奥には一層大きな女神像。

 大きい以外は道中に並んでいた女神像と姿形は同じだが……なんだろう。


「この女神像……なんか凄いな」

「うん。よく分かんないけど、アタイ、なんだか泣けてきちゃう」


 そんなこと言ってるけど、本当に泣いてはいない。

 まぁそれくらいこの女神像には感動するってことなんだが……芸術にはとんと疎い俺やナビ子ですらこれほど感動を覚えるとは。

 うん。この女神像には他の女神像にはない威厳というか神々しさを感じる。


「涙か……さもありなん。こちらは我が神がこの世界に降臨する際の依代なのだからな」

「依代って……えっ? この世界の創造神ってこんなに大きいの!?」

「……アンタ。気にするところはそこなの?」

「いやだって気になるだろ」


 道中の女神像は2、3メートル位だったけど、目の前の女神像は軽く見積もっても5、6メートルはあるぞ。


「……大きさに関しては降臨時に調整すると思われるぞ」


 俺がそんな疑問を持ったことが予想外だったのか、パラディオンも少し呆れ気味に答える。

 でも俺のイメージとはかけ離れていたんだから仕方ないだろ。

 まぁ降臨したらサイズ調整も出来るみたいだし、大きさに関してはあまり関係ないのかな。


「そういえば道中の女神像は? あれも依代なの?」

「否。あれは我が暇にあかせて作った唯の彫像だ」


 ……まぁこんなところに何万年もいたら暇だろうけどさ。

 意外とおちゃめな一面もあるんだな。


 パラディオンもこの女神像が見せたかったようで、ここで本題に入ることに。

 ちなみにこの場にいるのは俺とナビ子、鈴風とムサシ……は姿を表さないが、おそらく鈴風の髪にでも隠れているのだろう。

 それとパラディオンだけ。


 一緒に付いてくるかと思った女王は神殿の外で待機。

 俺たちの会話の邪魔をしたくないってことらしいが……女王も今日の話は殆ど知らなかったから十分情報過多状態。

 これ以上聞きたくないってのが本音だろう。

 うん。気持はよく分かる。


 女王が外で待機ってことで、必然的に護衛のセレンも同じく待機。

 セレン自身は俺の側に居たかったようだが……正直、飛行型のセレンは煩いから外に居てくれた方が有り難い。


 そして絶対に付いてくると思っていたラビットAも外でお留守番。

 まぁばたんきゅー状態で動きたくないだろうし、そもそもラビットAが小難しい話を聞いてもねぇ。

 にしても……休憩くらいカードに戻ってもいいと思うのだが、何故かカードに戻るのは頑なに拒んだ。

 多分、今回の旅が終わるまでは戻るつもりはないんだろうなぁ。


 ってことで、少人数で話し合い。

 本当に邪神と戦うことになった今、聞くことはたくさんある。


「とりあえず邪神のことを教えてくれ」


 俺がそう言って切り出すとパラディオンが少し思案顔をして答える。


「教えてくれと言われても……我が知ることは既に全て話しておるゆえ、これ以上話すことはないのだが」

「いやいやいや!? いっぱいあるだろ!・」


 現時点で聞いた話は、邪神がこの世界を狙っている。

 だからこの世界の創造神は対策として知識の書を授けた。

 要約するとこれだけだ。


「まだ邪神の名前や、何でこの世界を狙っているかとか何も聞いていないんだけど?」

「名前と目的か……それは我も知らぬ」

「何で!?」

「聞いておらぬからだ」

「普通聞かない?」

「否。聞く必要はない」

「いや、あるでしょ!?」

「何故だ? 我々が成すべきことは我が神の言葉に従うことのみ。相手の名前も目的も関係ないではないか」


 うん。薄々気づいていたけど……こいつポンコツだ。

 上司である創造神に従うだけで、自分の意志を何も持ってないや。

 でも……まぁ確かに邪神の名前もこの世界が狙われている理由も絶対に

 必要な情報ではないのは確かか。


「んじゃさ。その邪神はいつこの世界にやってくるんだ?」


 流石にこれは知らんじゃすまされないだろ。


「それは……貴様次第だ」

「俺……次第?」


 どういうことだ?


「この世界を狙っているにも関わらず、邪神がこの世界に干渉しないのは、我が神がこの世界を見守っているからだ」


 確かこの世界は箱庭で、それぞれの神は箱庭の外で自分の箱庭に干渉されないように見張っているとは聞いた。


「であるから、邪神がこの世界に干渉するには我が神がこの世界から目を離せば良い」

「それのどこが俺次第なんだ?」


 全く関係ないと思うんだが?


「うむ。あそこに祭壇があるのが見えるか?」


 パラディオンが女神像の足元に視線を向ける。

 そこには3つの祭壇がある。

 祭壇のひとつには……知識の書そっくりの本が置かれていた。

 もしかしてあれが知識の書のレプリカか?

 あとでゆっくり見せてもらおうかな。


「知識の書を持つ貴様が、あの祭壇で我が神に祈りを捧げると、貴様の呼び声に応えた我が神がこの世界に降臨する」


 あの祭壇で俺が祈ったら……女神が降臨する?

