第109話 VSパラディオン⑭
「ちょっ!? 武芸マスターって……マスターってことは覚醒スキルよね!? 何でいきなり覚醒しちゃってんのよ!?」
「何でって……そりゃ条件を満たしたからだろ」
俺のカードマスターが知識の書を所持。
エイジの改造マスターが自身の改造。
そして今回の武芸マスターが武芸百般と星5以上の武器の所持。
難易度としては高いのか低いのか。
……まぁ似たりよったりか。
「それよりさ。何でシュートは鈴風が覚醒したって分かったの?」
「いや、知らなかったぞ」
「えっ? シュートは知ってたからセクハラしようとしたんでしょ?」
「セクハラ言うな! ……俺はただ鈴風天翔の説明文に何も書いてなかったから、変化があるなら鈴風自身に何かあったと思っただけだ」
それがまさか覚醒スキルとは思いもしなかったけど。
スキルって能力や心情でかなり左右される。
だから鈴風のテンションは爆上がりだったからハイテンションみたいなスキルでも取得したんじゃないかと思ったんだ。
「……もし仮にハイテンションってスキルがあったとしたら、鈴風よりもシュートの方が先に取得してそうよ」
ごもっともな話で。
……してないよな?
念のため冒険者カードを確認してみるが……うん。
残念ながら何も変わってない。
そんな鈴風はといえば。
俺のアナライズで武芸マスターが事実と確信。
「ふふふっ。この力が覚醒……この力があれば……あははっ。素晴らしい!」
こえーよ!?
本気でハイテンションってスキルを手に入れそうな勢いだ。
「さて、そろそろこの子の試し斬りをしてみますか」
試し斬りの対象は当然あそこで暴れているパラディオンなわけで。
というか、神殺しの薙刀なしでもパラディオンを倒せるようになったんだよな。
もう鈴風が負ける要素はどこにもない。
「……やはりこの子のことが手に取るように分かります」
鈴風はこの場で構えると、魔力を流したのか刀身が光り輝く。
次の瞬間、鈴風の姿が目の前から消える。
――先手必勝!?
ここからパラディオンの場所まで結構距離があるが、そんな遠くまで届くのか?
慌ててパラディオンの方を見ると……パラディオンの後方に鈴風の姿を確認。
これに一番驚いたのは俺ではなく、ばたんきゅー状態のラビットA。
「きゅぴえ!? テレポート!?」
「なっテレポートだと!?」
背後にテレポートするのはラビットAの得意技。
それをソックリ真似したってこと!?
神殺しの薙刀の能力なら理論上テレポートの発動も可能。
鈴風も決闘で何度も見ていたのでイメージも出来ているはず。
だからって、初めてのお試し魔法がテレポートって……いきなり完璧に使いこなしてるじゃねーか。
「これで……終わりです!!」
鈴風が神殺しの薙刀を横に一閃。
パラディオンの身体が上半身と下半身に真っ二つになって地面に崩れ落ちる。
「ちょおおおおっ!? なにしてんの!?」
「鈴風、それやり過ぎだよ!?」
殺しちゃ駄目なんだって!?
「いやあああああ!!? パラディオン様!?」
女王の悲痛な叫びを上げる。
慌ててパラディオンの倒れた場所へ向かおうとするも、人魚姿のため上手く走れず倒れ込む。
「セレン。女王を頼む!」
「うんマスター任せて!」
女王はセレンに任せて俺はパラディオンの倒れた場所へ急ぐ。
今なら回復魔法を使えばまだ間に合うはず。
そう思って回復魔法のカードをカード呼び出しで取り出し、パラディオンが斬られた切断面を…………。
「あれっ?」
切断面がない。
確実に真っ二つになったと思ったのに。
もしかして幻覚でも見た?
いや、うっすらと斬られた形跡はある。
つまり……一旦真っ二つになって倒れた後、上半身と下半身がくっついたと。
「うそぉ……どんだけ凄い再生能力なんだよ!?」
「達人が大根を切った後に、断面をくっつけたら元通りってのは聞いたことあるけど……」
「いやいや、大根と一緒にするなって!?」
再生能力の高さにドン引きである。
一応生きているかも確認。
――意識はないようだが、生きてはいるみたいだ。
「はぁ~。良かった」
俺はその場に座り込む。
と、そこに鈴風が近寄ってくる。
「ちょっと斬った程度でこのドラゴンが死ぬはずないでしょう」
「いやいや。真っ二つはちょっととは言わないから」
「ですが、腕を斬り落とした程度では意識を奪うことは出来ないでしょう?」
「……確かにそうだけどさ」
我を忘れたパラディオンを殺さず大人しくさせるには意識を奪うしかないって考えは理解できる。
だからって真っ二つは心臓に悪すぎるぞ。
「ああ……パラディオン様」
セレンに連れられてやってきた女王はパラディオンが生きていることに安堵し抱きつく。
……そっとしておこう。
「んで、いつになったら起きるんだ?」
「そんなこと知りません」
……だよなぁ。
仕方ない。パラディオンが起きるまで大人しく待つとするか。




