第108話 VSパラディオン⑬
鈴風の4本刀に魔法カードをプラスして合成。
1枚のカードが手元に残る。
俺は残されたカードに書かれた武器名を確認して驚がく。
――うっは。マジかよこれ。
すぐさま図鑑を取り出し内容も確認する。
「ねぇシュート。どうだったの?」
「シュート。早く教えなさい」
ナビ子と鈴風の声が聞こえるが、そんなもの知ったことではない。
「ふふっ。ふふふっ。ふははははは!!」
ふはっ。なんだよこれ。
ありえねーくらいヤバ過ぎんだけど!?
「うわぁ。いきなり高笑いとか流石にキモイわよ」
「ついに壊れましたか」
……ちょっと笑っただけなのに何て言いぐさだ。
「ふふっ。何とでも言うがいいさ」
だが今の俺は最高に機嫌がいい。
少々の暴言で怒ったりしないのさ。
にしてもこれは本当に……ぐふふ。
「うわぁ……」
「…………」
……うん。
暴言は許すけど、何も言わずに後ずさりはガチ過ぎて凹むから辞めてほしい。
だけどさ。
この結果を見たら誰だってこうなると思うんだよな。うん。
俺は二人にも喜びを味わわせてやろうと思い図鑑を……いや、普通に見せるのは面白くない。
……そうだな。
「――力が欲しいか?」
ふふっ。どうだ。
鈴風は絶対こういうネタが好きだろ。
だが……そんな俺の思惑をよそに何故か二人はフリーズ。
……なんか俺がスベったみたいで恥ずかしいから、せめて何か言ってほしい。
「シュート。アンタ何言ってんの?」
「シュート。貴方巫山戯ているのですか?」
「んなっ!?」
まさか素で返されるとは。
「シュートってば自分からネタに走るのは得意じゃないんだから辞めた方がいいよ」
「そのネタは相手が見えず直接脳内に語りかけるから価値があるのです。シュートの間抜け面で言われても面白くありません」
その上ダメ出しまでされるとは。
つーか、間抜け面は酷すぎじゃね?
「……んなこと言うなら、この力をくれてやらねーぞ」
「うわっ!? スベったからってそれはないわー」
「はいはい。力が欲しいです。これで良いですか」
……何だろう。さっきまでテンション高かったのに、マジで凹みそう。
でも、ここまで言われて辞めるのも癪だから、最後まで続ける。
「くくく……力が欲しいか。ならばくれてやる」
「あっ。まだ続けるのね」
「しっ。そっとしておきましょう」
……負けないもん。
まずは武器名を見て驚いて欲しいので、俺は図鑑からカードを取り出して鈴風に手渡す。
「そこは手渡しなんだ」
「だって投げたらカードに傷が付くかもしれないじゃん」
どんな状況でもカードだけは大切に。
鈴風は俺からカードを受け取ると、一瞬大きく目を見開いた後、そのカードをジッと凝視。
カードを持った手が小刻みに震え、くくくと含み笑いを浮かべる。
「くくっ。くふふ……シュート。これマジですか?」
「ああ、マジだ」
うんうん、気持ちはよく分かるぞ。
「あははっ!? シュート。貴方最高です!!」
鈴風が高笑いをしながら俺を褒める。
だよな。そうなるよな!
「ちょっと! 鈴風まで壊れちゃったじゃないの!? シュート。いったい何ができたのさ!!」
「気になる?」
「ウザっ!? 気になるに決まってるでしょうが!!」
「すぐに分かるさ」
「シュート! これ出してもいいですか? 出しますよ!!」
「ああいいぞ」
この武器は鈴風のだから、カードから解放するのは鈴風の役目。
「ふふふ。解放!!」
鈴風はまるでプレゼントを開封している子供のように、嬉しそうに渡したカードを解放する。
「素晴らしい……」
鈴風が恍惚とした表情で呟く。
カードから解放されたのは一振の薙刀。
長さは4本刀よりも心持ち長いか?
刀身部分に関しては一回り大きくなっており、うっすらと虹色に輝いて見える。
「立派な薙刀なのは分かるけど……そんなに凄いの?」
一方、未だに武器名も知らないナビ子は薙刀を見てもそこまで感動せず。
一目見ただけで業物だということは分かるが、流石に性能までは分からないもんなぁ。
「ナビ子、鈴風。その武器の説明をするからこっちへ来い」
カードに記された情報は名前とレア度だけ。
それだけで既に鈴風は新しい武器に心を奪われているが……性能を聞いて更に驚いてもらおう。
――――
神殺しの薙刀【武器】レア度:☆☆☆☆☆☆
神を滅する事の出来る、全てを切り裂く薙刀。
全ての属性に適しており、魔力を流すことによって、刀身にあらゆる属性に付与させることが可能。
付与した属性は任意に放出が可能。
思い描いた魔法を発動させる。
同時に複数の属性を付与することも可能。
武器に認められた者しか、真の力を発揮することは出来ない。
――――
「ちょっ!? 神殺しって……これマジ?」
「マジマジ。なっ、笑えるくらいヤバいだろ」
「うん……シュートがテンション高い理由が分かったわ」
読めば読むほどヤバい内容しか書かれていない。
まず武器名。
神殺しの薙刀……しかもルビが鈴風天翔て。
鈴風の名が冠してある。
一方でうちの神殺しのルビは兎……何故こうも違うのか。
お次はレア度。
武器初の星6。
うちのはレア度なしなのに……この違いは何なのか。
「名前とレア度だけで鈴風のテンションが上がった気持ち分かるわ」
元々愛刀にしていた武器が強化され、更に自分の名前が冠された武器となれば、そりゃあテンション上がるよなぁ。
だけど武器の説明文の内容はもっとヤバい。
「これ……普通の薙刀としても破格だけど、全属性て……」