 女神がこの世界に降臨することで、箱庭を見張る神がいなくなり、邪神がこの世界に干渉できるようになる……と。

 そういうことのようだ。

 ……ゆっくり見せてもらおうと思ったのに、近づき難くなってしまったんだが。


「あれっ? でも創造神って、自分の箱庭への干渉は禁止じゃなかったのか?」

「過度な干渉は禁止なだけで、祈りを捧げた者に、神託を与えるような程度のことは可能だ」


 そういえば、そんなこと説明してたな。


「つまり……逆に言えば俺が祈りを捧げない限り、邪神はこの世界に干渉できないと?」

「それは正しくもあり間違いでもある」

「どういうこと?」

「時が経つにつれ邪神の力は増していくと我が神が申されておった。今は我が神と同格であってもいずれ……」


 この世界の女神の力以上になって、力ずくで干渉してくるかもしれないと。


「それがいつ頃かは……」

「皆目見当もつかぬ」


 ってことのようだ。

 少なくとも知識の書を運営に渡した時点でこの硬直は始まってたんだから、既に数年は経っていることになる。

 そう考えると……それこそ明日でもおかしくないし、100年後かもしれない。


「だが、今すぐ祈りを捧げるのはお薦めせぬ」


 うん。まぁ今すぐする気はない。


「とりあえずカードマスターのレベルはMAXまで上げたいなぁ」

「そうよね。こっちの準備は万全にしときたいね」

「ええ。わたくしも取得したばかりの武芸マスターのレベル上げをしたいです」


 時間が経てば経つほど邪神が強くなることを考えると、早めに祈りを捧げた方がいいのかもしれないが、少なくともこちらの準備は万端にしておきたい。


「それもあるが……まだ足りぬものがある」

「足りないもの?」

「うむ。実は我が神が邪神対策で授けたものは知識の書以外にも後ふたつほどある」

「「「はあああ!?」」」


 ちょっ!? そんな大事なこと何で今頃言ってんの!?


「あっあの祭壇ってもしかして?」


 何かに気づいたようにナビ子が祭壇に目を向ける。

 3つの祭壇のひとつには知識の書のレプリカ……残り2つも祭壇があるじゃないか!?


「うむ。3つ全てを揃えたならば、邪神討伐に大きく近づくであろうな」


 ……それを一番最初に言えっての!!


「それで……その2つって何なんだ?」

「ひとつは……『天運』という神のスキルである」

「て、天運……」

「えええっ!? 天運スキルなの!?」


 まさかこんな所で天運スキルの名前を聞くとは。


「うん? もしや天運スキルを知っておるのか?」

「知ってるっていうか……ここにはいないけど、仲間が持ってるっていうか……」


 天運スキルは同じくプレーヤーのサナが運営から貰ったスキルだ。

 因果律すら変えて、全てが自分の都合の良いように運命が変わっていくスキルで、サナ自身使いこなせず困っていたのだが……邪神対策のスキルってことなら強すぎるってのも納得。

 ってか、知識の書を運営経由で渡したんだから、残りだって同じ経由で渡していてもおかしくないよな。


「じゃあ最後のひとつは改造スキルだったり?」

「でもでも、プレーヤーは10人の予定だったから、来るはずだったプレーヤのスキルかも」

「そうですか。わたくしの疾風迅雷スキルが神のスキルでしたか」


 うん。疾風迅雷はないな。

 っていうか、もし疾風迅雷なら既にパラディオンが言ってるはずだろ。

 後はナビ子の言う通り残りのプレーヤーの可能性もあるし、もうひとりのプレーヤーだったタクミの絶対強者の線もある。

 ……そういえば絶対強者のスキルって強力だったもんな。

 ただ、これに関してはどちらでも問題ない。

 残りのプレーヤーのスキルは運営男がこの世界に持ってきていた100のスキルの中に入っているはずだし、タクミの絶対強者も回収してある。

 どちらもコレクタールールで封印中ではあるが、邪神討伐のためってことなら、一時的にそのスキルだけ封印解除も吝かではない。


「残念だが、残りひとつはスキルではない」


 違うのかよ!?


「最後のひとつはアリアと名乗る少女」

「「アリア?」」


 うん。知らない。


「そのアリアって子は何処のどなたか……」

「我が知るわけなかろう」


 ですよねー!?


「つーか、アリアって名前だけで、この世界の何処かにいる少女を探せってのか!?」

「ぶっちゃけアリアって何処にでもいそうな、ありふれた名前よね」

「そこら辺を探すだけで2、3人はいそうな名前ですね」

「んなの探すの無理じゃねーか!!」


 最後の最後でこんな無理ゲーとかありえねーだろ。

 鈴風の言う通りそこら辺を探してもアリアって名前の少女が見つかりそうだし。

 実際、俺だってアリアって名前に何となく聞き覚えがあるし……ある?


「なぁ。なんか最近アリアって名前を聞かなかったか?」

「えー? あったっけ?」

「わたくしは存じません」


 二人とも聞き覚えはないようだ。

 う~ん。俺の勘違いか。


「シュート。アンタさっきも女神像見て見覚えあるとか言ってたし、ボケてきたんじゃない?」

「ボケってそんな年じゃ……あああああっ!?」

「きゃっ。何よ大声出して。本当にボケ始めた?」

「そんなんじゃない! これだよこれ!」


 俺は図鑑から1枚のカードを取り出す。


「あああああっ!? これっ!?」


 ナビ子も思い出したようだ。


「その絵……わたくしも見覚えがあります」


 どうやら鈴風も見たことがあるらしい。

 そりゃ鈴風はずっと帝都に居たんだから、行っててもおかしくない。

 ……帝都美術館に。


 ――――

 女神の祝福【美術品】レア度:☆☆☆☆☆


 アリア作による戦いと知恵の女神パラス・アテナを描いた一枚。

 ――――


 俺もナビ子も芸術に興味がなくてすっかり忘れていたが。

 帝都美術館に展示されていた、この絵画に描かれた女神の絵と、目の前にある女神像とうり二つだった。

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