まずもって神を滅するとか全てを切り裂くとかヤバすぎる一文。
更に全属性対応て。
4本刀を合成だから普通に考えても4属性。
一応おまけで付けた魔法カードが光属性だから、それを加えても5属性。
闇と雷と無属性はどこから生えてきたんだよと。
「そういえばシュート。結局追加の1枚って何入れたの?」
「ああ。テキトーオーの魔法カードだ」
「へっ?」
俺の答えが予想外すぎたのか、アホ面浮かべるナビ子。
「な、何でテキトーオーなの?」
「えっ? だって好きにしろって言われたから……適当過ぎるだろって思って」
「適当すぎるからテキトーオーって、その考えが適当すぎるわよ!!」
「い、いや確かに最初の思い付きはそうだけど、それだけで選んだわけじゃないって」
テキトーオーはどんな環境下でも適度に生活できるようになるという光属性の生命維持魔法だ。
生命維持魔法ではあるものの、水圧にも耐えられるようになるなど、物にだって効果はある。
だから……複数の属性が組み合わさった環境下でも適応する武器ができるのではと考えたわけだ。
結果、全属性対応って予想外すぎる結果になったが。
「まぁテキトーオーが関係あるかは分からんけどね」
「そ、そうよね」
落ち着いたら適当な属性武器で検証してみることにしよう。
「でも全属性対応よりも、次の文の方がヤバいよな」
「そうね。これ完全にラビットファイアの上位互換じゃない?」
完全上位互換ってのは認めたくないが、言わんとしたいことは分かる。
全属性を自由に付与して攻撃できるだけでも強いのに、さらに魔法の発動も可能とか。
例えば火属性を付与させて、ファイアーの魔法をイメージしながら解き放つとファイアーが発動するってことだろ?
しかもジャンルを指定してないってことは、攻撃魔法だけじゃなく、補助魔法や回復魔法を思い浮かべれば、それも発動するんだよな?
ってことはだ。
理論上では全属性の全魔法が使えるってことになるよな。
実際はイメージすることが前提だから、見たことある魔法に限られるだろうけど。
ラビットファイアみたいに弾数を考えずに魔法を発動。
弾の装填とか必要ない分、発動もスムーズ。
……この能力だけで既にラビットファイアの上位互換。
さらにラビットファイアは弾がなくなったら何もできないが、こっちは薙刀の性能だけでも超一流。
さらにさらに、最後に最もヤバい能力が――複属性同時付与がある。
一つの弾に複数の魔法を入れることが出来ない時点でラビットファイアにも出来ない能力。
本当、ここまでされると凄いや嫉妬を通り越してわらけてくる。
「……まぁラビットファイアが何一つ勝ててなくてもいいんだけどね」
「本当? 強がりじゃなくて?」
「ここで強がってどうするよ」
いや、本当。強がりでも何でも無く。
全く悔しくはないんだよなぁ
「だってこんな武器、俺に使いこなせるわけないもん。図鑑に登録できただけで満足さ」
「あ~納得」
下位互換だとしても、俺にはラビットファイアの方がお似合いだってことだ。
「でもさでもさ。最後の一文の『武器に認められた者しか、真の力を発揮することは出来ない』ってのがちょっと気にならない?」
「いや全然」
だって武器に認められたのは鈴風だし。
ちなみにその鈴風なんだが、まるで恋する乙女のように、武器に見惚れたままずっと上の空。
……俺の説明も聞こえてないんだろうなぁ。
「え~? 実はシュートがこの武器に認められた人かもよ」
「冗談でもよしてくれ!!」
いやマジで。
覚醒スキルの有無だけであんなに嫉妬されたんだ。
この武器に認められたのが鈴風でなく俺だとか、ぶっ殺されるじゃすまされんぞ。
「つーか、武器の名前が鈴風天翔なんだぞ。鈴風しかありえねーっての。なぁ鈴風」
俺がそう問いかけると、恍惚とした表情だった鈴風が少しだけ真面目な顔になる。
「……ええ。この子が語りかけてきます。わたくしが所有者だと。この子の使い方も説明を受けずとも手にとるように分かります」
……嘘には思えない。
どうやら本当に武器が鈴風に語りかけているようだ。
良かった……鈴風が所有者で本当に良かった。
「それに……この子を手に取ったからでしょうか。わたくし自身にも力が溢れてくる感覚があります」
「へぇ。身体能力向上の能力もあるのかな?」
……身体能力向上?
そんな能力があるなら、説明文に記載されてると思うが……。
「鈴風……ちょっと失礼」
俺は鈴風の肩に手をかけようとして……バチンッ!?
……手を叩かれた。
「この子を作ったことは感謝しますが、セクハラは許しません」
「シュートさいてー」
「違うっ!? ちょっとアナライズでスキルを確認しようとしただけだ!」
「女性のスキルを覗き込むことはセクハラでは?」
「勝手に盗み見るとかシュートさいてー」
あ~うん。
確かに最低だな。
あやうくアザレアと同類になるところだった。
「じゃあ自分の冒険者カードで確認してみてくれ」
冒険者カードには最新のスキルが表示される。
このシステムだけは本当に凄いと思うよ。
鈴風は自分の懐から冒険者カードを取り出し……フリーズ。
「……シュート。セクハラして構いませんので、わたくしのスキルを確認なさい」
……どうしてこう一言多いのか。
まぁ先程叩かれた時にアナライズは完了しているので図鑑を確認するだけ。
スキル図鑑を新規登録順にソートして……
――――
武芸マスター
武芸百般×星5以上の武器所持
――――
…………鈴風の覚醒条件が開放されたようだ。




